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- 2014.01.06掲載
第2 被災マンション法の改正点とその内容は?
1 耐震改修促進法と同じく阪神・淡路大震災後に制定
被災マンション法は、政令で定める災害により区分所有建物が滅失した場合、多数決でその敷地に建物を再建できることを定めた法律です。阪神・淡路大震災の発生を受け、平成7年に制定されました。
もっとも従前、被災マンション法の想定する事態は、建物全部滅失だけでした。東日本大震災では全部滅失に至ったマンションはなく、法律を適用する必要がなかったため、平成25年6月改正前の被災マンション法(以下「旧法※1」という)の下では、東日本大震災は、政令で定められる災害とされませんでした。
しかし東日本大震災で、多くのマンションが重大な被害を受け、深刻な事態が生じていることも周知です。全部滅失に至っていないケースでは、災害時の特別な措置は設けられていませんでしたから、区分所有者が区分所有建物を取り壊したり、敷地とともに売却したりする場合には、民法の原則どおり、全員同意が必要でした。東日本大震災で大きな被害を受けたマンションにつき、全員同意で取り壊した例はありましたが、全員同意を得るというのは容易ではなく、多くのマンションで被害回復への対処に、苦慮していました。
そこで、この事態に対処するため、平成25年6月に被災マンション法が改正されました(同月26日施行。以下、同改正後の被災マンション法を「改正法※2」という)。
改正法では、建物の全部滅失の場合における敷地売却決議と、大規模一部滅失の場合における建物取壊し決議、建物・敷地売却決議などが定められました。改正法は、全部滅失だけではなく、大規模一部滅失もその適用対象であることから、平成25年7月31日、東日本大震災を改正法の定める災害とする政令が、公布・施行されています。
※1:平成25年6月改正前の被災マンション法をさす
※2:平成25年6月改正後の被災マンション法をさす
大規模一部滅失:災害等によって建物の価格の2分の1超に相当する部分が滅失した場合(区分所有法第61条第1項及び第5項参照)をいうもの
東日本第震災では、東北地方唯一の政令指定都市・仙台市も津波による甚大な被害を受けた。写真提供:仙台市
2 改正法の内容
■1 全部滅失した場合は?
従前から、被災マンション法では、マンションの全部が滅失した場合には、再建の集会を開き、敷地共有者等の議決権の5分の4以上の多数決によって、再建の決議をすることができるものとされていました(旧法3条1項、改正法4条1項)。もっとも、旧法下の再建の決議で決めることができるのは、建物の再築に限られます。
しかし、マンションの全部滅失という事態が生じた場合に、多くの権利者が、建物を再築するのではなく、敷地を売却し、売却代金で新たな生活の場を築いていこうと考えることも、自然なことであり、法的な保護に値するものと考えられます。そこで改正法では、「敷地共有者等集会においては、敷地共有者等の議決権の5分の4以上の多数で、敷地共有持分等に係る土地を売却する旨の決議(敷地売却決議)をすることができる」と定めました(改正法5条1項)。敷地売却決議によって、これまで区分所有者全員の同意がなければなしえなかった敷地の売却を、区分所有者全員の同意が不要となり、全部滅失の場合の選択肢が多くなったことになります。
全部滅失の場合の措置は、政令の施行日(平成25年7月31日)から起算して3年以内に限って適用されます。
■2 大規模一部滅失
マンションの大規模一部滅失の場合の法律上の手当については、従来被災マンション法には定めがなく、区分所有法に定めのある、復旧決議(区分所有法61条5項)と建替え決議(区分所有法62条)の手続を採ることができるだけでした。
この点改正法は、大規模一部滅失の場合に関し、新たに、①建物取壊し決議、②建物取壊し・敷地売却決議、③建物・敷地売却決議の3つのしくみを設けました(大規模一部滅失は、災害によって建物の価格の2分の1超が滅失した場合。大規模滅失まで至らない滅失については、被災マンション法の適用はなく、区分所有法の復旧などの規定に基づいて対応することになる)。
①建物取壊し決議は、集会の多数決で、建物を取り壊す旨の決議(改正法11条)
②建物取壊し・敷地売却決議は、建物を取り壊すとともに、敷地を売却する決議(改正法10条)
③建物・敷地売却決議は、建物を取り壊さずに、現状のまま、敷地とともに売却する決議(改正法9条)
これらの新しいしくみによって、全部滅失にまで至らず、大規模な一部滅失の被害を受けたマンションの権利者の選択肢が、大きく広がったものということができます。大規模一部滅失の場合の措置は、政令の施行日(平成25年7月31日)から起算して1年以内に限って適用されます。
【 大規模災害に対する対応の図表 】
マンション管理組合が対応するときのポイント
■1 旧耐震基準によるマンション
まだ耐震診断・耐震改修を行っていない場合には、耐震診断を行い、必要に応じて耐震改修工事を実施する努力義務が課されました。耐震診断や耐震改修工事を行うにあたっては、都道府県や市町村の支援を受けられる場合がありますから、確認をしていただく必要があります。
■2 既存不適格となっているマンション
既存不適格建築物の耐震改修は、従前と比べて大きく実施しやすくなっています。耐震改修によって、容積率や建ぺい率がオーバーするという問題が生ずるケースでも、特例が利用できる場合があります。
■3 安全性認定制度の活用
建築後、相当年数の経過したマンションについては、売買や賃貸の取引を行うに際し、耐震性に不安を持たれることが少なくありません。今般法改正によって創設された安全性認定制度は、この不安を解消するものです。組合員のみなさまの資産保全の観点から、基準適合認定建築物の認定を活用することができるようになりました。
■4 共用部分の変更決議
基本構造部分に変更を加える必要があるけれども、特別決議を得ることが困難で、工事を実施できていない管理組合は、「区分所有建築物の耐震改修の必要性に係る認定」を利用できます。この認定を受けることにより、決議要件が緩和されますので、耐震化のための手続が容易になります。
■5 東日本大震災で大規模一部滅失したマンション
区分所有法の定める復旧と建替えのほか、再建集会の決議をもって、建物を取り壊したり、敷地を売却したりするするしくみができました。震災後相当の期間が経過していますが、まだ建物や敷地の取り扱いに苦慮している組合のみなさまには、ご検討いただきたい方法です。
渡辺 晋(Watanabe Susumu)
1985年三菱地所住宅販売㈱出向。1989年司法試験合格。1990年三菱地所㈱退社。
1992年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。現在、山下・渡辺法律事務所所属
〔著書〕
『最新 区分所有法の解説』『最新 借地借家法の解説』
『最新 マンション標準管理規約の解説』(以上住宅新報社刊)
『わかりやすい住宅瑕疵担保履行法の解説』(大成出版社刊)
『ビル事業判例の研究』((社)日本ビルヂング協会連合会ほか刊)
『宅地建物取引業における犯罪収益移転防止のためのハンドブック』
((社)不動産流通近代化センターほか刊)『最新ビルマネジメントの法律実務』(ぎょうせい刊)
『これ以上やさしく書けない不動産の証券化』『これ以上やさしく書けない不動産競売のすべて』
(以上PHP研究所刊)