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- 2013年冬号
マンション敷地内駐車場問題の現状と判例
今回の特集では、先ず判例を交えて駐車場事情について渡辺弁護士が解説をします。
次に吉岡公認会計士から、昨今自動車離れが進み、マンション駐車場の空き区画の外部貸しによる駐車場賃貸収入の課税問題について、収益性判定のポイントをわかりやすく解説します。
最後に、マンションでも多く採用されている機械式立体駐車場において、昨今多くの事故が発生していることから、そこで起きる事故の特徴や安全に利用していただくための立体駐車場工業会の事故防止策を紹介します。
1 はじめに
現代人の生活では、誰もが自動車による利便性を享受しています。
多くの人々は、プライベートにも自動車を利用しており、マンションの共用部分においても、通常、駐車場が設けられています。
マンションの駐車場の利用方法に関して、標準管理規約は「管理組合は、特定の区分所有者に駐車場使用契約により使用させることができる」(15条1項)として、管理組合と特定の区分所有者の間の賃貸借契約により専用使用を認める方法(賃貸方式)を採用しています。
2 分譲方式・留保方式によるトラブル
もっとも、区分所有者に駐車場の使用を認めるには、賃貸方式のほか、分譲方式(分譲の際に専有部分とは別個に駐車場専用使用権を購入者に分譲する方法)、留保方式(分譲業者または旧地主などが専用使用権を留保し、自ら利用あるいは賃貸する方法)方式もあり、法的な観点からは、3つの方式のいずれも可能です。
かつては、事業主の収益性や旧地主との利害調整等のため、分譲方式・留保方式が一般的でした。
しかし分譲方式・留保方式では、利用料につき、無償とされたり、低額に設定されたりすることも少なくなく、さらに駐車場の利用者が固定されてしまいます。そのため、ほかの区分所有者から不満が起こり、トラブルの原因となっていました。
マンション内で、分譲方式・留保方式による利用状況を変えたいという意見が多くなると、従前の
専用使用権者の権利を失わせ、あるいは使用料を増額する総会決議によって、管理規約を変更することとなります。しかし他方で、法律上、規約変更による一部の区分所有者に対する不利益が、特別の影響を及ぼすものであるときには、不利益を受ける区分所有者の承諾が必要です(区分所有法31条1項後段)。使用料を増額する決議・専用使用権を消滅させる決議について、特別の影響を及ぼすものとして専用使用権者の承諾を要するのか否かが激しく争われていました。
この点については、平成10年に最高裁の判決が出されています。
使用料の増額に関しては、必要性及び合理性が認められ、かつ、社会通念上相当な範囲内の増額であれば特別の影響は否定され(専用使用権者の承諾は不要、最高裁平成10年10月30日判決)、一方、無償で専用使用していた駐車場の専用使用権を消滅させることについては、特別の影響が肯定される(専用使用権者の承諾が必要、最高裁平成10年11月20日判決)ものとして、決着がつけられました。
使用料の増額決議について、特別の影響にあたらないとした最近の裁判例として、昭和57年以降1か月2000円であった使用料(専用使用権は代金450万円で取得)を、「平成18年9月請求分から1か月6000円、平成19年9月請求分から1か月1万3000円、平成20年9月請求分から1か月2万円と改定する旨の普通決議」につき、「必要性及び合理性があり、増額後の使用料も社会通念上相当な額であると認められるから、31 条1項後段にいう『一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき』に当たらない」とした東京地裁平成23年5月9日判決があります。
分譲方式・留保方式では区分所有権が譲渡された場合の扱いも問題になりますが、東京地裁平成21年2月26日判決では『駐車場についての使用権は、マンションの共有者間における共有物の利用方法・管理に関する合意により設定された専用使用権と解するのが相当であり、マンションの共有者の団体である管理組合の承諾なくして譲渡することはできないと解されるところ、管理組合との間において,駐車場の専用使用権を譲受
人に変更する手続が行われたことを認めることはできないから、駐車場の専用使用権は、従前の区分所有者に帰属しているものというべきである』と判断されています。
マンションの駐車場の利用方式
については、今日では一般に、トラブルを避けるため公平性を考慮して、特定の区分所有権に専属的に利用権を帰属させる分譲方式・留保方式ではなく、賃貸方式が採用されています。