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  • 2014.10.01掲載

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マンション管理の法律基礎知識

弁護士 渡辺 晋

第6 被災マンション法

区分所有法には、復旧と建替えの定めがあり、災害によりマンションの一部が滅失した場合は、再建のために同法に基づく復旧ないし建替えの手法を利用することができます。
これに対し、災害によってマンションの全部が滅失して建物が存在しなくなった場合、区分所有者間には、建物の権利を通じたつながりがなくなります。敷地の共有・準共有の関係が残るだけなので、区分所有法が適用されず、再建は敷地という共用物を変更するものとして、全員の合意がなければ進められません(民法251条)。しかし、全員合意による再建は、現実的には極めて困難です(区分所有者が多数になると、不可能といってもよい)。

そのため、阪神・淡路大震災の後、被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法(被災マンション法)が制定され、政令で指定された災害(政令指定災害)で区分所有建物全部が滅失したときは、敷地共有者等の議決権の5分の4以上の多数決でその敷地に建物の再築を決議すること(再建決議)ができるとされました(被災マンション法4条1項)。

また、全部滅失となってしまった場合に建物再築ではなく、敷地を売却し、売却代金で新たな生活の場を築いていこうと考えることも、自然なことです。そのため、敷地共有者等の議決権の5分の4以上の多数で、敷地共有持分等に係る土地を売却する旨の決議(敷地売却決議)をすることができるという定めもできました(同法5条1項)。

さらに、全部滅失に至らない場合にも災害で重大な被害を受け、深刻な事態が生じることもあります。東日本大震災では、全部滅失のマンションはなかったものの、多数のマンションが一部滅失によって、極めて深刻な被害を受けました。そこで、同法においては一部滅失のうち、大規模な一部滅失(大規模滅失)(注*15)の場合には、建物取壊し(同法11条)、建物取壊し・敷地売却(同法10条)、あるいは建物・敷地売却(同法9条)のいずれかの決議をすることができることも規定されています。

注*15 大規模一部滅失は、建物の価格の2分の1を超える部分が滅失した場合である(区分所有法61条1項・5項参照)。

被災マンションの再建
 区分所有法被災マンション法
(政令指定災害により被災した場合)
滅失していない場合
注*16
建替え決議(62条)-



小規模 復旧決議(61条3項)-
大規模復旧決議(61条5項)①建物取壊し決議(11条)
②建物取壊し・敷地売却決議(10条)
③建物・敷地売却決議(9条)
全部滅失
-
注*17
①再建決議(4条)
②敷地売却決議(5条)
注*16 政令指定災害による滅失という特殊なケースではなく、一般的に耐震性能が不十分と判断されるマンションにおいて敷地を売却するための制度として、改正建替え円滑化法によるマンション敷地売却制度が設けられている。第5で説明しているとおりである。

注*17
 全部滅失は区分所有法の適用外である。

第7 耐震改修促進法

建物を建築するには、建築確認を経なければなりません(建築基準法6条1項)。建築確認の基準には、旧耐震基準と新耐震基準があります。新耐震基準は、昭和56年6月以降の建築確認で適用されている基準、旧耐震基準はこれより前の建築確認に適用されていた基準です(注*18)。昭和53年の宮城県沖地震と伊豆大島近海地震で建築物に甚大な被害が発生したことから、昭和55年に建築基準法施行令が改正されて新耐震基準が設けられました。

注*18 一般的には、旧耐震基準は震度5強程度の揺れでも建物が倒壊しない構造の基準、新耐震基準は、震度6強~7程度の揺れでも倒壊しない構造の基準といわれている。国土交通省のウェブページには、中規模の地震動でほとんど損傷しないことの検証(部材の各部に働く力≦許容応力度)を行うのが一次設計、大規模の地震動で倒壊・崩壊しないことの検証(保有水平耐力比Qu/Qun≧1)を行うのが二次設計であり、一次設計が旧耐震基準、二次設計が新耐震基準で直接検証する部分という説明がなされている。

ところで、阪神・淡路大震災では、新耐震基準に則った建物はほとんどが軽微な被害にとどまっていたのに対し、全壊・半壊した建物の多くが新耐震基準を満たさない建物でした。このことは、旧耐震基準の建物を新耐震基準に合致したものに改修することが、建物の安全性を確保するために有効であることを示します。そこで、旧耐震基準で設計された建物の耐震改修を促進し、地震に対する建物の安全性を向上させるために、建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)が制定されました(平成7年12月施行)。その後、同法はさらなる建物の安全性に対する意識の高まりに応じて、平成17年10月、平成25年5月に改正されています(注*19)。

注*19 平成17年10月の改正内容は、①計画的な耐震化の促進、②建物に対する指導の強化、③支援措置の拡充であり、平成25年5月の改正内容は、①指定を受けた建物についての耐震診断の義務付け、 ②全ての建物の耐震化の推進、③耐震改修計画の認定制度の拡大、④新たな認定制度の創設である。

平成25年5月改正による新たな認定制度の下では、地震に対する安全性に係る認定を受けた建築物の所有者は、建物等にその旨を表示することができるようになり、加えて、認定を受けたマンションについて、区分所有者および議決権の各過半数の集会の決議により耐震改修を行うことができるようになっています。


耐震性が十分でないマンションについての特例
 一般のマンション耐震性が十分でないマンション




形状・効用の著しい変更を伴わないもの集会の普通決議 (区分所有法18条1項)
それ以外区分所有者の頭数および議決権の各4分の3以上の賛成
(区分所有法17条1項本文)
(平成25年耐震改修促進法改正による措置)
認定を受けたマンションでは、集会の普通決議
(耐震改修促進法25条)
建替え建替え決議
区分所有者の頭数および議決権の各5分の4以上の賛成
(区分所有法62条1項)
(+改正後の建替え円滑化法の建替組合による建替事業)
(平成26年建替え円滑化法改正による措置)
認定を受けたマンションでは、5分の4以上の賛成でマンション・敷地売却決議が可能
(改正後の建替え円滑化法108条)
(容積率緩和の特例もある、改正後の建替え円滑化法105条)
取壊し・売却 (住替え)民法の原則
(民法251条のとおり)
全員の同意必要
Profile
渡辺 晋(Susumu Watanabe)

1956 年 東京都生まれ
1980 年 一橋大学法学部卒業。同年、三菱地所(株)入社
1985 年 三菱地所住宅販売㈱出向
1989 年 司法試験合格
1990 年 三菱地所㈱退社
1992 年 弁護士登録(第一東京弁護士会所属)
2008 年~ 国土交通大学校講師
2010 年~2013年 最高裁判所司法研修所民事弁護教官
2013 年~ 司法試験考査委員
2014 年~ 司法試験予備試験考査委員

現在、山下・渡辺法律事務所所属

【著 書】
『最新 区分所有法の解説』
『最新 借地借家法の解説』
『最新 マンション標準管理規約の解説』(以上住宅新報社刊)
『不動産取引における瑕疵担保責任と説明義務』(大成出版社刊)
『ビル事業判例の研究』((社)日本ビルヂング協会連合会ほか刊)
『宅地建物取引業における犯罪収益移転防止のためのハンドブック』
((社)不動産流通近代化センターほか刊)
『最新ビルマネジメントの法律実務』(ぎょうせい刊)
『これ以上やさしく書けない不動産の証券化』(PHP 研究所刊)