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ピロティ形式の旧耐震基準マンションが、一度は否決された耐震診断の実施に至るまで

築年数を経た旧耐震基準のマンションを中心に、耐震化が急がれています。しかし、実際はなかなか進まず、その前段階である耐震診断でさえ実施できない、というマンションも数多くあるのが現実です。一度耐震診断が総会で否決されながらも、最終的に全会一致で耐震診断をすることに至ったマンションをご紹介します。

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大井町“ゼームス坂”にある旧耐震基準のマンション

OLYMPUS DIGITAL CAMERAJR大井町駅を出て駅前の商業施設を抜け、昔ながらのアーケードがある商店街を過ぎてふと横を見ると、緩やかな坂道があります。もとは浅間坂(せんげんざか)という急坂であったのを、英国人のゼームス氏が私財を投じて緩やかな坂に改修したことからその名がついた“ゼームス坂”です。駅から徒歩約5分、坂の中腹に佇むマンションは「ゼームス坂パークハウス」。63世帯のマンションです。

 

築48年を迎えたこのマンションでは、2年前に耐震改修工事を終えました。しかし、「ここに至る道のりは遠かった」と、耐震化検討委員会の委員長であり、管理組合の理事長を長く務めていた蕪木さんは言います。耐震改修の前段階である耐震診断が総会で否決されてしまったというのです。今回は、耐震診断に至るまでの経緯をご紹介しましょう。

 

蕪木さんがマンションの耐震性に不安を感じたきっかけは、1995年に起きた阪神淡路大震災でした。被災した家々の映像を見て、驚愕したといいます。そこには崩れた家々、特に全壊してしまったマンションが映っていたのですが、その多くは、ゼームス坂パークハウスと同じく、1階が駐車場になっているピロティ形式のマンションだったのです。

 

圧倒的多数で否決された耐震診断。しかし東日本大震災をきっかけに……

アンケートその年の理事会で、マンションのピロティ部分の補強について検討したものの、結局そのまま立ち消えてしまい、その後、2004年の新潟県中越沖地震、08年の岩手宮城内陸地震など大地震が続き、ますます不安は募っていったといいます。そして10年に、当時の理事会が「耐震診断の実施」を定時総会で提案しましが、賛成わずか4票という圧倒的多数の反対により否決されてしまいました。

 

その時の原因を蕪木さんはこう語ります。「耐震診断に関してみんなに知識がなく、事前の情報共有もできていなかった。“そんなことをやったら大変”“悪い結果が出たら資産価値が下がる”“どのくらいのお金がかかるかわからない”と声を上げる人もいて、みんながそちらになびいてしまったんです」。

 

しかし、その翌年状況が変わりました。東日本大震災です。マンションに目に見える被害はなかったものの、上層階は相当揺れたため、そのことにより住人に危機感が募ったのです。理事会はさっそく品川区に相談。その内容を踏まえてまず手掛けたのは、誰でも関心のある「大地震が来たらどうするか?」という住⼈アンケートでした。

 

「一度否決されたのは、住人に危機感がなかったことが大きかった。地震という自然災害と自分たちの住むマンションを結びつけて考えることで、住人の意識を高めることが大事だと思いました」と蕪木さん。アンケートでは被災時の安否確認や避難の仕方、水や食料をどうするか、などの基本的なことを問いましたが、“それよりもこの建物は大丈夫なんですか?”という声が多数集まり、東日本大震災を契機に住人の意識が高まったのを実感したのです。 

 

 

区の支援事業も活用しながら地道に住人へ周知。満場一致で可決へ!

同じころ、区に対して、理事会などに建築士を派遣してもらえる「耐震化アドバイザー派遣制度」を申請。「うちのマンションは管理会社がしっかりしていて、設計図面などのデータをすべてデジタル化してくれていたんです。アドバイザーの方に図面をCDでお渡しすることができたおかげで、一般論だけでなく、うちのマンション固有の問題点なども指摘してもらえました。図面等のデータ化はその後もとても役に立ったので、ぜひやっておくといいと思います」と蕪木さんはアドバイスしてくれました。

 

さらに、翌年の13年には住人向けの勉強会も開催しました。国土交通省の「マンション耐震化マニュアル」や東京都都市整備局の「マンション耐震化のすすめ」というパンフレット、その他、管理組合独自で「東日本大震災の被害状況とマンションの耐震対策」という資料を作成。事前に住人に配っておきました。

 

事前に関連資料を各戸に配布したうえで開催の案内を出したおかげか、当日は普段の総会よりも多い40名程度の参加がありました。質疑応答も活発に行われ、勉強会は大成功でした。耐震化が住人の共通の関心事となったのです。満を持してその年の定時総会で耐震診断を再提案した理事会。勉強会等準備をしっかりとしたことや、所有者・居住者の意識が前回から変化したこともあり、今回は全会一致で可決しました。

 

「うちのマンションは、賃貸に出ている部屋が3割ほどあり、住人の年齢・職業・居住年数もバラバラ。マンションに対する関心の度合いもそれぞれなので、まずはマンションの耐震化を住人全員の関心事として心に刻み込むことができるかどうかが肝でした」と蕪木さん。そのために、行政の支援制度を活用し、公共性を保ちながら知識をつけていったことも大きかったそうです。その後、ゼームス坂パークハウスでは、耐震化検討委員会が発足し、いよいよ耐震改修工事へと進んでいくのですが、それはまた次回にレポートいたします。

 

To Be Continued.

概要(取材年月:2019年07月)
  • 建物名:ゼームス坂パークハウス
  • 所在地:東京都品川区
  • 階数 :地上10階建て
  • 総戸数:63戸
  • 竣工年:1971(昭和46)年
  • 管理形態:全部委託
  • 管理会社:三菱地所コミュニティ(株)
  • 総会開催:毎年6月
  • 役員数 :10名
  • 役員任期:1年(輪番制、再任は妨げない)