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「互近助」ネットワークで、災害時の「死者ゼロ」を目指す管理組合の取り組み【共助編】

「死者ゼロ」をスローガンに、「逃げる防災」から「いのちを守る防災」へ舵を切った昭島つつじが丘ハイツ北住宅団地。前回は柱としている「自助の啓発」についてお伝えしました。今回のテーマは「共助」。お互いに近くで助け合う「互近助(ごきんじょ)」ネットワークを築くための取り組みをご紹介します。

防災・防火

過去の大震災から得た教訓を生かす

1_P6230266昭島市にある総戸数1,397戸の昭島つつじが丘ハイツ北住宅団地は、防災に特に力を入れています。死者ゼロを目指す防災活動として、①自助を啓発する活動を続ける、②平時におおいに楽しく“互近助”の仲間づくり、➂発災後、15分以内の全戸安否確認の3つをポイントに上げていること、「自助の啓発」に対する取り組みについては、前回に詳しくお伝えしました。

 

もちろん、自助だけでなく共助のための取り組みにも注力しています。1995年に起きた阪神・淡路大震災で、崩れた建物や倒れた家具などによって生き埋めの状態になった人が助かったケースでは、自力で脱出した人が約35%、その他家族や友人・隣人・通行人など近くにいた人に助けられた人が約62.5%にのぼり、救急隊などの公助はわずか約2.5%だったそうです(※1)。これは、窒息死・圧死した人の約9割が地震発生から15分以内に亡くなっていた事実と照らし合わせると、救急隊などが駆けつけた後では遅かったことを表しています。

 

また、2014年11月に発生した長野県神城断層地震では、建物の多くが全壊や半壊となり、家の下敷きになった人が複数いたにもかかわらず、ご近所で助け合い、死者をゼロに抑えたことで「白馬の奇跡」と呼ばれています。発災時に生き埋めなどに遭ってしまった時、公助を待っていたのでは間に合わないことが過去の震災の教訓からはっきりしたのです。

 

マンション内、周辺地域とも連携する組織を次々に結成

2これらの教訓を受けて、昭島つつじが丘ハイツ北住宅団地は様々な形で共助力を上げるための組織をつくってきました。まずは1996年に自治会を発足させたことは、前回ご紹介した通りです。そして、2011年3月の東日本大震災の3か月後に周辺の5つの自治会と3つの管理組合、店舗会によるコミュニティ協議会「まちづくり昭島北」を結成。地域の防災力と環境整備の向上などを目的として活動しています。同年9月には、さっそく周辺地域と連携した合同防災訓練を実施。その後は、近くの中学校の全生徒も参加するようになり、8年連続でこの防災訓練は続けられています。

 

前回ご紹介したとおり、昭島つつじが丘ハイツ北住宅団地の居住者は65歳以上の高齢者が45%以上を占めているため、災害時の安否確認をするのは、高齢者やサラリーマン世代ではなく、若者(中学生等)が実施することが現実的であると考えています。現在中学生の子どもたちが、高校・大学までこの団地に住み続けると、今後約10年間は防災の手助けになり、さらにはその後の防災活動主要メンバーにもなり得るなど、将来を見据えた防災訓練と言っても過言ではありません。

 

また、その翌年にはマンション内の自治会と管理組合で「つつじが丘北防災協議会」を組織化し、これまで80回開催。この協議会は管理組合から5名、自治会から6名の計11名で構成される常設の会で、月1回程度開催し、マンションの防災活動をけん引しています。しかし、1,397世帯もの人々が暮らす昭島つつじが丘ハイツ北住宅団地では、たった11名ですべてを見ることは不可能です。そこで、2014年には「互近助ネット北」の愛称を持つ号棟単位の“防災隣組”が始動しました。これにより、協議会に住民代表も入り、現在14名となっています。

 

コミュニティづくりも促進する「防災隣組」の存在

3_防災隣組図防災隣組は、平時の見守りと災害時の安否確認を行うための組織で、東京都が推奨する「東京防災隣組(※2)」の考え方をもとにつくられました。隣組の班は、各棟にある階段を中心とした左右上下の4~6世帯で編成されます。さらに、縦階段の1階から11階までの22世帯を1つのグループとし、防災隣組には班長、グループにはグループ長、号棟全体の責任者として防災棟長をそれぞれ置き、役員選びは号棟別に実施。年に3回全体会議を行い、減災のための備えなどについて意見交換を行っています。

 

特徴的なのは、グループ単位で色分けをし、前回ご紹介したネームプレートの紐や役員が着るベストなどに反映していること。自分が所属するグループの色をネームプレートで認識しておけば、発災時に避難した際にもグループごとに集まりやすく、安否確認も取りやすいためです。防災訓練の時だけでなく、平時にもこの隣組やグループ、棟といった単位で動くようになり、棟別に夏まつりに模擬店を出店したり、災害時の給食訓練を兼ねたぼうさい芋煮会やお花見などを開催したり、また広報誌を独自に発行している号棟もあるそうです。

 

また、各号棟の1階には防災倉庫を設置。災害時には防災隣組などの役員が不在となる場合もあり、在宅で元気な人がご近所の皆様の命を守るため“みんなが役員”として行動していきます。また、15分以内での安否確認が重要となることから、そのために必要な備品類等を防災倉庫に収めてあります。ラジオやメガホン、ランタンといった定番物のほか、色別のベストや号棟旗、安否確認用のシートなど、マンションならではのオリジナル品も用意されています。倉庫に置いてあるものはすべて統一されていて、レイアウトまで一緒です。さらに配置図が防災マニュアルにもわかりやすく記載されているので、暗証番号による開錠をすることでいつでも確認することができます。

 

これらシステムの構築から防災マニュアル、安否確認シートやネームプレートづくりまで、一手に引き受けてきた理事長の宮田さんは言います。「防災隣組をつくったことで、コミュニティにもいい影響が出ています。仲間意識が高まったのか、あいさつが活発になったし、お花見や模擬店にそれぞれの号棟で参加して、料理や買い出し、準備作業が得意な人などがよくわかるようにもなりました」。上下左右4~6世帯が班となり協力し合うという方法は、大規模マンションだけでなくあらゆるマンションで見習いたいアイデアです。

 

 

(※1) 内閣府防災のページより

(※2) 首都直下地震への備えとして、近くにいる人同士が助けあうことを目的に、共助の活動を意欲的に行う団体として、市区町村長の推薦に基づき東京都知事が認定をした団体のことをいいます。町会や自治会をはじめ、企業、商店街、学校など、地域内の様々な主体が参加。

 

  

 

 

概要(取材年月:2020年06月)
  • 建物名:昭島つつじが丘ハイツ北住宅団地
  • 所在地:東京都昭島市
  • 階数 :14棟・11階建て
  • 総戸数:1,397戸
  • 竣工年:1982(昭和57)年
  • 管理形態:部分委託(窓口・清掃・会計業務のみ委託)
  • 管理会社:日本総合住生活(株)
  • 総会開催:毎年5月
  • 役員数 :理事14名、監事2名、防災管理1名
  • 役員任期:1年(自薦→各号棟から代表1名を選出)