「2つの高齢化」に備えていち早く動きはじめた、管理組合法人による卓越のマネジメント術【前編】
人口の減少により空き家問題が叫ばれるなかで、築40年超にもかかわらず優良資産として流通市場に出るマンションが京都にあります。昭和51年に建築された「西京極大門ハイツ」。管理組合というマンション特有の住人自治組織を有効活用して作り上げた、資産価値向上へのユニークかつ資産性に富んだ仕組みを取材しました。
時を経ても市場の評価を得る、築41年の“普通のマンション”
西京極大門ハイツは、阪急京都線西京極駅、JR京都線西大路駅から徒歩10~15分に立地するRC造7階建て、4棟総190戸のマンションです。駅近を至上とする最近のマンション建設の常識からみれば、駅から離れた郊外型といえるかもしれません。にもかかわらず、40年経った今でも売買の話が出るとすぐに相応の価格で買手が付いていきます。理由はどこにあるのでしょうか。
結論からいうと、西京極大門ハイツでは、管理組合を運営主体とする独自の「リバースモーゲージ」制度を構築しており、これに集約される資産価値向上の様々な仕組みや取り組みが市場の評価を得ているからです。
ちなみに、西京極大門ハイツの管理組合は築11年目の昭和62年に、京都市内のマンション管理組合としては比較的早い段階で「管理組合法人」を立ち上げていますが、これはリバースモーゲージの構築・運用のためのものではありません。
西京極大門ハイツでは、当時から管理組合も市町村と同じように民主主義のルールに則った住人組織=自治政体であるととらえ、住人と管理組合は地方自治体と同様の性格を持っていると考えていたのです。すなわち、自治政体として「マンションで将来予測できる2つの高齢化問題」に立ち向かうための法人化だったのです。
理事長が指摘する、一般的なリバースモーゲージの問題点
多くの自治体では、特別会計や企業会計などを有し、直接または外郭団体などを通して各種事業を行います。西京極大門ハイツは、この仕組みを資産価値維持に向けたマンション運営に取り入れ、その過程で独自のリバースモーゲージを行いました。
リバースモーゲージとは、自宅(持ち家)を抵当にして金融機関から使途に制限のない資金を借り入れる有担保融資のことで、返済は毎月の利息だけで、元本は担保である自宅を処分して一括返済します。リタイア後の生活資金の確保・補充のためにこの制度を使い、死亡時に自宅売却で一括返済するというのが一般的なイメージです。
しかし金融機関によっては、リバースモーゲージ商品には借りた資金の使いみちが限られているものもあり、また資金使途に制限のない自由型のリバースモーゲージは担保価値の査定がより難しく、今のところまだまだ普及の段階に至っていないのが現状です。
これについて、西京極大門ハイツ管理組合法人 理事長の佐藤さんは、「2つの問題がある」と指摘します。「1つは人の寿命を予見することができないため貸付金を生活費として費消してしまっても、まだ生存しているということが起こり得ること。もう1つは、担保不動産が将来にわたって換金価値を持ち続けられるかという問題があります。このことから、リバースモーゲージの対象は経年変化しにくい土地を担保として提供できる戸建物件に限られることが多く、マンションは概ね除外される」といいます。現在のリバースモーゲージは、金融のプロである銀行でさえ二の足を踏む段階なのです。
グループホーム建設構想に基づく 独自のリバースモーゲージ
それでは、西京極大門ハイツはリバースモーゲージのこうした問題にどのように対処し、独自の制度として確立したのでしょうか。
はっきりしているのは導入目的の違いです。金融機関の場合、資金の貸し付けと回収・利ざやの確保による利潤の追求が最優先されますが、西京極大門ハイツでは、先ほど触れた住人と建物施設の「2つの高齢化問題」への対応が一番の目的でした。どこのマンション管理組合もこの課題に頭を悩ますのですが、西京極大門ハイツは対処が早かったのです。
まず行ったのは、住人の高齢化への対応です。1988年頃、第一期修繕計画(建物・設備等保全整備計画)の作成に着手した段階で、すでに20年後の日本の高齢化の進行とマンション居住者の年齢推移を予測し、これにどう対応していくかを議題にのせていたといいます。そして、管理組合法人による「賃貸グループホーム建設構想」が示されたのです。
これはマンション居住者以外の入居も想定した構想で、当初は建設資金を入居一時金で賄う方向が打ち出されました。しかし、西京極大門ハイツの住人が高齢となりグループホームへ移住した場合も、外部入居者と同様に一時金を支払う形にすると、二重持ち出しになり居住者にメリットがありません。そこで編み出したのが、一時金を管理組合法人が貸し付けるプランです。貸付金はグループホーム退所時(死亡等)に精算。グループホームの毎月の賃料も、元の住戸を賃貸住宅として運用してその家賃収入を充当する仕組みです。この仕組みこそ、西京極大門ハイツのリバースモーゲージなのです。元の住戸を賃貸運用することで、佐藤さんが指摘するリバースモーゲージの1つめの課題「人の寿命を予見することができない」という点も解消できます。
管理組合法人の卓越したマネジメント力が、住人たちに安心した将来を約束しているのが分かります。
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後編では、もう1つの課題「建物の高齢化による資産価値の低下」を解消するための取り組みをお届けします。
To Be Continued.
- 建物名:西京極大門ハイツ
- 所在地:京都市右京区
- 階数 :7階建て
- 総戸数:190戸(4棟)
- 竣工年:1976(昭和51)年築
- 管理形態:自主管理
- 管理会社:─
- 総会開催:毎年5月
- 役員数 :理事3~5名、監事2名
- 役員任期:1年