共通

mainView
オラリオンサイト外観

避難せずマンション内で自活!――行政を説得し電気設備室にペットボトル水も備蓄

「こんな高層マンション、地震がきたら倒れてしまうのではないか…」(ある管理組合理事)。そんな素朴な考えから、オラリオンサイト管理組合が主導して防災計画の策定はスタートしました。管理組合では、災害時にマンション内で自活するための対応策をまとめ、2008(平成20)年5月に「オラリオンサイト大震災対応計画書」を完成。2年前に改訂版をとりまとめ、現在はマニュアル作りに取り組んでいます。

防災・防火

どうすれば自活できる? ライフライン切断時の体制整備

オラリオンサイト備蓄倉庫の内部

同マンション管理組合では、2007年(平成19年)に安全委員会を立ち上げ、防災計画を作る話が出ていましたが、具体的に話が進み始めたのは、冒頭の“ある管理組合理事”の発言があってからだといいます。管理組合ネットワークなどの勉強会を通じ、当マンションが立地する橋本地区(相模原市緑区にある橋本駅を中心に相原・橋本・宮上の3つの地域)では、震度6強までの地震が発生しうる可能性があることを知り、オラリオンサイトはそれに対応できる免震構造となっていることを確認しました。建物が倒壊する心配はないが、内部設備に影響があること、住戸火災が発生する可能性があることが分かりました。

また勉強会と並行し、管理会社に対しマンション内の非常用設備の有無や対応規模などを確認するとともに、行政側に災害時における同マンションの対応内容について問い合わせました。その結果、非常時を想定した設備が整っていること、行政側からも「(オラリオンサイトは建物も強固で設備も整っていることから)災害時に公的避難所を利用せず、敷地内で対応してほしい」との意向を伝えてきたといいます。

そこで安全委員会では、住戸内は耐火構造になっているため被害は部分的になると予想し、管理組合としては①マンション外には避難しない②マンション内で自活することとし、電気・ガス・水道といったライフラインが切断された場合の対応を中心に検討。マンション内で組織を作り、被害を最小限度にとどめる形での自活体制を整備することを目指しました。

住民間のコミュニケーションを円滑にする防災懇親会

オラリオンサイト地下貯水槽横に整備した取水用蛇口と接続ホース

安全委員会が主導して策定した防災計画では、①初動対応②安定期対応―の状況に応じた活動体制と、ライフラインが途絶えたときの生活を想定し、①各戸7日分の食料・3日分の水を準備②4日目からの地下貯水槽による給水活動③住戸焼失世帯の共用棟に設ける避難所への保護―などを定めました。管理組合による対策本部も設置し、下部組織として棟別(4棟)に「番館本部」、棟の4~5フロアを1単位とする「会班」体制を整えました。

さらに対策本部の補佐組織として9班(総括班、情報班、施設班、消火班、救護班、避難誘導班、警備班、生活支援班、防災センター)を設置し、マンション全体に対応。平常時は防災に対する準備活動を行い、災害発生時は対策本部を立ち上げながら、これらの組織を通じて状況を把握していく予定です。「会班」についてもフロア別に各戸の役割分担(毎年変更)を決めており、防災訓練時にはこの役割に基づいて役割確認を行っています。

また、年に1回の頻度で開催している「防災懇親会」を通じ、日々のコミュニケーション作りと防災に関する意見交換を図っています。これについては、住民から「同じフロアの居住者の顔を覚えていい」「気軽に挨拶できるようになった」と好評で、全体の5分の1のフロアで継続的に実施しています。

水の確保は地下貯水槽+各フロアの備蓄ペットボトル

オラリオンサイト各フロア電気設備室に備蓄されているペットボトル

オラリオンサイトは築11年と比較的新しいマンションで、大型貯水槽や緊急ヘリポート、非常用エレベーターなど、すでに各種設備が竣工時に整っています。とくに水については、2棟地下に合計4槽・1,008キロリットル規模の貯水槽があり、通常利用していても500キロリットルを残存しています。災害時にはこの貯水槽の水を活用することにしました。2007(平成19)~2008(平成20)年にかけて、貯水槽からスムーズに給水できるように1棟当たり4つの蛇口と貯水槽をつなぐ接続ホースを整備(上部写真)。取水口の消毒用アルコール、塩素濃度を測る測定器も準備しました。災害時にはここで給水し、利用する予定です。

