マンション・バリューアップ・アワード
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マンションいい話コンテスト2015年受賞作品発表!たくさんの応募作品の中から心温まる受賞作品をご紹介いたします。再現されたミニドラマも必見です。

マンションいい話ミニドラマ

第1話「チャイムのおと」
第2話「送別会」
第3話「父娘(おやこ)の部屋」
受賞者一覧

グランプリ

集会室での育児

奥村 由布子 様 / 埼玉県さいたま市

準グランプリ

「親」と「理事」と

真砂 俊和 様 / 兵庫県明石市

特別賞(家族のWa賞)

長期滞納者問題が心温まるエピソードに変わったエピソード

上條 有市 様 / 大阪府大阪市

特別賞(感謝のWa賞)

さくら通りのマンションの管理人さん

安田 恵美子 様 / 千葉県松戸市

特別賞(組合のWa賞)

管理組合奮闘記

三ツ井 由里子 様 / 神奈川県藤沢市

特別賞(地域のWa賞)

愛であふれたゴミ置き場

鈴木 そなた 様 / 静岡県静岡市

佳作

  • 小野田 聖子 様 / 東京都墨田区
  • 水原 徹 様 / 東京都八王子市
  • 高橋 佳子 様 / 愛知県名古屋市
  • 伊藤 久美子 様 / 福島県郡山市
  • 秋山 瑞葉 様 / 香川県仲多度郡多度津町
  • 垣内 国亜 様 / 京都府長岡京市
  • 青木 京子 様 / 兵庫県川西市
  • 諸留 由紀子 様 / 大阪府吹田市
  • 奈良岡 沙紀 様 / 福岡県糸島市
  • 須田 均 様 / 東京都練馬区
  • 伊藤 こころ 様 / 東京都新宿区
  • 鎌田 美保 様 / 島根県出雲市
  • 山形 優奈 様 / 横浜市西区
  • 飯塚 有咲 様 / 埼玉県さいたま市
  • 佐々木 恵美 様 / 兵庫県神戸市
  • 来住野 潤一 様 / 神奈川県港北区
  • 井上 文子 様 / 東京都町田市
  • 堀 宗一朗 様 / 大阪府枚方市
UP

受賞作品

グランプリ

集会室での育児

奥村 由布子 様 / 埼玉県さいたま市

14年前の早春。家族3人で新築マンションに入居した。新しい環境に、私は胸を躍らせていた。嘘だ。本当は不安でいっぱいだった。出張が多い夫と、一歳半目前に歩き始めたばかりの長男、そして人見知りの自分。活気あふれる集合住宅の中で、我が家だけが馴染めていない気がした。

そんなある日、玄関のチャイムが鳴った。初めてのお誘いかもしれない。私は嬉しいような、けれど困ったような気持ちでドアを開けた。そこに立っていらしたのは、階下の奥様だった。引っ越しの挨拶をして以来、会話を交わしたことはなかった。その表情から、先方が激怒している様子が伝わった。階下のお宅には受験生がいること、我が家の長男が歩く音がうるさいこと、等々の説明を受けた。玄関を閉め、私は廊下に座り込んでしまった。何も知らない長男が、昼寝から起きて、こちらに向かって来た。 「マッ、マッ、マ」  言葉も遅い彼を、私は思わず抱きしめた。この子に何と説明したら良いのだろう。途方に暮れている私に、彼はニカッと笑顔を見せてくれた。「そうだ、お散歩に行こう」 私たちは、まるで逃げるかのように、外に飛び出した。

翌日も翌々日も、私は長男と外出した。食事は外食で済ませた。初めは楽しそうにしていた子供が、徐々に疲労の表情を浮かべ始めた。仕方なく、ベビーカーの中で昼寝をさせることにした。帰宅は日が暮れてからだったので、夕食の準備も満足にできなかった。不自然な育児をしている気がしたが、再び苦情を受けることの方が恐ろしかった。

半月ほど過ぎた頃。外出の準備をしていると、チャイムが鳴った。私は顔を強ばらせてドアスコープを覗いた。そこにいたのは、お隣のKさんだった。ママの横で、四歳の娘さんが丸い瞳をキラキラさせていた。慣れない仕草でドアを開けた私に、鈴の音のような声が聞こえた。 「あそびたいの」  娘さんの声に、私は耳を疑った。 「え、うちの子と?」  もちろん、という表情で、娘さんが頷いた。けれど、我が家に来てもらうわけにはいかなかった。「日中、お留守みたいだから、気になって」Kさんの優しい声に、私は泣き出しそうになった。「ねえ、集会室に行ってみない?」 心の中の霧が、パアッと晴れた気がした。その存在をすっかり忘れていた、マンションの集会室。私は二つ返事で、身支度をした。

40平方メートルの空間は日当たりが良く、キッチンも完備されていた。利用者が少ないのか、塵ひとつ落ちていない。居住スペースから離れているから、物音や声を出しても迷惑をかけないで済みそうだ。子供たちの遊ぶ様子を安堵の思いで眺めた。そして私は、Kさんに事情を打ち明けることにした。「そんなことだろうと、思っていたのよ」 明るい笑顔に、私はとうとう、涙ぐんでしまった。 「明日から、ここで遊ばせましょう」

