「マンション内互助」という画期的な取り組み!長屋的つながりで住人を見守る「助け合いの会」(1)
マンションという居住形態は、縦に延びた長屋のようなもの、とよくいわれます。井戸端での世間話で情報を共有し、コミュニティをつくり、「あたりまえ」のように助け合っていた長屋……。現代にも、自分たちのできる範囲で相互に小さな手伝いをしていく「助け合いの会」が見事に機能しているマンションがあります。
自主管理によるきれいな建物とコミュニティが自慢の「コープ南砂」
東京メトロ東西線「南砂」駅から徒歩約13分の「コープ南砂」は、総戸数165戸のマンションです。敷地がたっぷりとある贅沢な配棟に、とても築37年とは思えないきれいな外観、整えられた植栽。小さな公園や花壇、ミニ菜園などもあり、豊かな暮らしがうかがえます。
コープ南砂の大きな特徴は、住人が主体となって管理組合業務を行い運営していることです(受付、巡回、日常清掃業務は委託)。そのため入居当初からコミュニティが育まれ、今では管理組合の総会出席率90%。太極拳やヨガ教室など住人同士の交流も盛んです。
しかし、築年を経るごとに建物は老朽化し、住人約360人のうち65歳以上の高齢者が4割を超えました。単身高齢者世帯は2割。そのうち7割が女性です。ある日、電球の交換をしようとしたおばあちゃんが椅子から落ちて転倒。そのまま助けを呼ぶこともできず、人が来るまで倒れたままだったという一件があり、住人同士助け合う必要があるのでは、という問題意識が生まれました。
助け合いは当初、住人の有志によるボランティア活動で始まりました。しかし、ボランティアメンバーに直接連絡をしたり、無料なのに「どうしても」と謝礼を支払う人が出たり、内容もまちまちであったりと、様々な問題が生じました。「いわゆる2025年問題といわれる超高齢化社会が目前に迫っている。これからは住人主体の会員制の助け合い組織が必要だと考えた」と助け合いの会事務局長の小林さん。自治会で住人にアンケートを取り、助け合いの会の事前説明会も開催。総会で承認を得たのが2006年のことでした。
画期的な「助け合いの会」。その活動内容とは?
「助け合いの会」は会員制の互助会組織で、現在会員世帯数は133件。自治会会員の約85%に上ります。会の運営は13名で構成される運営委員会と事務局で行い、会員は入会金3,000円、年会費1,000円を支払います。また、個別に支援を受けた場合の謝礼は一律30分350円とし、そのうち300円を支援者に謝礼金として支払って残りの50円を運営費に回しています。
助け合い活動を利用したい場合は、管理室か事務局に申込書または電話で申し込みをします。それを受けて事務局長が支援者と日時を調整。利用料は活動終了後に現金で支払います。活動内容は、①保守修理、②家事支援、③外出支援、④介助支援、⑤子育て支援、⑥相談活動、⑦親睦活動の7つ。そのうち①~④の活動に対して利用料がかかる仕組みです。
例えば、依頼が多いものとして老朽化する住宅設備の不具合に関するものがあります。給水設備のパッキン交換、水漏れ修理、コンセントの交換……。部品などを購入する際の実費は別途依頼者が支払います。網戸の交換は型が古くて業者に断られてしまったそうですが、DIYが得意な人が代替部品で修理しました。一度修理すればマンションの設備はどの部屋も同じなので、情報を共有することで容易に修理できるようになるのです。
個別支援に関しては、住人でできるものと専門業者に頼まなければできないものがあり、後者の場合は専門業者を紹介したり、公的サービスを活用したりしています。例えば、高齢者の外出支援や専門的な介助支援については、区のボランティアセンターなどに申し込む手配をする、という支援を行うのです。
親睦会やイベント、見守り活動も積極的に行う
助け合いの会の活動には、個別支援のほかに会員同士の親睦を目的とした活動も含まれています。その代表的なものが、女性会員を中心に毎月第2、4土曜日の午前中に集会室で行われる「ふれあい喫茶室」。年に20回ほどの開催で、昨年は延べ200人以上が参加しました。また、子育て支援の一環として「コープ南砂きっずクラブ」を月1回開催。3歳以上の園児から小学生までを対象とし、読み聞かせやゲーム、敷地内公園での外遊びなどを行っています。
その他、「春と秋のハイキング」「お花見」「みどりのカーテン教室」「夏休み子ども自然観察会」「クリスマス」「新春お笑い寄席」などイベントも盛りだくさんです。なかでも面白いのは年4回開催される「包丁研ぎデー」。敷地内の公園に砥石をセットし、自分で研ぐか、あるいは人に研いでもらいます。昨年1年間の利用件数は63件、研いだ包丁の数120本。生活に根差した便利なイベントです。
また、高齢者に対するサポート活動も熱心に行っています。郵便物をとりに出たり、ゴミ出し・買い物といった日常生活を管理員と同階住人が気にかけ確認する「見守り活動」、様々な会や催しへのお誘い、希望する一人暮らし世帯に定期的な声かけを行う「声かけ活動」、親族や警備会社などによる定期的な連絡を働きかける「安心ネット」の3本柱で、増え続ける高齢者への対応も万全です。
「これらの活動で最も重要なのは、日頃のコミュニティ活動です。当マンションは入居2年目から自治会ができ、管理組合の運営を住人が自主的に管理してきたことによって住人同士の意識も高い。祭りやイベントなども積極的に行ってきました。その結びつきがあってできたのがこの会です。誰がどんな助け合い活動を引き受けてくれるのか、また誰がどんな支援を必要としているのか、住人全体の顔が見えていなければ難しい。地域の共同体のつながりが弱くなっているといわれる中で、こういうコミュニティは貴重です。まさに『遠くの親戚より近くの他人』ですね」と小林さんは笑います。住人からも「すぐに来て対応してくれるので助かっている」、「とにかくここに住んでいると安心できる」と絶賛の声しきり。37年という年月のなかでつくり上げられた助け合いの精神は、新しいマンションでのコミュニティづくりのヒントにもなりそうです。
☆☆☆
次回は、環境やリサイクルに配慮したサークル活動についてご紹介します。
To Be Continued.
- 建物名:コープ南砂
- 所在地:東京都江東区
- 階数 :14階建てなど
- 総戸数:165戸
- 竣工年:1981(昭和56)年築
- 管理形態:自主管理(一部委託)
- 管理会社:─
- 総会開催:毎年5月
- 役員数 :管理組合8名、自治会13名
- 役員任期:管理組合2年、自治会1年