フレンドリーな隣人祭にびっくり！　自分たちにもできるかも･･･

東京都渋谷区の神宮外苑ハウスは、総戸数27戸の小規模マンションです。居住者のＡさんは、かねてからもっと居住者同士が親しくコミュニケーションをとれたらいいと考えていましたが、漠然と「シャイな日本人には難しいのでは」とも考え、特に行動を起こさずに過ごしていました。

ある時、同じマンションに住む知人から近くのマンションで「隣人祭」が行われると聞き、一緒に出掛けてみることにしました。その隣人祭は、持ち寄り制でマンション住人だけでなく「近隣住民も歓迎」という自由参加形式だったため、Ａさんはワインを1本抱え、半信半疑で現地へ行ってみました。

全く面識のないＡさんが突然訪れたのですが、それでもみんな快く迎えてくれ、楽しいひと時を過ごしました。参加者はみんな親しみやすく、即興で歌を歌うなど自由に場を楽しんでいて、Ａさんはこれなら自分たちにもできるかもしれないと思うと同時に、都市での新しいコミュニティの可能性を見た気がしました。

早速自分たちの住むマンションでも隣人祭を開こうと、まずは管理組合に話を通し、管理組合の理事長とＡさんの名義で全居住者にアンケートを取ることにしました。

全27戸中12戸から回答をもらい、反対意見はなし。ただし、「禁煙にしてほしい」、「エントランスを汚さないでほしい」と書き込んでいた人がいたため、隣人祭は禁煙とし、エントランスにはシートを敷くことにしました。回答者のうちの一人だけ、「外部の会場を借りてやったほうがいいのではないか」という声もありましたが、なるべくお金をかけたくなかったため、意見を書いた人に趣旨を説明して理解してもらいました。

ルールは一つだけ。肩ひじ張らないゆるやかな集まりに

酒屋から借りた一升瓶のケースを足に、Ａさんがもともと持っていた大きな一枚板をその上に置いてテーブルを作り、参加者には食べ物と飲み物、自分が座るイスを持ってきてもらうことにしました。「事前の準備はしません。片寄ったり、足りなかったりしても笑って済ませましょう！」と書いたお知らせを全戸に配りました。

エントランスを会場にするとこだわったことにも理由がありました。エントランスなら参加の意思表示をしなかった人がふらりと通りかかった時にもさりげなく声をかけることができ、途中からでも気軽に輪に加わってもらいやすいのでは、という意図があったのです。

ルールはたった一つ、「禁煙。静かにきれいに使うこと」。こうして初めての隣人祭は2012年６月に行われ、20人以上の居住者が出席して盛況のうちに会を終えました。それから６月と11月の年２回、毎年行っているそうです。

トラブルを未然に防ぐ、いざというとき心強い、メリットの多い隣人祭

隣人祭を開くようになってから３年が経ち、少しずつですが居住者の間で変わってきたことがあるとＡさんは言います。まずは、居住者同士が名前で呼び合うようになったこと。ただ挨拶を交わすだけの間柄から、一歩近しい関係になったと感じているそうです。

また、隣人祭に参加した奥様達を中心に「女子会」ができました。この女子会では、近くにいいお店を見つけたり、評判のお店ができたりすると誘い合って出かけています。そうすることで、近所のお店が繁盛するという相乗効果もあります。

以前誤って火災報知機を押してしまったお子さんがいましたが、隣人祭に参加されてお互い顔見知りだった別の居住者Ｂさんが対応して事なきを得たこともありました。「声をかけたのが『知らない人』だったら子どもも警戒していたと思います」とＢさん。「子どもが危険なことをしていても注意しやすくなった」という声や、反対に子どもを持つ母親からは「仕事で留守にしていても大人の目があると思うと安心できる」との声もあるそうです。

今後の課題としては、参加者が固定化されつつあるので、もっと多くの居住者の参加を促したい、とＡさん。「人は一人では生きていけません。でも、都心では人とのつながりがどうしても希薄になってしまう。地縁・血縁に代わる新しい形のコミュニティが都心には求められているのではないでしょうか」とＡさんは語ってくれました。