Kさんの呼びかけで、集会室に集う親子連れが日毎に増えた。さらに、私たちの動きを知った先輩お母様方が管理組合と交渉して下さったので、集会室の利用料金は大幅に下がった。恵まれた環境の中、私は多くの仲間に助けられて育児の日々を過ごした。二人目の出産前後でさえ、長男に淋しい思いをさせずに済んだ。そして何より、僅かずつではあったが、前向きな母親になれたと思う。

時は流れ、長男は中学三年生になった。勉強と部活に明け暮れ、帰宅するなり、ぐったりと寝てしまう。そんな彼を見守っていると、あの日、階下の奥様がチャイムを押した気持ちも理解できる。現在のお隣さんは、若いご夫婦と可愛らしい赤ちゃんだ。いつもうるさくてすみません、と恐縮される度、ああ、私にはこの配慮が足りなかったのだなあ、と痛感もする。 「いえいえ、ちっとも」  赤ちゃんの顔を覗かせてもらいながら、私は、過ぎし育児の日々を甘く切なく思い返す。 悩んだり、笑ったり、励まし合ったりした。誰かが急病のときには買い物を分担し、長期で留守にする際は、花やペットを預かり合った。そして送別会では、必ず集会室を利用した。決して戻れないだろうあの日々は、私にとって第二の青春であった。 マンションでの生活を通して、私は以前よりも、自分自身を好きになることができた。それは今後の人生において、大切な糧となるだろう。いや、そうしてみせる。絶対に。

【講評】

育児に対して、騒音問題を抱え、途方に暮れた住民のママさんを、マンションに重なり合って暮らす子育て世代の周りのママさんたちが集会室というマンション施設を利用し、共に助け合い、学び、一緒に悩んだり、笑ったり、励まし合ったりと、いつしか大きな家族になるという、マンション内におけるコミュニティの成長が垣間見ることができた点。

加えて、年月が経ち、自分の子供が受験生となり、階下の方と同じ境遇になった時に初めて、騒音に対する周りの方への配慮の大切さを理解することができ、当時を反省するとともに、隣に引っ越してきた子育て世代の住民に対し、お互い様と言える接し方ができたこと、すなわち、マンションライフを通じて人間の成長を遂げると共に、更なるコミュニティを醸成し、すばらしいマンションライフが送られていることが高評価のポイントとなりました。

周りの方々に支えられた、地域とのつながりが支えとなった、という今の日本社会に必要なコミュニティの醸成事例。

UP

準グランプリ

「親」と「理事」と

真砂 俊和 様 / 兵庫県明石市

神戸の郊外に位置する、とある分譲マンション。15名から成る理事会はある問題で頭を悩ましていた。深夜、若者達が敷地内でバイクを乗り回す・大声で騒ぐ・ゴミを散乱させる等といった迷惑行為を連日続けているのである。当然、住民や近隣からも理事会に苦情が殺到している状況。理事達での夜間巡回、所轄警察署への巡回強化依頼といった対策を講じたものの、それらに気付くや否や若者達は蜘蛛の子を散らしたように移動してしまう為、注意すら出来ないまま。

このまま放置することは出来ないと考えた理事長は、ある日の理事会で警備会社との契約及び防犯カメラ導入という対策を提言した。苦渋の決断だった。無論、マンションとしては予期していないコストであり、その額も莫大である。500世帯を超える住民から、そんなことに莫大な資金を投入するのかという反発の声も容易に想像できる。しかし、理事達も現段階では打開策が見出せず、このまま放置することで事件・事故に繋がる危険性がある故、やむを得ないという空気になっていた。理事会も追い詰められていた。長時間に亘った理事会の終了間際、次回理事会にて最終方針を決定することで閉会した。

閉会後、夜遅い時間にある女性理事が理事長宅を訪ねてきた。理事会発足後、初めてのことだったので、戸惑いはしたものの何故か驚きは少なかった。というのも、ここ数回の理事会においてこの女性理事の様子がおかしいのが気になっていたからである。その原因は女性理事からの話ですぐに分かった。

「今問題になっている若者達の中心に私の息子がいます。」女性理事は疲れきった表情で泣き崩れた。理事長は落ち着くの待って、ゆっくりと説明を聞いた。「当初、この問題が上がった時には、既に自分の息子も原因者になっていると察知しました。最近になって高校にも行かなくなり、連日深夜まで友人達と遊んでいるような状況です。その後、毎日のように周囲の方にご迷惑をかけるような行為は止めるよう注意しましたが聞いてくれませんでした。

自分の息子のせいで、住民の皆様にご迷惑をかけ、理事会の皆様にも多大な時間・ご苦労をかけていることに心の底から申し訳なく思っていました。もっと早い時期にお話しすべきだったんですが、どうしても言い出せずにいました。しかし、これから更に莫大な金銭的負担まで強いてしまう事態が目前になり、遅きに失したとは思いつつお話しさせて頂きました。」それまで静かに聞いていた理事長は一言、「辛かったでしょう。話してくれてありがとう。」と言葉をかけた。それを聞いた女性理事はまた涙が零れた。

