共通

mainView
コミュニティホール1F「日曜喫茶」④

「2つの高齢化」に備えていち早く動きはじめた、管理組合法人による卓越のマネジメント術【後編】

マンションにおける「2つの高齢化」を予見し、早くからその対策に動き始めた京都の西京極大門ハイツ管理組合法人。グループホーム建設構想と独自のリバースモーゲージ制度の構築により、住人と建物の老いに対応しています。住人の高齢化への対応策を紹介した前編に続き、後編では、建物の老朽化対策のための、独創的な運営法をご紹介します。

シニアライフその他

築41年、郊外型マンションが取り組む「2つの高齢化」対策とは?

「西京極大門ハイツ」裏手④昭和51年竣工の西京極大門ハイツは、一見、どこにでもあるごく普通の郊外型マンションです。しかし、築40年を超えた現在も、住戸販売の話がでると相場を上回る価格で買手がついていきます。歳月を経ても人気を集め続ける理由は、管理組合法人による独自の取り組みにありました。

 

西京極大門ハイツでは、竣工から11年目の昭和62年に管理組合法人を立ち上げ、独自の管理・運営を行っています。なかでも特徴的なのは、人と建物の高齢化対策を目的に、グループホーム建設構想に基づく「リバースモーゲージ制度」を構築している点です。住人の高齢化対策への仕組みづくりをいち早く進めてきたことは前編でご紹介した通りですが、それと同時に、将来の建替えを視野に入れた、資産価値の維持向上に関する検討も行っていました。

 

管理組合法人ならではの資産形成により、建替えのための費用を工面

通常、建物の高齢化には設備の更新や大規模修繕などで対応しますが、最終的には建替えが必要となります。賃貸マンションであればオーナーの一存で建替えることができますが、区分所有建物の場合は“建替え決議”という区分所有者の5分の4以上の合意が必要となり、これを取りまとめるのは並大抵のことではありません。また、最大のネックである費用負担の問題は、対応を誤れば、建替え派と現状維持派の対立を生みかねません。

 

この対策として西京極大門ハイツ管理組合法人が打ち出したのが、マンションの敷地に隣接する土地や住戸の購入と活用でした。「いつかは分からないが、いつか来る建替えに向けて資金を積み立てていく」というのが一般的ですが、これについて理事長の佐藤さんは、「現実的には困難を伴うし、実際に建替えが必要になったときに必要金額まで積み上がっているか分からない。ならば不動産を保有してそのときに備えたほうがいい。仮にこの地域の容積率 200%分の用地を持つことができれば、単純に床面積を現行の2倍にできる可能性があります。その増床分を第三者に売却あるいは等価交換をすれば、住人の追加負担なしで建替えが実現できます」といいます。

 

マンションの管理組合が周辺の土地を買収することは非常に特殊なことですが、増床による資金回収を前提にした「住人追加負担ゼロ」のスキームであれば、建替え決議を含む円滑な合意形成がより現実的なことになります。追加負担なしに建物が新しくなり、最新住戸に入居できるとなれば、反対する人はまずいないでしょう。西京極大門ハイツの住人満足度の高さと人気の理由がここにあります。

 

「住人追加負担ゼロ」スキーム実行のため“特別会計”を新設

「西京極大門ハイツ」正面①さらに、西京極大門ハイツではこれらを実行するために特別会計を設置しました。平成17年に管理規約を一部改正し、翌18年に設置したこの特別会計では、「3億5,000万円を限度に予算計上できる」旨を盛り込んだ運用細則を作成。土地や住宅の購入にあてるとともに、グループホーム向けリバースモーゲージである“住人への貸し付け基金”としても活用できるようにしました。リバースモーゲージと建替え準備は、西京極大門ハイツにとって表裏一体なのです。

 

不思議なもので、ちょうど特別会計を設置したころ、マンションの隣にあった3階建てのスーパーから土地・建物の買い受け依頼の話が舞い込みました。管理組合法人ではこれをすぐに購入し、徐々に改修。現在では住人たちの様々な活動の場となるコミュニティホールとしてフル稼働しています。さらにその東側の平屋建て建物も購入し、店舗として貸し出し、特別会計収益の約16%にあたる事業利益を計上しています。

 

佐藤さんによると、「管理組合は資産管理の役割も担っているため、いかにマンション全体の資産価値を高めることができるかを考える必要がある」といいます。これは建替えを考慮した合意形成とリバースモーゲージの生命線でもある担保価値の維持に取り組んできたからこそ固まった理念であるのは間違いないところです。

 

地域に開かれたコミュニティ活動で、居住者の平均年齢が若返った!?

コミュニティホール2F「カンガルー文庫」②こうした独自の制度以外に、住人によるコミュニティ活動も盛んです。主にコミュニティホールがその活動舞台になっており、未就学児を対象に絵本の無償貸し出しを行う「カンガルー文庫」や、20名ほどの住人スタッフで運営する「日曜喫茶」など、住人だけでなく地域に開かれた展開に特徴があります。管理組合法人の傘下組織として平成6年に設置したコミュニティ委員会が積極的に続けている取り組みで、累計支出は2,000万円を超えています。

 

興味深いのは、「日曜喫茶」「カンガルー文庫」なども、マンションの資産価値向上にひと役買っている点です。過去5年間の住戸の売買事例をみると、新しく西京極大門ハイツに入居してきた世帯のうち、実に8割がマンションを中心とする半径5㎞圏内に居住していた人たちで、しかも子育て世代がほとんどだといいます。「日曜喫茶」や「カンガルー文庫」を利用して、マンションの環境やある程度の内実を知ったうえで住戸を購入し、入居するケースが多いのです。事実、居住者の平均年齢は低下しており、築40年超のマンションであるにもかかわらず、平均年齢は49歳。京都市の平均と同水準まで若返っています。

 

こうした西京極大門ハイツの取り組みは高い評価を受けており、平成22年には、分譲マンションの管理状況を評価・格付けするNPO京都マンション管理評価機構から「先進的な管理を実践。将来を見据えたマネジメントを展開している」として優良評価を得たほか、平成23年、27年には京都市の「京都環境賞 市民活動賞」「京都環境賞 本賞」を受賞しています。

概要(取材年月:2017年11月)
  • 建物名:西京極大門ハイツ
  • 所在地:京都市右京区
  • 階数 :7階建て
  • 総戸数:190戸(4棟)
  • 竣工年:1976(昭和51)年築
  • 管理形態:自主管理
  • 管理会社:─
  • 総会開催:毎年5月
  • 役員数 :理事3~5名、監事2名
  • 役員任期:1年