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  • 2014.01.06掲載

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耐震改修促進法と被災マンション法の改正に伴うマンション管理組合の対応のポイント

弁護士 渡辺 晋

第1 耐震改修促進法の改正点とその内容は?

1 沿革 阪神・淡路大震災を受けて制定された

耐震改修促進法は、旧耐震基準で設計された建物の耐震改修を促進し、地震に対する建物の安全性を向上させるための法律です。
阪神・淡路大震災で被害を受けたマンション
平成7年1月の阪神・淡路大震災で、大破・倒壊などの地震被害が旧耐震基準で設計された建物に集中し、また死亡者の大多数が家屋倒壊等による圧迫死であったことを受けて制定され、同年12月に施行されました。多数の者が利用する一定規模以上の建物に対し、耐震診断・耐震改修の努力義務が課され、また、耐震改修の促進のため耐震改修計画の認定制度が設けられました。

その後、平成16年10月の新潟県中越地震などの大地震の発生や、首都直下型地震・東海地震、東南海・南海地震が切迫しているといわれる状況などを受けて法改正がなされ(平成18年1月施行)、国による耐震化の基本方針、地方公共団体による耐震改修促進計画の策定が定められました。 国の耐震化基本方針では、住宅及び多数のものが利用する建築物の耐震化率を平成15年の75%から平成27年までに少なくとも90%とする目標が定められています。

2 平成25年改正では耐震化が重点

加えて今般の法改正(平成25年改正)では、耐震化の一層の促進が図られました。平成25年改正における、マンション関連の改正内容の概要は次のとおりです。

【 耐震改修促進法の平成25年改正 】
集合住宅共聴施設のデジタル化対応の流れ

■1 耐震診断・耐震改修の努力義務の対象建物の範囲拡大

これまで耐震診断・耐震改修の努力義務の対象は、特定建築物(多数の者が利用する建築物、危険物を取り扱う建築物、避難路の沿道建築物)であり、住宅や小規模建物は含まれていませんでした。この点、改正によって対象の範囲が拡大され、住宅や小規模建物を含め、現行の建築基準法の耐震関係規定に適合しないすべての建物が対象となりました。所管行政庁によって、耐震診断・改修の指導及び助言がなされることもあります。

■2 耐震改修計画の認定基準の緩和

既存不適格建築物(建築基準法3条2項)の改築工事を行う場合には、改築後の建物につき、すべてを現行の建築基準に適合させなければならないのが原則です。しかし、建物すべてを建築基準に適合させるには、多大な手間と費用がかかります。耐震改修にこの原則を貫くと所有者が耐震改修をためらい、その結果、耐震改修が進まないことになってしまいます。そこで、認定を受けた耐震改修工事を行う際には、耐震基準以外は既存不適格でも差し支えないものとしました。このしくみが耐震改修計画であり、耐震改修促進法制定時に設けられたしくみです。

もっともこれまで耐震改修計画の適用範囲は、建物形状の変更を伴わない改築や、柱・壁の増設による増築などの工事に限られていました。しかし、平成25年改正によって、この制限が撤廃され、既存不適格建築物の耐震改修がより行いやすくなりました。また、耐震改修計画に関連し、増築に係る容積率及び建ぺい率の特例が講じられ、耐震改修工事を行ううえでやむを得ないと判断される場合には、面積制限を超過して耐震改修工事を行うことができることとする改正もなされています。

用語解説
既存不適格建築物:建築法の規定の施行または改正の際、すでに建っている建築物または工事中の建築物で、当該規定に全面的または一部が適合していないものをいう

■3 安全性認定制度の創設

平成25年の改正によって、耐震診断や耐震改修により現在の耐震基準と同等の耐震性を持つと確認された場合、所管行政庁が、建築物の地震に対する安全性を認定するという制度が創設されました。認定を受けた建物(基準適合認定建築物)の所有者は、広告などに、この認定を受けている旨を表示できるようになります。

■4 区分所有建築物の耐震改修の必要性に係る認定制度の創設

区分所有法では、共用部分の変更については、形状または効用の著しい変更は集会の特別決議により決められ、それ以外の変更は集会の普通決議により決められるというルールとなっています(区分所有法17条1項)。耐震工事についても、形状または効用の著しい変更に該当すれば“特別決議”が必要、該当しなければ“普通決議”で足ります。

ところで、柱や梁にシートや鉄板を巻き付けて耐震性を高めるなどの工事であれば、従来の基本的構造部分を変えることなく施工できますから普通決議で足りますが、耐震性を高めるために、柱の下部を切断し免震のための部材を挿入するなど、基本構造に手を入れる工事を必要とすることもあります。基本構造を変えるためには、特別決議が必要です。

ところが、マンションの区分所有者の中には様々な考え方がを持つ人がいるため、建物の安全性を確保するために、耐震工事が必要でありながら、特別決議が成立しないことが少なくありません。耐震性が十分ではないのに耐震工事が実施できないならば、居住者は日常生活に不安を感じるでしょうし、資産保全の観点からも不適当です。社会的にみても、耐震性が不十分のままに放置されることは、避けなければなりません。

そこで平成25年改正で、「区分所有建築物の耐震改修の必要性に係る認定」の制度が新設されました。この制度は、所管行政庁が、耐震診断が行われた区分所有建築物に対し、当該建築物の耐震性が不足しており耐震改修が必要である旨の認定を行うというものです。 改正後の25条では、「認定を受けた区分所有建築物(要耐震改修認定建築物)の耐震改修が建物の区分所有等に関する法律第17条第1項に規定する共用部分の変更に該当する場合における同項の規定の適用については、同項中「区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議」とあるのは「集会の決議」とし、同項ただし書の規定は、適用しない」と定められ、要耐震改修認定建築物と認定されれば、耐震改修工事により共用部分を変更する場合に必要な区分所有者及び議決権が、各4分の3以上から過半数へと減じられることになりました。合意形成の要件が緩和され、耐震工事が容易になったわけです。

用語解説
普通決議:分譲マンションのような区分所有建物において、管理組合の集会決議の要件が、区分所有者及び議決権の各過半数の賛成により可決すること
特別決議:普通決議とは異なり、規約の設定・変更・廃止や建物・敷地、附属施設の変更などの特に重要な議案について区分所有者及び議決権の各4分の3以上(建替えは5分の4以上)の多数による集会の決議で可決すること
【 図表:区分所有建築物の耐震改修の必要性に係る認定制度 】 集合住宅共聴施設のデジタル化対応の流れ