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大切なのは“住人との情報の共有化” 第三者の助言も活用して、見事耐震化改修に成功!【前編】

旧耐震基準のマンションでは、耐震診断をするだけでも住人の合意を得るのが難しいといわれます。しかし、もちろん一番大事なのは耐震改修をすることです。一度は否決された耐震診断を可決させ、耐震改修にまでこぎつけた「ゼームス坂パークハウス」。その耐震改修工事までの道のりをレポートします。
耐震診断の実施に至るまでの話はこちら

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出発点は、「できれば修繕積立金の範囲内で!」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA前回ご紹介した「ゼームス坂パークハウス」は、総戸数63戸のマンション。竣工した1971年当時は管理組合という組織もなく、「丸ビルの管理で実績のある三菱地所が管理するマンション」という点が売りでした。

 

竣工から11年経ったころ、管理者である三菱地所から第1回目の大規模修繕工事が提案されましたが、当時の法律では、100%の賛成がなければ大規模修繕工事は実施できません。修繕積立金といっても名ばかりだったゼームス坂パークハウスでは、かなりの額の一時金の徴収が必要になるため、当然のことながら反対者がでました。

 

そのとき動いたのが、住人で組織する自治会です。独自に施工業者をあたり、予算の半額の見積りの業者を探し出し、改めて施工を提案しました。すると、負担する一時金が当初の半額になったこともあり、自治会の意向が反映されて100%の賛成を得ることができたのです。

 

こうして第1回目の修繕工事は無事に実施することができましたが、このとき自治会は、多額の一時金の徴収の難しさを思い知ったといいます。そこで、ゼームス坂パークハウスでは修繕積立金の額を大幅にアップ。そのおかげで、第2回、第3回の大規模修繕工事はすべて修繕積立金で賄い、全会一致で工事を実施することができました。

 

 今回の耐震改修工事も、「一時金の徴収は避けたい。できれば修繕積立金の範囲内で何とかならないか」という意向が出発点になったといいます。

 

最初は委員間の意思疎通にも課題が。解決の糸口は“情報共有”にあり

2013年の定時総会で「耐震診断の実施」「耐震化検討委員会の立ち上げ」が全会一致で可決され、まず待っていたのは委員の選定です。選定は、理事会が単独で行うのではなく、「委員をやりたい人」「やってもらいたい人」をアンケートで募り、居住者全員で決める形を取りました。

 

委員会は9名で構成され、理事および理事長経験者、会社員、自営業、カメラマン、一級建築士と多彩なメンバーが揃いました。各委員は「耐震化を図り、居住者の安全を確保する」という目的は共有していましたが、一級建築士の委員の話になかなかついていけない人もいるなど、知識レベルはバラバラ。「最初は委員の中に温度差があり、意思疎通を図るのに苦労しました」と蕪木さん。しかも委員たちはそれぞれ仕事を持っているため、頻繁に委員会を開くことが難しい状況です。そこで、委員間のメールネットワークを構築。何かあるごとにメールで意見を交換するようにしたところ、各人が得た情報を共有し、疑問点を用意するなどして、委員会での議論を密度の濃いものにすることができました。

 

議論の中では、自分たちの立場で助言してくれるアドバイザーが必要ではないかという意見も出ましたが、専門のアドバイザーは適当な人が見つからず、断念。「自分たちが理解・納得できたことだけやろう。業者は自分たちを理解・納得させられる業者を選ぼう」というのが委員会の結論でした。

 

 

第三者機関を最大限利用して、耐震診断のコンペへ

さて、委員会の最初の仕事は、耐震診断の業者選定です。いくつかの業者のほか、「東京都防災・建築まちづくりセンター(以下、センター)」や「NPO耐震総合安全機構(以下、JASO)」などにも構造図面を持ち込み、ヒアリングを行うことにしました。一方で、委員全員で耐震診断関連の情報収集や、助成金の申請方法などの調査も進めていきます。

 

その結果、当初から中立的な意見をくれたセンターの紹介業者、JASO、現管理会社など4社から見積りをとり、1社ずつ個別面談を行って詳細な説明を聞くことに。上がってきた見積り金額、耐震診断の実績、面談の際の熱意などから業者を決定すると、金額は予算計上していた600万円を下回る、消費税込み560万円となりました。

 

 

診断結果はおおむね良好。しかし補強案に問題が……

ブレース診断の結果は、基準値であるIs値0.6を下回ったのが1階から4階と6階で、幸い数値としてもごくわずかでした。耐震化検討委員会委員長の蕪木さんは、「うちのマンションは築年数は古いのですが、構造がしっかりしているから強い、と昔からいわれていた。診断結果はそれを証明した格好で、少しホッとしました」と言います。とはいえ、基準値以下の個所にはもちろん耐震補強が必要で、診断結果に基づいて同じ業者に耐震補強計画案の提出をお願いしていました。

 

しかし、その時出てきた補強案は、ピロティ式になっている1階に壁の一部増設や数か所の耐震スリット補強などのほか、“3住戸のベランダ側に出入りを制限する形でブレース(補強部材)を入れる”という案が含まれたものでした。これは該当する3住戸の居住者がベランダへ出られなくなる可能性もある案なので、承認を受けることはほぼ不可能。そこで、“ベランダ側にブレースを入れない”新たな耐震補強を模索する必要性が出てきてしまいました。

 

せっかく耐震診断も終わり、このままトントン拍子に進むと思っていた耐震改修工事ですが、なんと、補強案という最初のステップでつまずいてしまったのです。この状況の打開策は……後編へ続きます。

 

To Be Continued.

概要(取材年月:2019年07月)
  • 建物名:ゼームス坂パークハウス
  • 所在地:東京都品川区
  • 階数 :地上10階建て
  • 総戸数:63戸
  • 竣工年:1971(昭和46)年
  • 管理形態:全部委託
  • 管理会社:三菱地所コミュニティ(株)
  • 総会開催:毎年6月
  • 役員数 :10名
  • 役員任期:1年(輪番制、再任は妨げない)