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鉄骨

勉強会や話し合いを積み重ね、耐震診断&耐震改修工事に成功!

東日本大震災以降、旧耐震基準で建てられたマンションの耐震不足の問題が叫ばれたものの、耐震診断や耐震改修工事に踏み出す区分所有マンションは未だ少ないまま。これにはどんな原因があるのでしょうか? 千代田区の助成制度や金融機関の融資を活用して耐震改修を終えたマンションの理事長にお話を伺いました。

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旧耐震のマンションで壁にヒビ割れが!

ニュー九段マンション①JR「市ヶ谷」駅から徒歩3分。オフィスビルが立ち並ぶ靖国通り沿いにある総戸数37戸のマンションが、今回ご紹介する「ニュー九段マンション」です。築年は1970年、旧耐震基準で建てられ、今年で48年目を迎えます。

 

耐震診断&工事のきっかけは、東日本一帯に甚大な被害をもたらした東日本大震災でした。この震災で、マンション内の共用壁、窓や扉周りの四隅に、いくつものヒビが斜めに入ったのです。建物の外側は崩落もなくキズも見当たりません。しかし、もしも次にまた大きな地震が来たら今度こそ危ないのではないか……。住人の不安が広がります。早速その年の管理組合総会で応急工事の実施を決めたほか、耐震についての勉強会を実施することを決定しました。理事たちが積極的に耐震セミナーなどに通い、その成果を勉強会で発表。千代田区やまちみらい千代田によるマンションアドバイザーの派遣も活用しつつ耐震について学んでいくと、知れば知るほど旧耐震マンションを現状のままにしておくことはできない、という共通認識が生まれました。

 

翌年の総会で「ニュー九段マンションの将来を考える会」の設置が承認され、同時に千代田区マンション耐震化促進事業制度を利用した耐震診断実施も承認されました。耐震診断の費用は500万円でしたが、千代田区より400万円の助成金交付を受けることができました。ちなみにこの制度は、耐震補強設計や耐震改修の各段階でも利用しました。その都度申請し、助成金の交付を受けています。

 

勉強会を経て耐震改修工事を決定。しかし……

図1旧耐震マンションは、東京23区だけでも4,400件超(※)といわれています。耐震診断・耐震補強は喫緊の課題といわれながらもなかなか進まないのは、もちろん費用の問題もありますが、耐震診断をして耐震基準に満たないとされたときに、建物の資産価値が落ちることを不安に思う住人が多いからです。実際、ニュー九段マンションでも以前はそのような声が上がっていました。しかし、躯体にヒビが入っている現状を目の当たりにして、耐震改修が必要との認識を一つにしたのです。

 

診断の結果が出るのは1年後でしたが、強度不足が予想されたため、それと並行して耐震改修工事をした場合と建替えをした場合での概算見積もりを町内にある専門業者に依頼することにしました。その結果、耐震改修工事に約2億円、建替えには約20億円と、かかる費用に10倍もの開きがあることが判明。そこで、平成25年の臨時総会で、資金計画の目途が立ってからという条件付きで耐震改修を行う方針を決めたのです。

 

しかし、ここで管理組合は大きな問題にぶつかります。耐震改修の費用の工面が難航したのです。

 

管理組合向けローンの重要性とは?

★PB210003「最初は、住宅金融支援機構でローンを組めば済む話だと思っていたんです」と話すのは、管理組合理事長の中西さん。耐震改修については千代田区で法律に基づく認定を受けた第1号物件となり、助成を受けられることが決まっていました。いわば行政のお墨付きをもらっているようなものなので、何の問題もなく借り入れができると考えていたそうです。しかし、区分所有者のうち実際に住んでいる人が37戸中11戸であったことから、住宅金融支援機構では居住していない26戸分の借り入れはできないことが明らかになりました。

 

そこで、慌てて融資をしてくれる銀行を探しました。幸い、その頃ちょうどマンションの管理組合向けに無担保無保証で融資を始めていた西武信用金庫を見つけることができ、融資を受けるめどがつきました。それをもとに、平成26年の6月に臨時総会を開き、耐震改修工事実施の承認をとったのです。

 

西武信用金庫では、住宅金融支援機構と連動して修繕積立金を原資に10年ローンを組みました。管理組合員には10年間限定で修繕積立金を値上げし、その後は元に戻す計画で承認を得ました。ベランダにて建物の一番外側の柱にブレース(筋交い)を入れる工法のため、騒音等はあるものの、住み続けたまま工事ができます。また、一部の住戸にはベランダがなく、立ち入り工事があったり工事後に面積が減ったりと不利益が生じるため、管理組合から補償金を支払うことで合意を得ました。

この耐震改修工事により、耐震診断でIS値0.1~0.2と診断された建物が、震度6で倒壊しないといわれている0.6~0.7まで上がり、新耐震基準を満たすマンションとして生まれ変わりました。

 

「工事を終えた今、住んでいて安心感が全然違う。各住戸平均して月1万円程度の値上げで、安心を買ったと思えば妥当な工事だったと思います」と中西さん。「耐震改修済みの物件」として売買の際の査定額のほか、賃貸物件にも動きがあったとのことです。また、耐震診断や改修が進まない現状に対しては、「費用捻出の問題も大きい」といいます。「マンションの管理組合は修繕積立金から大規模修繕を行いますが、耐震改修工事の費用までは考えられていない。それには公的支援制度を活用するほか、資金が足りなければローンを活用することも必要です。もっと管理組合向けの商品を出してもらえれば、マンションの耐震補強が進むのではないでしょうか。また個人的には、住宅金融支援機構が、住戸への住/不住に関係なく、マンション1棟・何戸分という基準で低利の融資をしてくれるようになれば、耐震改修促進の早道になると思います」と中西さんは話してくれました。

 

※不動産経済研究所の調査結果より。

概要(取材年月:2017年10月)
  • 建物名:ニュー九段マンション
  • 所在地:東京都千代田区
  • 階数 :10階建て
  • 総戸数:37戸
  • 竣工年:1970(昭和45)年築
  • 管理形態:全部委託
  • 管理会社:ナイスコミュニティー(株)
  • 総会開催:毎年6月
  • 役員数 :4~6名
  • 役員任期:輪番制で4人・2年(半数改選)、立候補制で最大2人・1年