そして理事長は続けて、「もう一度息子さんとじっくり話し合ってみてくれませんか? お母さんの気持ちをしっかり話せば必ず伝わると思います。」女性理事は静かに頷き、もう一度話し合ってみることを約束して帰っていった。その次の理事会開催直前、女性理事が理事長宅を訪れた。そして、「申し訳ありません。話し合おうと努力したのですが、聞く耳を持ってくれず、何も変えることは出来ませんでした。これ以上勝手なお願いは出来ませんので、今日の理事会で私達親子がご迷惑をお掛けしていることをお話し下さい。私から正直にお詫びさせて頂きます。そして、その後の措置は皆様にお任せします。」と申し訳なさそうに、悔しそうに、情けなさそうに頭を下げた。

その後間もなく理事会が開催。冒頭、理事長が審議スケジュールを変更して役員に話し始めた。「現在最も難題となっている深夜の迷惑行為に関する件について、私から皆さんにお願いがあります。前回理事会後、私の方で様々なことが分かりました。そして、私はもう少し時間を掛ければ必ず解決できると確信しました。そこで、どうか私を信じて詳細を聞かずもう少し時間を頂けないでしょうか。その間に万一何らかの事件・事故が発生した際には、私が責任をもって住民の皆さんに説明しお詫びします。」女性理事は予想していなかった発言にとても驚いたが、必死に表情に出さないようにしていた。一方、理事達は一斉に顔を見合わせた。しかし、それも一瞬のことで、直ぐに、「分かりました。お任せします。」と全会一致の結論となった。皆口には出さなかったが不安はあった。ただ、日頃信頼の厚い理事長の真剣な眼差しを見て、何か考えがあるのだろうと信じた。

その理事会終了後、理事長は女性理事を再度集会室に呼び、話をした。「私はお母さんと息子さんを信じて待つことにしました。理事会席上でもお話ししましたが、御二人は必ず理解し合えるものと確信しています。同じ親としてのお願いです。絶対に諦めないで下さい。もう一度、時間を掛けて向き合ってみて下さい。」諦めかけていた女性理事であったが、理事長の厚情に触れ、もう一度息子と向き合うことを決心した。

数日後、女性理事が理事長を訪ねてきた。「先日、やっと息子と話すことが出来ました。やはり、最初はなかなか聞く耳をもってくれようとはしませんでした。でも、涙を流している母親を初めて見て、驚きながらもちゃんと聞いてくれたようです。それからは私の想いや気持ちを話していたんですが、次第に息子も自分の胸の内を話してくれました。本当は寂しかったと。母一人子一人だった為、幼い頃から我慢ばかりさせていましたし、ここ数年はちゃんと話す時間すら取れずにいました。何故もっと早く気付いてあげられなかったのかと自分を責めるばかりです。これからはもっと近くで彼の成長を見守っていこうと心を新たにすることが出来ました。」涙を流しながら嬉しそうに話す女性理事を見て、理事長の胸は熱くなった。

後日、次の理事会が開催。理事長は落ち着いた表情で、そしてどこか嬉しそうな口ぶりで、「皆さんにご報告があります。勝手なお願いで時間を頂いていた深夜の迷惑行為に関する件ですが、先日解決に至ることが出来ました。故に、本日をもって本議題については審議終了と致します。」と皆の前で説明した。理事達から詳細を問う声はなかった。全員が理事長の気持ちを察したからだ。女性理事は皆が気付かないところで頭を下げていた。

この日の理事会は最近では珍しく予定終了時刻の夜9時を回ったところで閉会となった。理事が一人一人退室し、最後になった女性理事は、書類を整理していた理事長の方を向いて黙って深く頭を下げ、そのまま集会室を後にした。女性理事が集会室を出たことに気付いた理事長がそちらに目を向けると、知らない間に外は雨が降っていた。そこに、女性理事の傍らで傘を差して待っている息子の姿があった。

【講評】

全員参加の管理組合はより良い環境を目指し、話し合い、実践するプラットホーム。そのマンションの理事長が、マンション全体の問題解決を図ることはもちろんのこと、一人のマンション住民である女性理事に対し、真摯に向き合って相談にのり、息子に対して迷惑行為をやめさせることよりも、親子が向き合うことの大切さを教えてくれたこと。そして、そのすばらしい理事長と出会い、自らの人生が変わる、まさに人と人との繋がりから生まれたいい話というところが高評価となりました。

マンションは、人と人とのつながりという観点で、非常に条件がそろっており、この女性理事も管理組合活動に役員として参加していたからこそ、理事長と出会うことができたと思います。同じマンションの屋根の下で生活する上で、困ったときはお互い様という、理事長の温かい心が垣間見ることができました。

UP

特別賞(家族のWa賞)

長期滞納者問題が心温まるエピソードに変わったエピソード

上條 有市 様 / 大阪府大阪市

私はマンション管理会社でフロント業務をしております。マンションで起こる様々な問題や課題を解決するため、理事会に出席しアドバイスをさせていただいております。その中でどのマンションもよく抱える「管理費等の長期滞納者問題」での心温まるエピソードをご紹介させていただきます。

あるマンションでお一人暮らしをされているご老人がいらっしゃいました。このご老人は日頃から管理人と会うと快くあいさつをして下さり、「ちょっと旅行に出かけてきたので」と、お土産を買ってきて下さったり、周りの住人様からも感じの良い方ですね、ととても評判の良い方でした。また、管理費においても入居依頼一度も滞納することがありませんでした。

