高齢者の居場所を創生するシニアの会は、マンション、地域のコミュニティも支える存在に【前編】
シニア世代専用のコミュニティを持つマンションがあります。定年後の生きがいを生み出したり、支援の必要なシニアを把握したりと、様々に活躍するシニア会ですが、ともすれば現役世代のコミュニティとの分断が生じてしまうケースもあります。今回は、シニア同士の交流はもちろん、管理組合との連携や地域貢献など、多彩な分野で活動しているシニア会をご紹介します。
シニアに「より豊かなマンション生活を」と呼びかけ
緑豊かな多摩丘陵に開発された日本最大規模のニュータウン「多摩ニュータウン」。その西部に位置する「パークフィーネ南大沢」は、総戸数452戸のマンションです。2002年入居開始当時、最も多かったのは当時30代のファミリー世帯でしたが、専有面積が100㎡を超える住戸が多いこともあり、「終の棲家」と考えた50~60代の方も多く入居されていました。
シニアの会の発起人の1人である田中さんも、そんな年代の入居者でした。毎朝、隣接する大型公園を歩いていると、同じような年恰好の入居者と顔見知りになり、「若い夫婦が多いマンションだけど、シニア層にとっても居心地のいい空間がほしいね」という話になったそうです。そこで、それぞれの思いをまとめて、早速呼びかけ文を作成しました。「これからの自分の人生を大切にしたいと考える人、より豊かなマンション生活を楽しみたい人、みんなで集まりませんか?」。そんな文章をつづって4、5人の仲間で全戸に投函をしたのです。
「どこに誰が住んでいるかもわからないので、全戸に知らせるのは躊躇しました。恐る恐る投函したのを覚えています」と田中さん。しかし、予想に反して20人を超える入居者から新しい会に参加したいとの回答が来ました。その人たちと何度も話し合いをし、「このマンションに私たちの居場所をつくろう」ということで意見が一致。仕事を分担して設立総会兼初めての交流会を開催すると、当初の人数より多い39人が集まりました。入居して2年が経った2005年のことです。
義務感を感じず気軽に参加できるよう、強制はなし
パークフィーネ南大沢には、もともと「フレンドリークラブ」という入居者全員が入会するコミュニティのためのクラブがあります。シニアの会の立ち上げを理事会に相談した時、「フレンドリークラブがあるのになぜ?」「位置づけが明確でない」という声も上がったそうです。特に、大規模マンションでは、コミュニティ活動に関する様々な「会」が結成されることが多く、マンション全体としてのコミュニティとの関係にトラブルが発生することなどもあるようです。例えば管理組合主催でイベントが開催されても、個別に入会している「会」の活動が優先されてしまい、管理組合活動との乖離が生まれてしまうようなケースです。理事の皆さんの心配も理解できます。そこで田中さんたちは、「シニアの会は基本的にリタイア後の人生を充実させようというもので、フレンドリークラブとは違う」ということを根気強く何度も説明をして納得してもらったそうです。
活動については、会場としての共用施設や印刷物のコピー機などを無料で使用してもいいという間接的な援助を受けているほかは、管理組合からの資金援助等はありません。予算は会員から集める600円の年会費のほか、八王子市のシニアクラブ運営補助金を活用(60歳以上の会員に年約3,000円)。その他、参加するイベントごとに必要な参加費を徴収する仕組みになっています。
現在の会員数は126名と、設立当初の3倍以上になっています。65歳を過ぎた人がほとんどですが、会員の年齢制限は特になく、一番若い人は49歳、最高齢が92歳となっています。「シニアの会という名前から入会しづらいと思われないよう、門戸は大きく広げています」と田中さん。市の補助金を受け取ることから入会の際は手続きが必要ですが、退会したい人は電話一本で済ませられるという気軽さです。「会やイベントへは自分の興味のあるものにだけ出席すればよく、欠席届も不要。義務感を感じなくて済むよう、強制は一切しません」と言います。
健康増進、生きがいの創出にひと役
具体的な活動としては、様々な会があり、それぞれの会につき世話人(役員)を1人置いているほか、役員以外からスタッフとして2名程度が関わり、会を運営しています。行事の案内は各々掲示板に張り出しているほか、年4回発行している会報でも行います。
シニアの会ができてまず一番に始めたのが「公園緑地めぐり」。約束の場所に集まった人だけで近くの公園や緑地を歩きます。毎週2回行っている「歩こう会」は、定時に集まった人だけで近くの公園をウォーキング。新年には氏神様のいる神社まで「みんなで歩いて初詣」も開催しています。ゴルフの会、スポーツジムで太極拳をマスターした会員が教える太極拳の会など、健康増進に役立つ活動は人気です。
また、生きがいを高める活動として、映画好きの会員のおすすめDVDを鑑賞する「名画・名舞台鑑賞会」、合唱団「うたおうよ」、「囲碁・将棋・マージャンを楽しむ会」、会員の経験談を語ってもらったり外部から講師を招いたりして行う各種勉強会、ドイツ語の先生が定年退職したのを機に始まった「ドイツ語講座」などがあります。ドイツ語講座の受講者の中には、東京オリンピック・パラリンピック2020の語学ボランティアに応募した人が4名もいたそうです。
全体の活動としては、500円の参加費で参加できる交流会があります。年3回開催の交流会では弁当などはとらず、参加費を材料費にあてて事前に料理教室を開き、そこでみんなで作った料理を交流会に提供し成果を発表。一石二鳥のやり方に、市役所の担当者も感心していたそうです。会員からは「シニアの会があってよかった」との声もよく聞かれます。「みんな仲がすごく良くて、労を惜しまず動く人が多いんです。メンバーの1人が『これやりたい』と言ったらまずやってみる。その柔軟性と気軽さが長続きの秘訣ですね」と現会長の舟木さんは話してくれました。
☆☆☆
後編では、ユニークかつ広範囲にわたる、シニアの会の取り組みについてご紹介します。
- 建物名:パークフィーネ南大沢
- 所在地:東京都八王子市
- 階数 :6~14階建て(全6棟)
- 総戸数:452戸
- 竣工年:2002(平成14)年
- 管理形態:全部委託
- 管理会社:(株)長谷工コミュニティ
- 総会開催:─
- 役員数 :シニアの会の役員数:12名(任期1年、継続も可能)
- 役員任期:─