助成金を上手に利用して、耐震改修と大規模修繕工事に成功!【前編】
旧耐震基準のマンションの耐震診断や耐震改修工事が課題となっています。建物の規模が大きなマンションでは、地震による倒壊などで住人に被害が出るだけでなく、周辺地域にも影響を及ぼす可能性があるからです。行政が助成金などで事業を推進していますが、実際に改修工事までこぎつけるには、さまざまな難関が待っています。今回は、助成金制度を上手に活用し、大規模修繕とともに耐震改修工事を行ったマンションをご紹介します。
人気の街・吉祥寺のなかでも特に良好な住環境
長年、さまざまな「住みたい街」ランキングで上位に輝く吉祥寺。数多くの商業施設や商店街があり、生活利便性が高いうえに、井の頭公園など豊かな自然もあります。文化的な雰囲気も後押しして、その地位はなかなか揺らぎそうにありません。そんな吉祥寺の駅から徒歩わずか数分、井の頭通りから一本中に入ると、「ルネ吉祥寺」のエントランスが見えてきます。駅から近いのに、とても静か。贅沢な住環境です。
総戸数155戸、14階建てのルネ吉祥寺については、2015年にこのコーナーでご紹介したことがあります。「主婦パワー」で、できることから着々と準備をしていた「防災会」についてです。国土交通省の補助事業に指定され、一社団法人マンションライフ継続支援協会(MALCA)のサポートを受けながら活動していた防災会は今も健在で、女性たちを中心に楽しく仲良く活動を続けています。
前回の掲載では、防災会の活動と同時に、耐震改修の必要性についても言及していました。「ルネ吉祥寺は東京都が制定した『東京における緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例(※)』の対象にあたり、耐震診断実施が義務化され、耐震改修実施も努力義務となっています」という内容です。そのため、当時の理事会は費用も手間も耐震化にかけざるを得ないということでした。そして、とうとう2019年2月に耐震改修工事が完了したのです。
震災を機に耐震化の機運が高まるも……
耐震改修への機運が高まったきっかけは、2011年に起こった東日本大震災でした。大きな被害はなかったものの、ルネ吉祥寺が旧耐震基準で建てられたマンションであることや老朽化が進んでいることなどから、理事会で懸念の声が上がったのです。そこで、2013年に「ルネ吉祥寺耐震補強・大規模修繕工事プロジェクトチーム(以下、PT)」が、10人の理事と有志によって立ち上がりました。
まず手をつけたのは、当時の理事長が耐震セミナーで出会ったコンサルタントと契約することでした。10年近く副理事長を務める新村さんは、「コンサルの方には、『ルネ吉祥寺は宝の山だ』と言われました。人気の吉祥寺駅からこんなに近く、住環境もいい。しかし一方で、耐震化は命の問題、資産価値の問題だとも言われました。それを聞いて、住人の命を守ることはもちろん、私たちのマンションの価値をより高めるためにも、ぜひ成功させようという気持ちになった」と話します。専門家の意見を聞くことで、耐震化に対する機運がより一層高まったそうです。
コンサルとともに、工事の目的や工法、経費など、総合的に検討を開始。PTの中に建築士の方がいて、技術的なことに意見が出せるのも、大きな助けとなっていました。そのなかで、予めいくつかの条件を決めて大手建設会社などに打診し、状況説明を兼ねた打ち合わせを実施。見積を出してもらいましたが、それらは全て耐震改修工事だけで10億円を超える大掛かりなものでした。
実は、ルネ吉祥寺は「東京における緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例」に基づく助成金をもらえる見込みがあったのですが、とはいえ、10億円はあまりに現実とかけ離れた数字で、「お引き取りいただくしかなかった」と新村さん。4年にわたる計画が暗礁に乗り上げたように思えるなか、流れを変えるきっかけとなったのは、女性が初の理事長に就任したことでした。
女性理事長の誕生をきっかけに仕切り直し、耐震化へ
2017年に理事長に就任した足立さんは、「防災会」の会長を務めていた女性です。女性中心の防災会における中心人物であり、国交省や武蔵野市の防災課、MALCAなどとの折衝も行ってきた足立さんですが、理事長は経験したことのない大役。「新村さんをはじめ、ベテラン理事の方の支えがあるから」と、理事長になることを承諾しました。
足立さんを理事長とした新理事会が4月に発足。そこでこれまでのPTの歩みを一度整理してみました。3度目の大規模修繕も控えているなかで、大掛かりな耐震改修工事ができるかといえば、予算の面でとん挫してしまう可能性が高い。助成金を受けたとしても、住人への追加徴収や借り入れをせずにどちらの工事も貫徹させるには、耐震化の内容について考え直す必要がありました。
「耐震化といっても、私たちではどうしても素人判断にならざるを得ません。そこで、行政の権威をもって認可している基準、すなわち新耐震基準を満たす“IS値0.6”という数字を、5憶円の予算内かつ責任施工の範囲で満たすことを目的にしてはどうか、ということになったんです」と足立さん。耐震化をどのくらいやったら完全に大丈夫という基準もなく、想定外の地震が来たらどうなるかわからない。いろいろなものをそぎ落として、最低限の“命を守れる建物にする”ことを目標としたことで、耐震化がようやく動き出したのです。
(※)震災時に避難や救助活動等の大動脈となる幹線道路のことを緊急輸送道路といいます。これらの道路が建物の倒壊などによって利用できなくなることのないよう、緊急輸送道路に面した建物には耐震診断実施の義務と耐震改修の努力義務が課せられ、それぞれに助成金が適用されます。
☆☆☆
後編につづく。
To Be Continued.
- 建物名:ルネ吉祥寺
- 所在地:東京都武蔵野市
- 階数 :14階建て
- 総戸数:155戸
- 竣工年:1978(昭和53)年
- 管理形態:委託管理
- 管理会社:日本住宅管理(株)
- 総会開催:毎年5月
- 役員数 :12名
- 役員任期:1年