そんなご老人でしたが、ある時から、ぱったりと姿をみせなくなりました。しばらく時が経って、管理費等の振込が無くなったことに気付きました。滞納者に対しては大変厳しい理事会様でしたので、早い段階から電話連絡やお手紙の投函などしましたが、全く反応がない状態が半年ほど続きました。お一人暮らしということもあり、緊急連絡先の記入もなく、ご親族はいらっしゃらない様子でしたので、困っていました。

滞納者が続いて7か月目のことです。マンションの管理事務所に病院の関係者から連絡が入り、ご老人が病気でお亡くなりになったこと、また、ご親族ではない親しい親友の方の費用でご葬儀を済ませたことが伝えられ、マンションの部屋の鍵を預かってほしいと伝えられました。管理人から相談を受けた私はすぐに理事長様へ報告し、理事長様立会いで鍵をお預かりし、今後の対応を理事会で協議することになりました。

ご親族がいらっしゃるかどうかも分からなかったため、理事会としてはまず弁護士による「相続人調査」をして、相続人を探してその方に請求するか、相続人がいらっしゃらなかった場合は「競売」により管理費等の回収をはかるしか方法がありませんでした。

担当の弁護士による相続人調査をした結果、ご老人には相続人であるたった一人のお子様がいることが判明しました。遠方にお住まいだったこともあり、書面にはなりましたが「ご老人がお亡くなりになったこと」「マンションを相続される場合、滞納されている管理費等を納める必要があること」をお伝えいたしました。

その後、お手紙を受け取ったお子様から弁護士に連絡が入り、マンションを見たいとのお話がありましたので、日程調整を行い理事長様、フロント、管理人と面談することになりました。

予定時刻となり管理事務所でお待ちしていると、30歳代とみられる不安げな表情をされたお子様とそのお母様がいらっしゃいました。部屋内をご覧になる前に管理事務所で事情をうかがうことになりました。そこでお母様からは、お子様が生まれたばかりのときに離婚なさり、その後、一切の連絡を絶っていたことをお聞きしました。女手一つで育て上げたため、大変苦労なさったことは容易に想像でき、お母様は少し恨んでいた様子が受け取られました。

30分ほどお話しした後、お二人に部屋の鍵を渡し、相続されるか、相続放棄されるかをご判断頂くことになりました。プライベートな空間でしたので理事長様、フロント、管理人とも集会室でお待ちすることになりました。1時間ほどして戻ってこられた時に不安そうな表情をされていたお子様が涙を流している様子が見てとれました。お母様も同じく泣いておられました。感じ入ったことがあったのだろうかと思いましたが、初対面だったこともあり深くは聞くことが出来ませんでした。最終的に相続するかどうかよく考えて後日連絡する段取りにとなりました。お別れの際、管理人が思い出したようにご老人からいただいたお土産(「さるぼぼ」というマスコットキャラクターの入ったキーホルダー)を使っていることをお伝えしました。

その後1週間ほどしてお子様とお母様が管理事務所へ来られ、マンションを相続し、滞納している管理費を納めたいとの申し出がありました。仮にお子様が相続放棄された場合、滞納問題が長引くこともありますので、理事長様、フロントとも喜んで申し出を受け取りました。早速ごあいさつに伺ったところ、相続に至った経緯を教えて下さいました。

あの時二人で部屋に入って遺品整理をしたときに、お子様の昔の赤ちゃんの頃の写真が大事そうに飾られているのを発見したそうです。また、管理人が持っていた「さるぼぼのキーホルダー」は当時新婚旅行で行った下呂温泉のマスコットキャラクターだったことが分かりました。

当時、お母様はお子様に対し、ご老人のことを悪く言って育てたそうです。お子様はお母様のすべてを信じていたようで、ご老人に恨みをいただき、会いたくもない人物だと思っておられたそうです。でも、今回の件で自分が深く愛されていたことに気付かされました。お部屋の中では二人で号泣していたそうです。

今回は結果的にこのような展開となり、無事に解決することができました。戸建てにお住まいだと今回のような話はなかったと思うと、マンションっていいな、思いました。今も管理人のキーホルダーには思い出の「さるぼぼ」が付いてます。

【講評】

独居老人による孤立死は大きな社会問題。日ごろからのコミュニケ―ションがいかに大事か、地域とつながっていることがどれほど大事か、だからこその異変に気付き、早期の対応がとれる。また、管理費等滞納問題は、マンション全体の問題に発展するが、それを解決するのも、そこに住まうマンション住民自らであり、管理費を支払う義務は生命をつなぐ権利へ通じてくる。こうした難しい問題を、管理組合を下支えする管理会社と一体となり、解決の方向に向かうという良好な管理組合運営の団結力が高評価となりました。

UP

特別賞(感謝のWa賞)

さくら通りのマンションの管理人さん

安田 恵美子 様 / 千葉県松戸市

私の住むマンションは桜並木の通り沿いに建っています。春にはさくらまつりが開かれ、並木道に出店がずらっと並び、大勢の人たちが集います。桜の季節が終わると新緑、秋には紅葉となり落ち葉が舞います。桜でそれぞれの季節を知り、それぞれの季節を楽しめるこの場所に住んで本当に幸せです。

