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管理会社が奮闘!組合員間をつなぐ3つのアイデアで修繕積立金の見直しを実現【後編】

初めての大規模修繕工事で修繕積立金の大幅な不足が明らかになった大阪府のマンション。資金不足を解消するには、修繕積立金を2.8倍まで引き上げる必要がありますが、組合員の管理・運営への関心も薄く──。そんなマンションの管理担当となった日本ハウズイング(株)関西事業部大阪北支店の坂本さんは、状況を打破すべく、3つのアイデアを打ち出しました。
前編はこちら

各種イベントその他

子どもが楽しめる工事体験イベントで説明会への参加を促進

試行錯誤して出したアイデアは3つ。

①「子ども向け工事体験会」の実施

②「世代を越えた花火祭り」の開催

③総会開催に向けての「特別招待状」の作成とお届け

 

図2①「子ども向け工事体験会」のターゲットは子育て中の若い世帯です。「社内の営繕担当と『何か参加型のイベントなどできないものか』と検討」したもので、“部分工事”として行った修繕工事の中間検査時に「工事体験」ができるよう立案、招集案内に「必ずお子様もご参加ください」と記載し親子参加を促す一方、着工前資料をマンガ風にアレンジして塗り絵や折り紙を差し込むなど、子どもが楽しめる工夫を散りばめました。

 

具体的には、(1)手のひらサイズの現場説明会資料を配付(2)コーキングガンを使ったシール打設体験(3)ベニヤ板と木枠で作成した壁をペンキで塗装して思い思いの絵を描いてもらうお絵描き体験の3本立てで、「子育て中の若い世帯の参加率はほぼ100%。延べ60名弱ぐらいは参加してくれました。終了時にお菓子入りの小袋などを『ありがとうね』と言いながら手渡したりして、楽しんでもらえたと思います」と好評のうちに終了したそうです。

 

工事体験会の開催は2017年6月。同社からは坂本さんをはじめ営繕担当者、司会を務めた女性スタッフの3名が参加。工事施工会社のサポートもあり、修繕工事の一環としての実施なので持ち出し費用もゼロです。4月の臨時総会から2ヵ月というスピード感のあるイベント実施となりました。

 

工事体験会終了後には、30年間を見据えた大規模修繕工事の資金計画について説明会を開催。「今後必要な工事と、そのシミュレーション費用表を、イベントに参加した子どもの親御さんたちに配付。エレベーター2基分と機械式駐車場の維持費用や、駐車場収入がないなどの課題を明らかにし、2.8倍案の要旨を説明」したそうです。すると、「初めて聞いた」という組合員も多く、意見・異論はほぼなかったといいます。

 

坂本さんは、「これまで向こう30年を見据えた長期修繕計画がなかったので、皆さん、詳細をはじめて知ったというのが実情でした。ただ、修繕積立金の水準(当時で1.5万円超)そのものが低いわけではないので、2.8倍の引き上げには驚きがあったようです」と言います。しかし、“皆さんの資産であるマンションを守っていくため”という説明には理解を示してくれたそうです。

 

「資産として価値を維持したい」と考えるのは当然でしょうし、バリューアップも見込める好立地にあるのに、管理の不備で価値が下がるのは不利益でしかありません。余談ですが、「つい最近、住戸を査定してもらった組合員の方がおっしゃるには、コロナ禍にあっても、若干ではあるものの購入額を上回っていた」そうです。部屋の状態が良好だったということもあるでしょうが、テレワークも通勤通学も便利な都心直結立地というこのマンションの特質を物語るエピソードです。

 

夫婦世帯と子育て世帯をつなぐ花火祭り

4次に打った手は、同年9月、夏が終わるギリギリのタイミングで実施した「世代を超えた花火祭り」です。「子ども向け工事体験会」で定年後の夫婦世帯の参加がなかったことを振り返り、組合員間のコミュニケーション向上を図るために行ったものです。「夫婦世帯の方は、子どもを巣立たせ、お孫さんの面倒をみている場合もあり、子どもの扱いには慣れている」という考えのもと、子どもと高齢世帯で複数のグループを作り、花火を楽しんでもらいました。ドリンクやお菓子を用意し、合間に談笑できる場を設けて賑やかに開催しました。

 

参加者は30世帯数ほどで、子育て世帯はもちろん、狙い通り年配世帯も多数。延べ参加数80人ほどで、「普段顔を合わせない方とも話せてよかった」との声をいただいたそうです。

午後7時にスタートし、1時間ほどで終了。そこから理事会に移行、参加者には冒頭だけ出席いただき、前回同様、シミュレーション費用の内容と修繕積立金引き上げの必要性について説明しました。

 

組合員を総会に“特別ご招待”で、総会出席率90%を達成

坂本さんは、「これらのイベントの実施を通して、集まって説明を聞いてもらえれば納得していただけるという感触をつかむことができた」と話します。そして、3つめの施策として、3月の総会に出席してもらうため『特別招待状』を作成し『お届けする』というアイデアを打ち出します。「最後のひと工夫です。総会出欠届にシルバーの厚紙を使い、『特別招待状 総会へのご招待 当マンションにお住まいの方限定です』として各戸に届けました」。プレミア感を持たせ、総会に足が向くよう組合員に直接響くよう演出したのです。 

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こうした取り組みは見事に奏功し、翌18年3月の総会では出席者28世帯、委任状も含め36名と出席率90%を達成。懸案の修繕積立金の値上げも賛成36名で承認されました。残り4名は当マンション外に住んでおり、結果的には反対なしで可決しました。

 

それまで総会に出席するのは役員のみだったことを思うと、組合員間をつなぐ取り組みで大きく改善することを示す好事例となりました。しかも、修繕積立金の大幅アップを組合員が認め、財政状況も改善したのです。

 

坂本さんは、「修繕積立金が一気に倍増するとなれば大きな反対が出てもおかしくはないのですが、こちらのマンションは、組合員の意識が実はもともと高かったことが大きい」と言います。もちろん、そこに訴えかけられるだけのきちんとした説明を、手順を踏んで実行したからこその成果だったでしょう。現に、「この1年は楽しかった、花火祭りは毎年やってください、などいろいろな声をいただきました」と組合員の心を掴んでいます。

 

次年度以降も、花火祭りは毎年開催することが決定。2020年も9月13日にコロナ対策を万全に行ったうえで開催しました。坂本さんは4月からこのマンションの担当から外れましたが、花火祭りには顔を出したそうです。

 

最後に、修繕積立金の引き上げについて。実際には一気に2.8倍まで引き上げるのではなく、まず倍に引き上げ、その後、段階的に引き上げることが理事会で決まったそうです。2倍に引き上げてから3年経過後に2.3倍に、さらにその3年後に2.8倍にする形に落ち着いており、2021年の4月から2.3倍になる予定です。

 

概要(取材年月:2020年09月)
  • 建物名:─
  • 所在地:大阪府吹田市
  • 階数 :10階建て
  • 総戸数:40戸
  • 竣工年:2003(平成15)年
  • 管理形態:全部委託
  • 管理会社:日本ハウズイング(株)
  • 総会開催:3月
  • 役員数 :4名
  • 役員任期:1年