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「2つの老い」を食い止め、団地を活性化!管理会社と協力した2つの取り組み【②住み替え編】

駅から徒歩10分の好立地にある「稲毛海岸三丁目団地」は、建物の老朽化と居住者の高齢化という「2つの老い」と、空き家問題に直面していました。そこで、管理組合と管理会社、地域再生を行うNPO法人がタッグを組んで問題解決にあたっています。若い世代の居住を促進するリノベーション事業を柱の一つに据えて活動していることは、【①リノベーション編】でお伝えした通りです。
今回は、そのリノベーション済みの部屋の内覧会を行った時に浮き彫りとなった課題を解消するための取り組みについてご紹介します。

シニアライフその他

リノベーション物件の内覧会で偶然聞いた声とは……

図2内覧会では、外部からの見学者をはじめ、団地内の居住者も多数参加していました。自分たちの住む団地が、リノベーションによってどのように変わるのか、みなさん興味津々だったのです。その中で、主催者側である管理会社 日本総合住生活株式会社(以下、JS)の担当者がふと気に留めた会話がありました。それは「私の家は5階だから、ずっとは住めないの……」というものでした。

 

稲毛海岸三丁目団地はすべての棟が5階建てですが、エレベーターがありません。隣り合う2戸でひとつの共用階段を利用する、いわゆる階段室型の建物です。高齢になると5階までの上り下りは相当きつく、長くは住めないかもしれない、と言っていたのです。これを受けて、JSは区分所有者を対象にした住み替えニーズに関するアンケート調査を実施しました。結果、「高齢になってからの階段の昇降に不安がある」「一人住まいになったのでもう少しコンパクトに住みたい」「自宅をリフォームしたいが仮住まいの確保や引っ越しが大変そう」といった声を聴くことができたのです。

 

高層階に住む高齢者世帯が低層階に住み替えできるスキーム

図3JSでは、管理組合と協力して住み替え支援事業を推進することにしました。高齢者の階段の昇降問題を考える時、建物のつくりからエレベーターを設置するのは現実的でなく、高齢者世帯に低層階へ移り住んでもらうことが最も着手しやすいものに思えます。そこで、JSが1階の空き家住戸を買い取り、高層階に住んでいる高齢者世帯の住戸と相互に売買をして所有権を移転。1階住戸を高齢者が住みやすいようにリフォームしたあと、高齢者世帯に引っ越してもらい、空いた高層階住戸はJSが若者向けにリノベーションをして賃貸する、というスキームを考えました。

 

この取り組みに参加したのは、3階の住戸に住んでいたAさん世帯(仮名)。高齢のご夫婦と息子さんの3人家族で、80代の両親は足腰が弱く、介助をしないと階段の上り下りができない状態でした。デイサービスなどを利用するにも階段の昇降は必要で、そのたびに息子さんが介助をするというのも限界に近く、いっそ団地を離れてエレベーター付きのマンションを購入するか、と考えていた矢先に今回の提案があったのです。Aさんのアンケート回答を受け取ったJSはすぐに連絡をとり、ヒアリングと説明を実施。家族で相談したAさんは、住み替えを決意しました。

 

JSがあらかじめ買い取っていた1階の空き家住戸は、Aさん家族が所有していた住戸より少し広かったため、若干の差額が出ましたが、無事所有権の移転が完了。1階のリフォームはAさんたちの負担で実施し、その間所有権が移っている元の住戸には、JSから使用貸借(※1)という形でAさんに住み続けてもらいました。通常の住み替えでは、自宅が売れないというリスクも残るため、今回の“交換”という方法のメリットは大きかったのではないでしょうか。

 

これからも団地に長く住み続けてもらうために

写真4現在は、リフォーム済みの1階で暮らすAさん一家。息子さんは「別のマンションを買うことを考えた時、長年住み慣れた場所から両親を引き離すことに戸惑いがありました。引っ越してからは、階段の上り下りの介助負担はもちろん、新居をリフォームしたので日々の生活のストレスが格段に少なくなりました」と言います。

 

また、引越し直前は不安の方が大きかったというお母さんも、「訪問介護を頼むときも、1階なので気が楽になりました。それに、芝生の緑が近くて日当たりがよく、住んでいて気持ちがいい。住み替えができて本当によかったです」とうれしそう。住み替え事業第1弾は大成功です。

 

管理組合では、今後も管理会社であるJSと連携をしながら今回のような住み替えを進めていきたいと考えています。現在は1階の空き家住戸をJSが所有できていない状況のため、第二、第三の住み替えは実施できていないのですが、今後はそれ以外にも自宅をリフォームする際に団地内の空き住戸を仮住まい先として提供するサービスなども検討しているそうです。団地に長く住み続けてもらうためには、家族構成や状態の変化に対応するリフォームや住み替えは必須。管理組合と管理会社が地域のNPO法人と連携をして課題に取り組む活動は、他のマンションでも参考になりそうです。

 

※1)貸主と借主との間で不動産などを無償で貸借すること。

 

⇒ 【①リノベーション編】はこちら

 

 

概要(取材年月:2020年10月)
  • 建物名:稲毛海岸三丁目団地
  • 所在地:千葉市美浜区
  • 階数 :27棟・5階建て
  • 総戸数:768戸
  • 竣工年:1968(昭和43)年
  • 管理形態:一部委託
  • 管理会社:日本総合住生活(株)
  • 総会開催:─
  • 役員数 :─
  • 役員任期:─