でも我がマンションの管理人さんは大変です。春には散った桜の花びらその後には花の軸が落ち、秋には落ち葉。ほうきで掃いても掃いてもキリがありません。雨にぬれた桜の花びらや落ち葉はもっとやっかいです。それを管理人の星野さんは11年間も黙々とやってくださっていたのです。

「お宅のマンションの管理人さんは、いつもお掃除熱心にされていますね」とよくご近所の方に言われました。きっとマンションの住人の皆さんも同じだったでしょう。外のお掃除をはじめ、マンションのエントランスから階段、あらゆるところを星野さんは丁寧にお掃除してくださっていました。毎日朝10時半になると我が家のある階の廊下をほうきで掃く音がするので、それで時間がわかるほどの正確さでした。

私の夫は車いすで生活をしているので、いつも主人のことを気にかけてくれ「殿はお元気ですか?」と聞いてくださるので、私が「殿は篭城でござる」と言うと楽しそうに笑っていました。お掃除の他のマンションの管理業務も熱心にされていました。一昨年の大規模改修工事の時も細やかに配慮してくださいました。何を聞いても答えてくださる頼りになる存在でした。何回も私が駐車場で落としたイヤリングも必ず戻って来ました。星野さんが私たちのマンションにいるのは当たり前でした。それがこれからもずっと続くと信じていました。

桜の花がちらほらと咲き始めた今年の3月の終わり、夫から「管理人さんが3月いっぱいで退職されるんだって」と聞きました。ほどなく行われたマンションの懇親会の日、非常階段のところで星野さんが「ヤスダさん、イヤリング落とさないでくださいね!」と笑顔で言いました。懇親会では星野さんから退職の挨拶がありました。「11年間、このマンションのようないい職場に恵まれ幸せでした。もっと仕事を続けていたかったのですが、病気が悪くなり残念です。これが皆さんにお会いする最後になると思います。」星野さんはいつものユニフォーム姿ではなくウールのジャケットを着ていましたが、良くみるとぶかぶかでした。毎日顔を合わせていたのに、私はご病気に全く気づきませんでした、きっと私たち住人に気づかれないようにされていたのでしょう。そこに参加されていた住人の皆さんのほとんどが泣いていました。下の階に住んでいる中学生のお嬢ちゃんも泣いていました。彼女が物心ついた時から星野さんはずっとマンションにいたのですから。私はというと、あまりの悲しさに声をかけられないまま、星野さんはマンションを去っていかれました。

4月になり、新任の管理人さんがやってきました。お会いするとはにかみながら挨拶をしてくださいます。お掃除などはついつい星野さんと比べてしまいますが、「だめだめ!あの方は別格なんだから!」と思い直すのです。星野マネージャーさん、11年間本当に本当にありがとうございました。これからも一生懸命きれいにしてくださったマンションを大切に使っていきます。

【講評】

管理組合が管理会社に委託している管理員業務。その契約範囲はあるものの、住民とのコミュニケーションを大事にし、より住民の皆様が住みやすく、過ごしやすい環境をつくることに一生懸命で、とても細やかな気配りの利く管理員さん。病気で痩せこけてくる中、住民には余計な心配はかけまいというプロ根性もさることながら、その熱心な仕事ぶりから住民より信頼を勝ち取り、いつしかいなくてはならない存在になったというすばらしい人格と、住民からの愛情と感謝の気持ちが感じられた心温まるエピソードが高評価を得ました。

今後のマンション内での見守り者として管理員が果たす役割は大きく、孤立死や児童虐待等、多くの社会問題に対して解決の糸口になる可能性があることも高い評価となりました。

UP

特別賞(組合のWa賞)

管理組合奮闘記

三ツ井 由里子 様 / 神奈川県藤沢市

築三十年を超える団地の購入を決定したのは、価格だけが理由ではありませんでした。もちろん立地と間取りから見て割安でしたし、高価格の物件だったら足踏みをしたことと思います。それでも数ある団地の中からこの物件を選んだ一番の理由は、まだ新しかったここを知っていたからです。私の出身中学のすぐ横にあり、当時は友だちがたくさん住んでいました。新しい団地が物珍しくて、よく遊びに来ていました。当時のいいイメージがあったので、現在の住居を選びました。

ただ、小学校入学の近い娘は喘息持ちで、引っ越した後も夜中に救急に走ること幾度。日々の慌ただしさに取り紛れて、時間はすぐに過ぎてしまいます。住人の高齢化が進んでいる団地では、同じ棟に同じ年頃の子どももいません。階段で挨拶を交わすことはあっても、ご近所の方々と深い交流を持つこともありませんでした。

自治会費の徴収をされたので自治会があるらしいこと、ポスティングされる広報で管理組合があるらしいことを知りました。回覧板の内容も、ちんぷんかんぷん。クリーンデーという行事について張り紙があっても、首を傾げるだけで一年近く経過していました。勇気を出してお隣さんに聞いた所、クリーンデーとは団地の住民による清掃活動とのことでした。驚いて、知ったその回から参加しました。年に六回のこととはいえ、真夏の清掃活動は暑さが厳しく、反対に真冬は凍えるよう。同じ階段の方でも、半数も参加されていませんでした。自分も無知だったとはいえその仲間だったので、文句など言えるはずもありませんが……。

