コロナ禍で有効!在宅避難を想定したオンライン防災訓練を実施
新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中、3密を助長することからイベントや防災訓練が行えなくなったマンションが急増しています。特に防災訓練については消防計画に基づいた訓練が計画されているところでもあり、対応に苦慮しているマンションも多いことと思います。そんななか、密を避けつつオンラインを活用して防災訓練を行ったマンションの事例をご紹介します。
管理会社がオンラインでの防災訓練を提案
入居開始から5年ですが、管理組合の運営からコミュニティまで、積極的に参加する理事さんたちの活躍によって、良好な管理を行っているマンションがあります。総戸数497戸の「ザ・パークハウス 横浜新子安ガーデン」。JR京浜東北線 新子安駅から徒歩4分のマンションです。ファミリータイプのマンションなので若い世代が多く、広報誌や居住者アンケートのオンライン化などもいち早く取り入れて活用してきました。コロナ禍で行ったオンライン理事会の様子は、以前当コーナーでもレポートした通りです。
ザ・パークハウス 横浜新子安ガーデンでは、毎年恒例の防災訓練が2020年9月に行われました。といっても、今はコロナ禍。人との接触や密を避ける必要があります。消火器訓練や煙ハウス体験、ベランダの隔て板蹴破り訓練など、いつもなら200人以上が敷地内の公園に集まって行う訓練ですが、実施するのが難しい状況です。実際、「今年は防災訓練を行わなかった」という管理組合も多くあったと聞きます。
そのような状況の中、何とか防災訓練を行う方法はないものかと管理会社に相談した結果、提案されたのが「オンライン防災訓練」でした。
三菱地所グループでは、防災意識の向上や訓練の進化を目的に社員有志によるボランティア組織「三菱地所グループの防災倶楽部」を立ち上げ、マンション管理組合が主催する防災訓練をサポートしています。いつ起こるかわからない災害に対して、継続して訓練を続けていきたいという想いから、「何かできることはないかと考えた時に、昨今のコロナ禍において、より一層避難所の収容人数が限られることから″自宅の備え″をテーマに、オンラインを活用して訓練を実施できるのではないかと思いました」と言うのは、防災俱楽部の澤野さんです。当マンションはもともと防災意識が高く、入居者のほぼ全員が理事会運営を効率化するWebアプリを活用していたため、管理組合でも「オンラインでもできるはず、やってみる価値がある」と考えたそうです。
今回の訓練では、管理会社のスタッフ5人のほか、防災倶楽部が現地に4人、三菱地所レジデンス(本社)に4人の体制でサポートにあたります。
Web会議システムを活用したオンラインのワークショップ
今年の防災訓練のテーマは、「自宅の備えを考える」に決まりました。内容は①安否確認訓練、②オンラインワークショップ、➂火災発生を想定した避難訓練の3つです。地震が発生したあと、生活に大きな支障がなければ各住戸内にとどまるという状況を想定しています。3密になりやすい避難所に行くことがはばかられ、自宅で避難生活することを前提としたコロナ禍にぴったりの内容です。安否確認は、各戸の玄関ドアに貼ってもらった安否確認シートを理事が確認する作業。当日外出予定のある人は、Webアプリを利用して安否情報を登録します。Webアプリの登録者も含めて89.5%という高い参加率でした。
②のオンラインワークショップは、三菱地所レジデンスが開発した、被災地の声を届ける防災ツール「そなえるカルタ」と「そなえるドリル」を活用して開催しました。Web会議システムを使って各家庭で行いますが、Web会議システムの使用が不安だという人(5~6世帯)はラウンジに間隔を置いて集まり、大画面を見ながら参加。全員がオンライン上でつながり、「そなえるカルタ」で東日本大震災の事例を聞き、「そなえるドリル」で家族一人ひとりにあった備えを考えました。参加者は居住者だけで約100名。通信環境が途切れることのないよう、Web会議のホストは、通信環境の安定している本社としました。「参加型のワークショップになるようにアイデアを出しあい、何度も防災倶楽部メンバーでシミュレーションしました」と澤野さんが言うように、進行がとてもスムーズで、画面の切り替えなどテレビの中継を見ているようでした。
実は、オンラインでのワークショップを実施するにあたって、理事会では事前に居住者アンケートを行っていました。実際にどのくらいの人が参加したいと思うか不安だったといいます。結果として、一次アンケート後は50名ほどが参加を予定。訓練日の1週間前に再度アンケートを取ったところ、参加希望者が2倍以上に膨らみました。Web会議システム利用にあたって、マニュアルやそなえるドリルなどは、管理会社が事前に用意して参加希望者に配付しました。
レスポンスの良さがオンラインの強み。一方で課題も……
オンラインワークショップを見ていて感じたのは、レスポンスの良さです。対面形式のワークショップの場合、司会者がみんなに意見を募っても手を上げて発言する人が少なく、話が進みにくいのが難点ですが、オンラインではチャット機能を用いてそれぞれが意見を書き込むため、即座に回答したものをみんなで共有したり、その内容を集計したりすることができます。「人の意見がチャットで文字として画面に出てくるのですごくわかりやすかった」という参加者の意見もありました。最後は、記念に画面上で集合写真を撮ってワークショップはお開きとなりました。
避難訓練に関しては、密を避けるために3つの班に分かれて一時避難所である敷地内のサークルガーデン(中庭)に来てもらい、そこでジュースを配って解散、という形をとりました。例年、避難訓練とあわせて消火器訓練やイベントなどを行っていましたが、今回は省いています。理事長の石川さんは、「トイレの組み立てなどは実際にやってみないとわからない。本当なら防災設備を触って体験しておくのが大切で、具体的なことができなかったのが残念ではありました」。また、「安否確認訓練は9割近い参加率だったのに、ワークショップに参加してくれたのは497戸中約100名で、そこにギャップがある。今後はそのギャップをどう埋めていくかも課題です」と話しました。
とはいえ、オンラインでの防災訓練の可能性を示した今回の試み。「コロナ禍にもかかわらず、いつもと変わらぬ参加率の高さで防災訓練が行えたことは嬉しかったです。これまでは災害時に“マンションでどうするか?”を考えるための訓練だったのですが、今回の訓練は“自宅でどうするか?”を考えるいいきっかけになったと思います」と石川さんは話してくれました。
* ザ・パークハウス横浜新子安ガーデン管理組合法人 公式ホームページ
https://www.tph-shinkoyasugarden.com
- 建物名:ザ・パークハウス横浜新子安ガーデン
- 所在地:横浜市神奈川区
- 階数 :地上10階・地下1階建て
- 総戸数:497戸
- 竣工年:2015(平成27)年
- 管理形態:全部委託
- 管理会社:三菱地所コミュニティ(株)
- 総会開催:毎年1月
- 役員数 :18名
- 役員任期:2年(半数改選、再任は妨げない)