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プリズム外観

大規模マンションは“自助”がポイント ――災害対策用にホイストクレーンなどを活用、自力で1週間を乗り切る!

千葉県船橋市のマンション「東京ベイスクエアプリズム」では現在、災害時における自助活動(=自分の身は自分で守ること)を前提とした防災マニュアルの作成に取り組んでいます。月2~3回ペースで協議を重ねており、草案作成後に説明会を実施し、今年6月の総会で承認を得たいと考えています。それに先立ち昨年6月には居住者向け防災パンフレットを作成し、その1カ月前には災害対策用品としてホイストクレーンも導入しました。これは3年前の2013(平成25)年に実施した大規模改修工事のとき、仮設現場で貨物運搬用にクレーンが使われているのをみたことがきっかけだったといいます。

防災・防火

震災により危機感、防災マニュアル作成に着手

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マンションでは自治会(役員は管理組合理事が兼務)傘下に、災害時の消火・避難誘導を行う自主防災組織を置いています。これは各階から班長・副班長計2人を任命し、年1回(正・副を半年ずつ)の輪番制で運営されていて、居住者が順番に参加することでマンション全体の防災意識の向上を目指しています。2011(平成23)年の東日本大震災の後、管理組合や自治会では「地震が起きたときに、マンションとしてどういう対応をしていけばいいか、具体的に考えていかないと」という意見が多く出されました。そこで、2015(平成27)年の防災訓練のときから、同組織の役割として地震を想定した居住者安否確認作業を追加。同時に各階の住戸をマス目に配置したマグネット(表=赤:未確認、裏=緑:確認済)を用いた安否確認方法も導入しました。

マンション管理規約における防火管理規則は、火災を想定して作成されていることから地震対策については手薄で、また近年みられるマンションの大規模化で1棟当たりの戸数が多いことから、自治体側も「避難所に来るよりマンション内で自助対応してほしい」という傾向が強まっています。そこで自宅での避難生活を前提としたマニュアルを作ることを目的に防災委員会を発足させ、東日本大震災のときに表面化した問題や課題を洗い出し、その対応策を協議することにしました。居住者の安否確認や食料品・飲料水の備蓄、電気・水道・ガスといったライフラインが絶たれた場合の対応など課題は多岐に渡りますが、今期は、災害発生直後の対応から共助の段階を中心に、①居住者側の行動、②防災対策本部の行動・実施項目の洗い出し、③本部長などの担当の決定方法、④財政支出権限の手当などを明確にすることを目指しています。

キーワードは「自助・在宅避難」。1週間目安の防災パンフレットを作成

プリズム防災マニュアル

一方、マニュアル作成と並行して防災委員会が取り組んだのが「居住者一人ひとりの認識を共通化しよう」ということでした。そこで2015(平成27)年6月、自治会と共同で居住者向け防災パンフレット「プリズム住民の防災対策」を作成し全戸に配布しました。

これには震度6以上の巨大地震が発生した際のマンションの状況を示すとともに、①耐震性が高いマンションの居住者が公共の避難所に避難することが想定されていないこと、②プリズム居住者(20階建て・511戸/約1,500人)全員分の備蓄を共有で保存・保管はできないことの2点を明記。自助と在宅避難を前提として、①室内安全対策、②地震発生時の初動対応、③1週間の在宅避難を前提とした家庭内備蓄(食料品・飲料、生活用品など)、④日常生活に戻るまでの心構えなどを記載しています。とくに在宅避難生活時に守るべき項目として「排水禁止とゴミの自宅管理」に注意を呼びかけています。家庭内備蓄については循環備蓄(ローリングストック)や冷蔵庫の食材と備蓄品の利用順序を手引きするとともに、災害用トイレの使い方も掲載しました。防災委員会では「このパンフレットを目に付くところに置いて、平常時のリストとして活用してほしい」としています。

ホイストクレーン導入で高層階への対応も万全

プリズム倉庫

冒頭に紹介したホイストクレーンは、高層階への飲料水の運搬のために導入を決定しました。「エレベーターが使えない場合に、数リットルの水を持って1階から高層階まで徒歩で昇降するのはとても大変だ」という理由からです。

同マンションでは災害時に非常用エレベーターが稼働しますが、居住者が多い同マンションではその使用に制約が生じる可能性が高く、また東日本大震災後に実施された計画停電時にはこの非常用エレベーターも十分には利用できなかったといいます。

ホイストクレーンの利用に至ったのは、あるとき大規模改修工事の足場に設置されていたクレーンを眺めていた管理組合理事の1人が、「高層階への輸送手段として使えるのでは?」と思いついたことにありました。早速出入りしていた工事業者にヒアリングを行ったところ、荷重500㎏以下なら運転資格が不要で、価格帯も30万円前後に収まり、組立作業も数人で20~30分程度でできるということが分かり「うまくやれそうだ」と判断しました。

購入機器のワイヤー長さは50mで、14~15階の高さまで対応できます。設置ニーズは震災発生から2~3日経過してからと想定し、防災委員メンバーで構成する設置リーダーの下、居住者にも手伝ってもらいながら組み立て~搬送作業を行う構想です。組み立て・使用マニュアルも作成したことから、今年2月に開催する防災訓練でデモ設置を行って、居住者への周知を図ろうと考えています。

また同マンションでは、こういった防災関連備品の購入を自治会費(1戸当たり年間300円)でまかなっており(大型設備は管理組合費から捻出)、毎年、年間会費の平均2割に当たる40万円程度を防災関連費用として計上しています。これまでにも非常用備品倉庫や搬送用階段降下補助機、テント、ストーブなどを購入。炊き出し用鍋などは「1週間自宅避難が浸透すれば不要になりますが、夏祭りやイベントなどで利用し、居住者同士の横のつながりを作る一助となっています」と防災委員会メンバーは話します。今後もニーズの掘りおこしと発想の転換で、より利便性の高い防災備品を揃えていきたいと考えているのだそう。目下の注目はドローンで、「ある程度の重量物が搭載可能になれば、かなり使えそう」(管理組合理事長)と興味津々。今後検討したいと考えている近隣施設との連携においても、「災害用無線機の機種を統一すれば、情報の共有化が図れて便利」とし、防災用品も含め幅広く検討していく予定です。

概要(取材年月:2015年12月)
  • 建物名:東京ベイスクエアプリズム
  • 所在地:千葉県船橋市
  • 階数 :20階建て・1棟(3棟構造)
  • 総戸数:511戸
  • 竣工年:2002(平成14)年
  • 管理形態:委託管理
  • 管理会社:双日総合管理(株)
  • 総会開催:毎年6月
  • 役員数 :10人程度(監事2人含む)
  • 役員任期:1年(立候補を基本、不足は輪番制)