小学一年生になった娘を連れての、秋の清掃活動の時でした。「次は、三ツ井さんの番ですね」 突然、お隣さんに言われました。きょとんとしていると、周りの方々が口々に言われます。「順番を二回飛ばしてあげたんだから、今年こそしてもらわないと」「うちも代わってあげたもの」 何のことかと問いかければ、今年度の委員とのことでした。委員とはなにかすら分からず、またしてもきょとんとしてしまいます。「管理組合と、自治会と、ブロック委員。階段で一人、棟で四人出すのよ」 あれよあれよという間に、私は次年度の管理組合役員になることが決まってしまいました。何をするのか聞いても、会合に行けばいいと言われるばかり。混乱したまま、指定された会合の日になってしまいました。

近来まれに見る、大雪の日でした。雪が珍しい首都圏で、電車もバスも止まるような積もり方をしていました。子どもを夫に頼み、夜の七時に集会所に行きました。足を踏み入れるのも、ほとんど初めてです。知らない方々に頭を下げながら、机の並べられている部屋に入りました。「では、自己紹介から……」 今年度の役員さんたちによる段取りは、一気に吹き飛びました。いきなりの、停電です。カーテンを引いた室内は、真の闇です。驚きによる声があがる中、懐中電灯探しに大わらわ。暗闇をそれで照らしながら、来年度の役職ぎめです。出欠を取ってみたら、なんと半数近くが欠席。事前に提出してあった名簿と照らし合わせながら、いない人の役職をどうするべきかも話し合わなければいけません。この先一年の管理組合の活動が、駄洒落じゃないですがお先真っ暗に思えました。「理事長は、今日来ていない方で推薦したい方がいるんだけど」 突然、六十代ぐらいの男性が大声で発言しました。「前に一緒に施設やったんだけど、適任だと思う。あの人しかいない」 確信を持って語られても、私達の誰もその方を存じておりません。困惑と、自分はしたくない、また決まらないと帰れないという焦りの気持ち。真っ暗と復旧とを繰り返す集会所に、長時間いたい人などいません。ぼそぼそと、同意の声が上がります。「あと自分は、施設をやりたいんだが……」 同じ方の言葉に、あがるまばらな拍手。施設は大変だからなんて言葉が、聞こえます。大変なお仕事を自ら買ってでてくださったのかと、私も拍手をしました。

そこから先は、なかなか決まりません。植栽という仕事がいいなと思って手を上げてみたところ、激戦でじゃんけんに敗れて撃沈。総務や会計という見るからに大物の仕事が残っているので、少しでも簡単そうな仕事を立候補しようかと考えていた時でした。「あなた、若いんだから総務でもやんなさい」 いきなり、女性の声がかかります。貫禄のある年上の女性が、私を指しています。「あ、あの、でもパソコンができないので……」 総務の業務の所には、パソコンができることが好ましいと書かれています。「じゃ、会計でいいわ」 戸惑って左右を見ると、なぜか拍手。それで決まってしまいました。実は私は、計算が苦手です。買い物のレジ計算くらいならできるのですが、万を超える単位を見ると一桁一桁数えないとそれが幾らかも分からないのです。たくさんの数字が並んでいると頭が痛くなる上に、自分の家の電話番号も覚えられません。数字の羅列を、目が滑ってしまうのです。

手のかかる娘がいるので、できるだけ簡単な仕事がしたい。夜間や昼間、突然病院に駆け込むことがあるので、責任のある仕事は難しい。そうした自分の望みは、通りませんでした。ご高齢であること、お身体がお悪いこと、お仕事が忙しいこと。みなさん、さまざまな理由を抱えています。会計が向いていないという理由では、家庭の事情という理由では、断れませんでした。

引き受けたからには、勉強です。今まで読んだことのなかった、過去の管理組合総会の資料に目を通しました。もらってすらいなかった、管理組合規約をもらいました。知らなかったことばかり、思いもしなかったことばかりです。頭の上を飛び交う長期修繕計画という言葉を覚えたり、各規約によって可能なこと不可能なことを知ったり、なにより徴収されていた管理費と修繕積立金の使い道を知ったり。毎日、知ろうと思うと目が回るほどの忙しさでした。各支出の決済や、各理事の承認をもらう書類を回したり、会計士の先生との面談で現状を知ろうと質問したり、書類を持ち帰っての勉強。半年は、あっという間でした。やろうと思った新しい仕事ができない理由が、管理組合は予算主義であるからと知った悔しさ。そもそもの予算立てに参加していないのだから、新しい仕事などできようはずもないのです。来年度こそは自分たちの考えた仕事を実現しようと、次期の予算立てにはなにを組み込もうかと理事の方々と話し合うのにも熱が入ります。

