よみがえったマンション――住民の強い思いで実現した、建替え(下)
構想から10年強を経て、居住者の熱意と努力、さらには企業・地域・制度の後押しを受け、建替えを実現した「オーベルグランディオ萩中」。建替え計画では既存世帯の負担軽減だけでなく、建替え後の円滑なコミュニティー形成、資産価値向上を視野に入れていました。管理組合ではその成果とこれまでの経験をもとに、今年1年かけて次の30年を見据えた長期計画を策定していく予定です。そこで今回は、建替え後の管理組合の活動や入居後の住民の様子などをお伝えします(6月1日更新の前々回は建替えに至る経緯、6月15日更新の前回は工事見学会や建替え組合の奔走などを紹介しています)。
床面積の増加で、既存入居者の負担経費を軽く
今回の建替え事業の総事業費は110億円、増床負担は平均1,200万円(設定は1,500万円)となりました。また地元町内会や近隣住民の承認を受け、市街地環境の整備改善を条件とした緩和制度が適用されたことで、容積率が200%から240.11%に拡大し、従来の戸数も368戸から534戸に拡大。これにより一般分譲できる床面積が増加し、既存入居者の建替え費用の軽減化を実現しました。既存世帯から新マンションを取得したのは298戸で、一般分譲分についても売り出し10カ月後には完売したのです。
管理組合では建替え決議成立後の2003(平成15)年11月に「マンション建替え円滑化法」に基づき建替組合を設立し、2004(平成16)年2月に区分所有者の権利変更を含んだ建替え計画の認可を受けました。これによりすぐに解体工事~本体工事(同年6月)がスタートし、1年9カ月後に竣工。その間に新管理組合規約を策定するとともに、建替組合によるマンションの引渡しと同組合の解散、竣工した2006(平成18)年7月までに清算総会と事業完了報告を行いました。当時の管理組合理事長は「(1991年の)検討開始のころは権利変換方式など考えも及びませんでした。時間はかかりましたが、萩中住宅は等価交換方式ではない建替え事例として先鞭をつけたのではないでしょうか」と振り返ります。
建物も居住者も若返った!
建替え後、同マンションは大きく変化しました。単純な戸数拡大に加え、若年層の新規入居世帯が増加したことで年平均30人の新生児が同マンションで誕生。その結果、現在は旧萩中住宅竣工当時の世代構成に戻り、近隣小学校のクラス数も増加に転じました。一般開放している敷地内の庭・通路は、登下校やマンションに遊びに来る子供達でいつも賑わっています。分譲当初から入居する居住者からは「マンション全体が若返り賑やかになった」と喜ぶ声が多く、また近隣商店会も「街が活気づいてありがたい」と竣工時にはお祝いの垂れ幕を掲げ歓迎しました。
管理組合では旧所有者と新規入居者との融和にも尽力しました。マンション自治会と連携し、まずは「あいさつ運動」からスタート。エントランスやエレベーター、ラウンジなどで顔を合わすときに「おはよう」「こんにちは」と積極的に声を掛けているうちに顔なじみになり、自然と会話が弾むようになっていきました。現在では自治会が主催する運動会やもちつき大会、お祭りなどの年次行事に多くの居住者が参加しています。また建替え時にパーティー・集会室やカラオケルームなど共用施設を拡充したこともあり、居住者によるサークルやクラブ活動も活発で、毎日スケジュールが埋まるほど。これら施設も一般開放していることから、町内会や近隣住民の利用も年々増加しています。
資産価値を維持する努力も欠かせません。建替え計画では国土交通省の「優良建築物等整備事業」(21世紀都市居住緊急促進事業)の助成制度を活用し、建築構造部分の耐久性向上や共用・専有部分のバリアフリー化、敷地内緑化を実施しました。竣工後は定期点検を通じこれら設備の維持管理を行っています。居住者向けにはコンシェルジュ付きのマンションフロントや常勤体制による防災センター(6人、常時2人体制)も完備し、24時間365日体制で居住者の安全・安心を保持しています。立地に加え、これら付加価値の高さが評価され入居後の定着率は確実に向上しました。
さらなる整備で、もっと安心して住めるマンションに
2015年、同マンションも築10年目に入りました。ハード面の対応は国土交通省や管理会社のガイドラインを含め計画的に進めるとともに、プラスアルファの修繕工事については旧萩中住宅の設備状況を踏まえ、これまでも積極的に実施しています。また高齢化によるスラム化等を防ぐため、過去のいきさつを新規入居者にも知ってもらう必要性から入居時に配布する「住まいの栞」「防災マニュアル」とともに、同マンションの建替え事業を取りまとめた冊子を渡しています。
とくに今年は5年毎の長期修繕計画の見直し時期で、手始めとして修繕積立金も改定済み。この建替え事業の経験から生まれた「将来必要となる修繕工事を後回しにしないことが、居住者が安心して暮らせる住環境の整備と資産価値向上につながる」という考えに基づき、今後1年をかけて計画を見直していく予定です。
- 建物名:オーベルグランディオ萩中
- 所在地:東京都大田区
- 階数 :18階建て、2棟(A~D棟+共用施設1棟)
- 総戸数:534戸
- 竣工年:2006(平成18)年
- 管理形態:委託管理
- 管理会社:大成有楽不動産(株)
- 総会開催:毎年6月
- 役員数 :理事10人、監事2人
- 役員任期:2年(1年毎に半数改選)