建替えできないマンションが目指す“100年マンション”への道のり【前編】
京都市の鴨川沿いに建つ、築29年の「フォルムウイング上賀茂」。風光明媚な立地にあるこのマンションの最大の課題は、“いまある資産をいかに良好な状態に保っていくか”だといいます。その背景には、京都市が行う景観政策の強化により、現状規模での建替えが不可能になったことがあります。
過去4期にわたって理事長を務め、現在、修繕委員長の林茂雄さんにその経緯をうかがいました。
風光明媚な立地が裏目に!? 高さ規制で現状規模での建替えが不可能に
京都市北区の世界遺産 上賀茂神社の近くにあり、住棟がV字翼形に展開する地上7階建ての「フォルムウイング上賀茂」が販売開始されたのは、日本がバブル経済に沸いた1989年でした。立地のよさもあり、眺めのいい最上階の住戸は高級物件として知られ、中低層階でも高額なマンションでした。
それから約30年が経ち、現在、全70戸の世帯別内訳は、子育て世帯が11戸、70歳以上の世帯が17戸で、その割合は京都市内にある分譲マンションの平均値(子ども居住世帯率17.4%、高齢者居住世帯率21.1%(※))とほぼ重なります。しかしフォルムウイング上賀茂には、他のマンションと大きく異なる点があります。それは、これから先、現状と同じ規模、デザイン等での建替えができなくなったことです(既存不適格)。
というのも、京都市は2007年に「京都の優れた景観を守り、育て、50年後、100年後の未来へ引き継いでいくため」として、建築物の高さとデザインなどを全市的に厳しく見直した「新景観政策」の実施に踏み切り、フォルムウイング上賀茂の周辺エリアも、高さ制限12mの高度地区に組み込まれたのです。
これにより、現行で高さが20mあるフォルムウイング上賀茂は、事実上、現状規模での建替えが不可能となりました。「ニュータウン内にある団地のように、広い敷地面積があれば何とかなるかもしれませんが、各戸、現在の条件を維持して建替えたとしても、せいぜい45戸程度しか確保できない」と林さん。仮にその条件を飲んで建替えに踏み切ったとしても、京都・北山山麓縁辺エリアとの景観調和を図る京都市建造物修景地区の「山ろく型建造物修景地区」にも指定されているため、デザイン面などから建築コストが巨額になることは免れられないそうです。
管理組合理事会では今後の対策について話し合いを重ねましたが、誰も彼も「困った!」と頭を抱えるばかり。メンバーのなかには一級建築士もいましたが、具体的な打開策は出なかったといいます。そのため、“いまある資産をいかに優良な状態で維持していくか”が最重要課題になったのです。
収支の見直しで修繕積立金不足を解消
現状を維持することを決めたフォルムウイング上賀茂が行ったのは、タイル補修や外壁・鉄部塗装をはじめとした大規模修繕工事を想定して管理組合内に「修繕委員会」を設置し、様々な勉強会や活動に取り組むことでした。しかしその取り組みのなかで、さらに追い討ちをかけるような事態が発生。今のままでは、修繕積立金が足りないことが判明したのです。そこで管理組合理事会と修繕委員会では、管理費や積立金の収支を徹底的に洗い出し、支出の削減と収入を増やすための策を次々と講じました。
その最たるものが、それまで不明瞭になっていたマンション敷地内にある駐車場使用料の使い道を明確にし、修繕積立金へ編入することです。林さんは、「不明瞭だった会計処理を整理して、駐車場使用料収入を積立金に回せるようにするまでには大変な労力がいりました。でもこれによって、資金不足の不安を少しは解消することができました」と話します。このほか、管理委託費用の削減を含む委託契約の見直しなどを協議したことが功を奏し、順調に修繕用の資金を蓄積。現在は、2019年3月から始める大規模改修工事に向け、準備を進めている真っ最中です。
「このマンションは、条例によって既存不適格な建物となりましたが、裏を返せば、この地域では2度と建たない7階建てのマンションということですから、ある意味非常に貴重な存在です。きちんと管理をして、快適に住める100年マンションを目指します」と林さん。その言葉どおり、100年後には京都ならではの歴史的建造物となることを目指して、これまでに、屋上防水工事業者の選定や車イス居住者のためのバリアフリー化工事、自転車置き場拡充を兼ねた水道直結工事、非常時のための備蓄品選定などを実施してきました。とりわけ、2011年の東日本大震災を契機に、減災への取り組みを重点化しています。その具体的な内容については、次回【後編】でお伝えします。
(※)平成19年度京都市分譲マンション実態調査報告より
☆☆☆
後編では、防災・減災への取り組みを具体的にご紹介します。
To Be Continued.
- 建物名:フォルムウイング上賀茂
- 所在地:京都府京都市
- 階数 :地上7階建て
- 総戸数:70戸
- 竣工年:1989(平成元)年築
- 管理形態:全部委託
- 管理会社:(株)東京建物アメニティサポート
- 総会開催:毎年2月
- 役員数 :6名
- 役員任期:2年