加えて各フロアの電気設備室に8~10戸分、一日一人3リットルの使用を前提としたペットボトル水を2日分備蓄しています。これは貯水槽から各フロアに水を運搬する際、エレベーターが使用できない場合に備えた対策。電気設備室への備蓄は消防安全上なかなか認められませんでしたが、当時の管理組合理事長が行政側に粘り強く働きかけ、何とか認められることができたといいます。緊急時には、①各戸備蓄分②4日目からの貯水槽③フロア備蓄ペットボトル水―の順番で使用することも定めました。

防災センターに依存せず、自助努力を共通認識に!

オラリオンサイト災害時に使用する棟別確認ボード

この防災計画は2013(平成25)年2月に改訂しました。主な改訂内容としては、①対策本部長代行として副本部長(2人)を新設②臨時駐車場の整備(敷地内空地のナンバリング)―など。2011(平成23)年3月の震災時、対策本部長となる当時の管理組合理事長が不在だったこと、停電のため機械式駐車場が動かなかったことから帰宅した車が入庫待ちで長蛇の列をなしてしまいました。幸いにして副理事長が在宅していたので本部長代理として対策本部を立ち上げることができ、駐車場についても機転を利かせ敷地内空地を駐車場として利用。建物・居住者ともに大きな被害・混乱もなく、防災計画に沿った対応ができた一方、命令系統の代替案やあいまいだった各班の役割範囲など「実際に行動して初めて、何が不足しているかに気付きました」。今回の改訂ではこれら東日本大震災時の反省を盛り込む形で見直しを図っています。

さらに2014(平成26)年1月には警備部会の下に防災委員会を設置し、この委員会の主導で同年5月から新たに防災マニュアル作りに取り組んでいます。防災計画はマンション全体における災害時の準備・行動を取りまとめましたが、東日本大震災を経験し、①総括班の役割で不明瞭な部分があること②警備班の活動範囲や人数の分配の方法③生活支援班の役割となっている棟別の給水分配方法やスケジュール―などの具体的な行動指針が必要との課題が見えてきたことが一因です。

また東日本大震災を機に、同マンションの防災対策について関連団体や教育機関などの見学申し込みが増加したといいます。防災見学会などを通じ意見交流を図りながら、他マンション管理組合の防災活動内容や考慮すべき内容について情報を収集。策定中のマニュアルには、毎年実施している防災訓練後の反省会で挙がってくる項目に加え、①トイレ②生活支援物資の配布③周辺住民が避難してきた際の対応や、女性や子どもの視点に立った備品整備・配慮についても検討する予定です。すでにこれまでの検討会で対策本部から各班へのブレークダウンができたことから、今後は重複項目のすり合わせなどを行っていく方針で、完成にはあと1~2年かかると見込んでいます。

オラリオンサイトには管理会社が常勤する防災センターがありますが、「災害時にフロントや防災センターに依存するのではなく、自分達の身は自分達で守るという気持ちが必要。平常時から防災に対する意識付け、自助努力が不可欠だという共通認識のもと、今後も防災活動を継続していきたい」と管理組合理事や警備部会のメンバーは話します。生きた防災計画にするため、これからも見直しを続けていく方針です。

概要(取材年月:2015年04月)
  • 建物名:オラリオンサイト
  • 所在地:神奈川県相模原市
  • 階数 :地上18~32階建て・4棟
  • 総戸数:878戸
  • 竣工年:2003(平成15)年
  • 管理形態:委託管理
  • 管理会社:大和ライフネクスト(株)
  • 総会開催:毎年5月
  • 役員数 :理事20人、監事2人
  • 役員任期:2年(1年毎に半数改選)