防災は日々のコミュニケーションから――テーマを決めた防災訓練を毎年実施!
新しいマンションに入居してすぐは、なかなか本格的な管理組合の活動ができないもの。まず組合の業務やマンションのルールを把握することから始め、その後は日々の業務にも追われることもあり、防災への取り組みは後回しにされがちなのが実情です。「ライオンズ湘南藤沢グランフォート」は、2010(平成22)年に新築されました。入居者は同年12月に引越し、その直後、東日本大震災を経験。防災意識の高まった管理組合の防災訓練に関する取り組みをレポートします。
きっかけは東日本大震災。1年目から防災訓練を計画!
神奈川県藤沢市にある「ライオンズ湘南藤沢グランフォート」は、総戸数144戸の大規模マンションです。今年で5期目を迎えるこのマンションの管理組合では、1年目から防災訓練を始め、今年からは新たに防災委員会も立ち上げました。
なぜそれほどまでに居住者の防災に対する意識が高いかというと、そのきっかけは東日本大震災にあります。2010(平成22)年12月に入居したこのマンション。その3か月後に訪れたのが東日本大震災でした。被害はなかったものの計画停電に合うなど、地震の恐ろしさを目の当たりにし、マンションにおける防災の必要性を皆が強く感じたといいます。
そこで、1年目から防災訓練を計画。住民同士の顔合わせや規約の見直しなどの業務に追われて忙しく、準備期間が取れなかったこともあって、まずはマンションの共用部分にあるAEDの講習、2年目には同じく消火器の講習を行いました。防災訓練というよりは、まずお互いのコミュニケーションを良くすることに注力しました。
2年が任期の役員は、次回の防災訓練に起震車を利用した訓練を提案。次の理事たちに申し送りをしたため、3・4期の理事は10か月前には起震車要請の申込みをしました。第3回の訓練では、起震車体験のほかに参加者全員でワークショップを行いました。実際にこのマンションで地震が起こったことを想定して何が必要か、何をすればいいか具体的に意見を出し合ったのです。
また、3期目は『震災対応マニュアル』の作成も行いました。管理会社がマニュアルの元を提供し、約1年かけてカスタマイズしました。このマニュアルの作成には、防災ワークショップで出た意見がフィードバックされています。
実際に動いてわかった課題を次回のテーマに!
さて、第4回となる昨年10月の防災訓練は、テーマを「自立」と定め、出来上がった『震災対応マニュアル』を基にした訓練となりました。まずは、70世帯程度集まった参加者を「情報」、「救出・救護」、「安全」、「物資」の4つのチームに分け、参加者自身にマンション内を動き回ってもらうことで、より実践的な内容を全員に体感してもらうことが狙いです。
例えば居住者の安否確認をする情報チームでは、玄関扉に貼った防災マグネットを担当者だけが確認に回るのではなく、チーム全員がマンション内を一件ずつ回って確認しました。建物被害の確認をする安全チームもあらかじめ各所に設置した建物被害を想定した紙を全員で見つけ、被害状況の確認をしました。
全ての訓練を終えるとチームごとに訓練の振り返りと課題のまとめを行い、さらに震災対策本部に集まって全体でその内容を共有。その中で、様々な課題が見つかりました。例えば、実際にマンション内を一周してみて、建物の構造が意外に複雑なことに気づいたり、もし震災で階段が崩壊するとたどり着けなくなったりする場所があることがわかりました。
また、小さな子供のいるファミリー世帯が多いことから、「子供も一緒に訓練に参加しましたが、宝探しのようで面白かった」という感想があった一方で、「子供を連れて回るのは大変、子供がいる世帯の震災時の役割を決めるべき」などの意見も出ました。
今年から防災委員会が発足。管理会社との連携もカギ
管理組合では、その後組合の下部組織として今年、防災委員会を組織。理事会から数名とその他は立候補者を募りましたが、1・2期、3・4期それぞれの理事たち、また理事経験はないものの防災の知識を持った人などがバランスよく集まり、計11名で始動しました。
今後は、防災訓練をはじめマンションの防災に関わる全てを防災委員会が担います。次回の防災訓練では、「第4回の訓練で出た課題を汲んだものにしたい」と防災委員の1人は言います。
また、このマンションの防災に関しては、管理会社の果たした役割も小さくありませんでした。防災訓練のテーマの提案や震災対策マニュアルづくりなど、「8割は管理会社のおかげ」という人もいました。防災訓練の際は、事前の準備を管理会社が担い、訓練当日は管理会社がいないという想定で行ったそうです。
「これまでは、管理組合の仕事が煩雑で防災に注力できなかったが、防災委員会ができたことで、これまでより多い人数で防災について考えることができるので期待しています」と、今期の理事が言います。さらに、「防災は日々のコミュニケーションから始まると思うので、普段から挨拶をしたり飲みに行ったりしてコミュニケーションをとるようにしています。シニア層の方も一定数いるので、何かあった時にマンション内で助け合えるよう、若い世代ががんばっていきたい」と防災委員の1人が語ってくれました。
- 建物名:ライオンズ湘南藤沢グランフォート
- 所在地:神奈川県藤沢市
- 階数 :8階建て
- 総戸数:144戸
- 竣工年:2010(平成22)年
- 管理形態:全部委託
- 管理会社:(株)大京アステージ
- 総会開催:毎年1月
- 役員数 :12名
- 役員任期:2年