この頃には、知らない同士だった理事の方々とも、絆ができはじめていました。四百世帯近い団地です。今までは、団地内を歩いていても知った顔などほとんどありませんでした。それが、挨拶をしながら歩くようになりました。清掃活動であるクリーンデーも、機材の準備や共用部分の掃除という積極的な形で参加するようになっています。毎回手伝ってくれる娘は、理事の方々に可愛がっていただけるようになりました。本人も、責任のある仕事を負っているのが誇らしいようでした。会計業務の主たる仕事とも言える、管理費や修繕積立金の未納金徴収。私は、これが一番苦手でした。それでも、大事な仕事であることも理解しています。未納金は督促をかけなければ無限に増えていくということを体感し、マメに声をかけていくように気をつけました。三ヶ月の滞納で声をかければ支払えるのに、半年を越えてしまえばとても一括では払えない金額に膨れ上がります。嫌われる仕事だと辛い思いもしましたが、一年で百万円以上の未納金を減らせたのは小さな自慢です。

組合員の方の未納金に督促をかけること、理事たちの行いたいことが予算に入っていないからできないと言わねばならないこと。正直、会計は損な仕事だとも思います。それでも支出の増加を抑え未納金の回収を行い来年度への繰越金を増やすことは、同じ団地に暮らす方々にとって必ず実りあることだと信じました。任期の終わりが近づき、決算資料を作るために走り回る毎日が始まりました。終わりの始まりです。ない頭を絞って、最後の頑張りです。理事長をはじめ、予算立てに頭を悩ませる理事の方々。一年前までの、知らない方々ではありません。一緒に頑張ってきた、同志とも言える方々です。

どうにか迎えた総会は、近来まれにみる荒れっぷりということでした。必ずしも、努力が報われるというものでもないのでしょう。目を三角にして声を上げる方々も、それをなだめようと必死なこちらも、同じ団地の同じ組合員です。どうしてこうなってしまうのかと、哀しい気持ちもありました。

なんとか決をとって終了した総会の、後片付けの時。机を運ぶ私の所に、見知らぬ方がいらっしゃいました。来期の役員の方だったかしらと軽く頭を下げると、その方はおっしゃいました。「一年間、おつかれさまでした」 ぺこりと頭を下げられて、会場を出ていかれました。どうやら、普通の組合員の方だったようです。ふいをつかれて、うっかり泣きそうになりました。隣で椅子を運んでいた理事の方に、どうしたのかと声をかけられます。「今の方が、一年間おつかれさまでしたって」 同じように苦労してきた理事の方も、やはりくしゃっと泣きそうな顔になりました。

管理組合理事によるお疲れさま会は、大いに盛り上がりました。これから毎年、同じ期で忘年会をやろうねと約しました。終わりは物悲しく、みなさんが寂しそうな顔をしていました。最後の仕事だと会計に走り回っていた私は、それをどこか嬉しい気持ちで見ていました。

始まる前は、いかに楽に仕事をするかしか考えていませんでした。こんな風に管理組合漬けになるなんて、考えてもいませんでした。一円のお金にもなりませんが、それでも自分のためになった一年間だと思います。

管理組合の方々と、知り合えたこと。自分の住んでいる団地について、詳しくなれたこと。興味もなかった運営や修繕について、これからも知っていこうと思えたこと。誰かがどうにかしてくれるのではなくて、自分たちの手でどうにかしていくのだと理解したことは、これからの生活に必ず役立つはずです。病ばかりしていた娘も、一年前よりも健康になりました。周りの方々に可愛がっていただいて、元気すら分けて頂いたかのようでした。簡単な一年ではありませんでしたが、この一年のおかげで私はこの団地がもっと好きになりました。次に役員になるであろう十年後には、この団地は自分は、どうなっているのだろうか。不安もありますが、楽しみでもあります。

【講評】

最近では、役員のなり手不足、第三者管理といった外部への委託等が話題となっています。このエピソードは、自らの忙しさを理由に、マンション内の活動に参加してこなかった作者が、一旦役員になった後は、自らのマンションをより良いものへと、切磋琢磨していきます。管理組合活動は、いわば民主主義の学校とも言えます。この管理組合活動で対話を重ねた役員の方々と出会えたこと、自分のマンションについて詳しくなれたこと、運営や修繕等含め、誰かがどうにかしてくれるのではなく、自分たちの手でどうにかしていくのだと理解したことが、これからのマンションが抱える問題を解決するヒントになるエピソードとして高評価となりました。

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特別賞(地域のWa賞)

愛であふれたゴミ置き場

鈴木 そなた 様 / 静岡県静岡市

管理員クボタさんの勤務地は、JRの駅に近く、交通の便にも恵まれた、活気ある住宅地の中に建つ61世帯が暮らす10階建の分譲マンションです。平成20年の新築と同時にこのマンションに配属となったクボタさんは、当時、真新しい建物と同じ、ピカピカの管理員一年生でした。

マンションの外周の掃除を終え、一息つこうと管理員室に向かう途中、クボタさんは、エントランス前の道路を一人の小柄なお婆さんが大きくふくらんだゴミ袋を2つ、右手と左手にそれぞれ引きずるように持ち、今にも倒れそうにゆるゆると歩いている姿を目にしました。マンションの隣の家に住む、イシカワさんのお婆ちゃんでした。クボタさんはすぐに、「たいへんでしょう。私が一つ持ちましょうか」と声をかけました。けれど昔気質で遠慮深いイシカワさんは、「ありがとね。でも大丈夫だよ」とにっこり微笑み、またよちよち歩きの子どものようなスピードで歩き始めます。町内のゴミ置き場は、まだずっと先、ここから400メートル以上はあるでしょうか。クボタさんは、すぐ目の前にあるマンションの入居者専用のゴミ置き場を横目で見ながら、「ここに捨てることができたらお婆ちゃんはどんなにか楽だろう」と、大きなゴミ袋に小さな身体がオマケにくっついているようなイシカワさんの後ろ姿を、ちょっと切ない気持で見送りました。

