管理不全寸前だった自主管理のマンションが区の無料相談から再生にいたるまで【前編】
各地方自治体やマンション関連団体などでは、マンションの管理組合を支援するため様々な取り組みをしています。その一つがマンション管理士などによる無料相談ですが、上手に利用しているマンションはそれほど多いとはいえないようです。そんななか、区などの無料相談窓口を上手に活用して規約を改正し、修繕積立金などの値上げをし、さらには排水管全戸更新・耐震補強工事まで成功させたマンションがあります。
都心の一等地という恵まれた立地。しかし……
「世界一のターミナル」とも呼ばれる新宿駅から徒歩約10分、最寄りの西新宿駅からは徒歩約5分という恵まれた立地に建つ「新宿第二ローヤルコーポ」(以下、第二ローヤルコーポ)。表通りの喧騒から離れ、住宅や小さな店舗などが入り混じる路地の奥に建つこのマンションは、1973年に竣工した、5階建て総戸数48戸の小規模なつくりです。交通手段等のアクセスも申し分なしですが、築年数を重ね、様々な個所に破綻が生じてきました。
竣工後40年を過ぎてからは建物の老朽化も激しくなり、外壁の剥離なども散見されました。適正な修繕積立金が設定されていなかったため、不具合が出るたびに小規模の修繕工事を施すといった、その場しのぎの対策しか取れなかったのが原因です。
また、専有部分の排水管の漏水事故も多発するようになりました。貯水槽の清掃業者から「老朽化で水槽の衛生環境に問題あり」との報告を受けたほか、2014年には最上階の住人から「屋上から雨漏りがする」と報告が入るなど、大規模な修繕は待ったなし、というところまで来ていたのです。
「自治会」からスタートした脆弱な管理体制に原因が
なぜ、第二ローヤルコーポはこのような状態に陥ってしまったのでしょうか。その一因として挙げられるのが、管理体制です。第二ローヤルコーポは分譲当初、自主管理組織として「自治会」との名前がついており、管理費・修繕積立金も「自治会費」として微々たる額しか徴収していませんでした。分譲時のパンフレットにも「自主管理のため、共益費500円という、ウソのようなハナシです」と書いてあります。つまり、自主管理であるにもかかわらず管理組合という組織はなく、管理費と修繕積立金も設定されてない、という状態からのスタートだったのです。
また、立地が良いだけに、物件を所有しながらも賃貸に回す人が多く、現在でも48戸中22戸が賃貸住戸です。管理をする人の数が総戸数の約半分、という状態である上に、理事の決め方にも問題がありました。階段室ごとに4つの班に分け、その班から毎年1人の班長(理事)を出す、という方式だったのですが、班の中に賃貸住戸が多いと、少ないところでは1班13戸のうち居住所有者が3人しかおらず、3年に1度理事が回ってくる、という不公平な状態でした。
反社会的勢力がやり放題! トラブル続きで専門家の必要性を実感
さて、今回お話をうかがった現理事長の小畑さんは、このマンションに築9年目に入居してきました。入居当時は20代でしたが、3年に1度回ってくる班に所属していたため、何度も理事を経験することになりました。そんななか、あるトラブルが発生したのです。
建築士と称して入居した賃借人が、実は反社会的勢力の構成員だったのです。部屋には多数の構成員が出入りし、ひどい騒音をたてたり規約で禁止されているペットを飼育したりと、やりたい放題でした。さらにその部屋の所有者が行方不明になり、自治会費が滞納されることに。相次ぐトラブルの発生に小畑さんは、専門家のアドバイスの必要性をひしひしと感じました。そこで、(公財)マンション管理センター(以下、マン管センター)に登録。電話やメールなどで色々な相談に乗ってもらうようになりました。
その構成員たちは、やがて別の物件を確保して全員退去していきました。しかし、段階を踏んで値上げをしていた自治会費の滞納額は、実に100万円以上に積みあがっていたそうです。しかもある日、退去したはずの構成員の1人が再びマンションを訪れ、「以前の部屋にまた住みたいが、鍵を紛失した。こちらで合鍵を持っていないか」と問い合わせてきたといいます。このときは毅然とした態度で帰らせた小畑さんですが、いずれまた来るだろうと危惧し、早速マン管センターの「弁護士による無料相談」に応募し、アドバイスを受けて適切に対処。行方不明であった部屋の所有者を探し出して鍵を交換し、滞納自治会費の全額を徴収することができたのです。
各種専門家に建物の調査や修繕のアドバイスをしてもらえることに!
小畑さんはその後、トラブルや住人からの問い合わせがあるごとに新宿区の「マンション管理相談」を利用。さらに区のマンション管理組合交流会にも参加をすることにしました。セミナーや無料の相談会なども活用して、様々な人と顔見知りになっていきます。「管理組合」への名称変更、規約の部分改正や役員免除制度(班体制を廃止し、輪番制へ。役員の任期を2年、半数交代制に変更、役員を免除される組合員からは管理協力金として月4,000円を徴収)を導入することなどについてアドバイスをもらうことができました。
さて、問題になっていた漏水事故はどうなったかというと、こちらもやはり専門家の手を借りようということで、2014年に区の「マンション管理相談員派遣」を要請しました。実はこの建物は、分譲時に竣工図書が引き渡されず、給排水設備図もないという状態でした。さらにその後、売主であった建設会社が倒産。様々な不具合が出ても対応できる専門家もおらず、管理組合は途方に暮れていたのです。「自主管理のマンションなので、管理組合の役員だけでは客観的な判断は難しい。自分のマンションが“管理不全”になっているということを、当時は認識できていませんでした」と小畑さんはいいます。
設備改修の経験豊富な設備設計一級建築士に来てもらい、まず行ったのは、役員と組合員を対象とした勉強会です。旧耐震のマンションであるため、新宿区の支援制度を使い耐震アドバイザー派遣・簡易耐震診断(無料)を受けることを勧められ、自身も会員であるNPO法人耐震総合安全機構(JASO)の一級建築士(意匠担当)に来てもらうことになりました。そして小畑さんは、理事を退任後に修繕委員会を立ち上げました。
「マンション管理士、JASOの一級建築士と、それぞれ第一線で活躍しておられる専門家の先生方に関わっていただくことができて、本当にラッキーでした」という小畑さん。しかし、それは小畑さんがこまめに相談をし、足繁く相談会やセミナーに顔を出し、それぞれの担当者と顔見知りになってきたことで得られた成果です。入居当初からマンションの管理に対する危機感を持ち、積極的に専門家の力を活用することで、管理が不十分となっていたマンションに光が差したのでした。
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後編では、専門家による診断の結果と改修工事、そして巻き起こったさらなるトラブルについてご紹介します。
To Be Continued.
- 建物名:新宿第二ローヤルコーポ
- 所在地:東京都新宿区
- 階数 :地上5階建て
- 総戸数:48戸
- 竣工年:1973(昭和48)年
- 管理形態:自主管理
- 管理会社: -
- 総会開催:毎年6月
- 役員数 :4名
- 役員任期:2年(輪番制、半数改選)