町内のゴミ収集日は週二回。クボタさんは、それからも何度かゴミ袋を引きずるように運ぶイシカワさんの姿を目にしました。七十代後半のイシカワのお婆ちゃんは、朝早く会社に出勤していく息子さんと二人暮らしですが、ゴミを捨てにいくのは、どうやらお母さんであるイシカワさんの役目のようでした。

ある雨の日、クボタさんは、前の道路をいつものようにパンパンにふくらんだゴミ袋を2つ持ち、傘をあごではさむようにして遠くのゴミ収集場をめざして歩くイシカワさんの姿を見かけました。斜めにさした傘からはみ出た肩はぐっしょりと雨に濡れています。そして運の悪いことに、イシカワのお婆ちゃんは濡れたアスファルトに滑って転んでしまったのです。クボタさんは慌てて駆け寄り、お婆ちゃんを助け起こし、ゴミ袋を持って道路の隅に寄せました。それは想像以上の重さでした。今までしまっていた言葉が、自然とクボタさんの口から出ていました。「イシカワさん、遠くまで歩くのはたいへんだから、この(マンションの)ゴミ置き場を使ってください」 クボタさんは、イシカワさんのお婆ちゃんが答えるより先に、その細い腕からゴミ袋を奪い取ると、マンション専用のゴミ置き場へとまっすぐに歩き、2つの袋を住民たちのゴミの山へと仲間入りさせました。「すいません、すいません」イシカワさんは、何度もクボタさんに頭を下げました。

この雨の日をきっかけに、収集日になるとイシカワさんのゴミをクボタさんが代わりにマンションのゴミ置き場にそっと捨ててあげる、ということが続きました。イシカワさんはその度に、本当に申し訳なさそうな顔でクボタさんに頭を下げます。もちろんクボタさんも、入居者専用のゴミ置き場に隣のイシカワさんのゴミを捨ててはいけないことは十分承知していますから、お婆ちゃんを助けて心晴れ晴れというわけではありません。

クボタさんは、思い切ってそんな胸の内を管理会社の担当社員のサトウくんに打ち明けました。サトウくんは、「よし、わかった。クボタさんがそんなに言うんなら、次の理事会でイシカワさんのお婆ちゃんがマンションのゴミ置き場を使えるように頼んでみよう。ただし役員全員が賛成しなくちゃダメだよ」。いつも息子のように接している20歳以上も年下のサトウくんが、ちょっとたくましく見えた瞬間でした。

そして理事会の翌日。サトウくんは、不安な気持でいっぱいのクボタさんに、ちょっと誇らしげな顔で結果を告げに来ました。「役員6名、全員一致で賛成。もうイシカワさんのお婆ちゃんは堂々とゴミを捨てられるよ」。本当は役員の中の一人が難色を示していたそうですが、サトウくんの「当社のモットーは近隣融和です」の力強い言葉に、「それなら…」と賛成してくれたそうです。

あれから7年、この出来事を知らない新しい入居者の中には、「隣のお婆さんがうちのマンションのゴミ置き場を使っている」と管理員室に苦情を言いにくる人もいるようですが、クボタさんがサトウくんの言葉を借りて「このマンションは近隣融和がモットーなんですよ」と笑顔で説明するとすぐに納得してくれるそうです。そして今日もイシカワのお婆ちゃんは、雨の日も風の日も遠くまで重いゴミ袋を運ぶことなく、心優しい住民さんたちと一緒に、仲良くマンションのゴミ置き場を使っています。

【講評】

管理員の近隣高齢女性に対する配慮、気遣いを契機に、管理会社からの地域融和の必要性を説かれた管理組合役員の理解の下、マンションが地域を助ける存在へとなり、地域コミュニティの形成を図れたことが高評価となりました。マンション住民のみならず、地域もマンションができて本当に良かったと思えるエピソードです。今後の地域コミュニティの形成、地域の見守り役として、マンションが核となる存在になるのではという社会問題解決のヒントになる作品でした。

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審査委員一覧
  氏名 役職
委員長 齊藤 広子 横浜市立大学国際総合科学部 教授
委員 親泊 哲 一般社団法人日本マンション管理士会連合会 会長
委員 川上 湛永 特定非営利活動法人全国マンション管理組合連合会 事務局長
委員 鈴木 克彦 一般社団法人日本マンション学会 副会長
委員 三橋 博巳 一般社団法人マンションライフ継続支援協会 理事長
委員 廣田 信子 マンションコミュニティ研究会 代表
委員 千葉 滋巳 住宅金融支援機構 まちづくり推進部まちづくり業務室 室長
委員 中城 康彦 明海大学不動産学部 学部長
委員 篠原 みち子 弁護士(篠原法律事務所)
委員 宮城 秋治 一級建築士 公益社団法人日本建築家協会関東甲信越支部メンテナンス部会長
委員 山根 弘美 一般社団法人マンション管理業協会 理事長

(敬称略)

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