防災部門(防災力の向上)
特別賞
給水設備の新設による災害対策
大成有楽不動産株式会社
佐々木洋様
背景
- 築23年の15階建て140世帯の当マンションは、管理に対する居住者の意識も極めて高く、組合運営に対する改善意識の高さから管理費会計の収支状況改善の取り組みにも積極的で、さまざまな工夫により、一定の余剰金を生み出していました。
- 管理組合はその余剰金を還元に充てるのではなく有効に活用すべきと考え、活用の方策を検討した結果、マンションの防災対策に充てようということになり、私も管理会社の担当者としてその取り組みに積極的に協力しました。
- まず何をすべきかを理事会の中で協議を重ねた結果、断水によって生活用水が使用できなくなるリスクの対策に取り組むこととなり、停電によって断水が発生した場合に備え、生活用水をいつでも利用できるよう災害用井戸の設置を検討することとなりました。
目的
- 管理費会計の収支改善の取り組みによって生み出された余剰金を有効に使うため、災害時などに停電によって断水が発生した場合に備えて、災害用井戸の設置を検討し、災害時の生活用水を確保する。
実施内容〈バリューアップ〉
災害用井戸設置で可決承認、ところが…
井戸の設置検討は2017年からスタートし、当初は電動式2本、手動式1本の計3本の井戸を設置することを計画しました。この計画は同年12月の通常総会で災害用井戸設置という形で議案上程され、可決承認されました。ところが、総会後の準備を進める中で、マンションが高台に建っていることもあり、掘削は当初予定の30mではなく倍の60m必要だということが判明しました。
また設置場所も再検討することとなり、理事会で計画を見直し、2018年12月の通常総会で変更案を再度議案上程しました。変更案では、井戸の本数を1本に減らし電動式としました。停電を想定しているため、非常用電源として発電機を購入し、非常時には電源を発電機に切り替える計画としました。総会で組合員から「井戸からくみ上げた水は上階までどうやって運ぶのか?」という質問があったため、15階建てであることも踏まえ、上階まで水を汲み上げる方法も併せて検討することとなりました。さらに発電機についても、井戸のためだけでなく、停電時のマンションの利便性・安全性確保を目的として、共用照明や自動ドア、防犯カメラの電源への切り替えも賄えるだけの電力確保の可能性も含めて検討することになりました。
念願の井戸を設置
そして2019年3月に念願の防災用井戸が設置されました。設置に併せた工夫として、平常時でも1階共用部分の管理事務室や集会室の水栓・トイレ及び植栽の散水栓を井戸水で賄えるようにし、また管理事務室や集会室の水栓には浄水器を設置して飲料水として利用できるようにしました。この工夫によって水道契約が解除できることとなり、その分の水道代の節約を実現しました。
発電機、給水手動装置を購入
発電機については、井戸の起動電力を考慮しつつ、エレベーターを除く共用部分の電源を賄うだけの電力確保を念頭に機器を選定した結果、燃料保管の安全性や機器の保守性からLPガス発電機を採用することとなり、2020年1月に発電機2台を購入、LPガス保守契約を締結しました。発電機を並列2台で使用することにより、4.2kVAの高出力の電気を利用することとなるため、2台並列で計100時間分稼働できるだけの燃料を確保することを想定し、LPガスは100㎏を用意しました。
なお、そのガス事業者は電気の小売事業者でもあったことから、居住者が電気・ガスの契約先をその業者に切り替えた場合、さらに年間使用料の一部を管理組合に還元できるという提案がありました。管理組合から居住者に電気・ガス契約切り替えによる管理組合のメリットを説明し、任意ではありますが契約切り替えをお奨めした結果、その還元でLPガス保守費用を賄うことができました。
最後まで課題として残っていた上階への水の汲み上げについては、電源不要の手動ポンプがあることを探し出し、それを導入することで解決することとしました。そこで、2020年3月に自転車の空気入れの要領で楽に上階まで水を汲み上げる給水手動装置を導入しました。その導入費用約15万円も、自治体の自主防災組織に対する防災資機材購入助成制度を利用することで、半額の補助を受けることができました。
非常用トイレも全戸に配布
また、給水だけでなく排水系統についても震災時に排水管の破損等で使用できなくなる可能性があることを考慮し、2020年8月に非常用トイレ(全30回分)を全戸分購入し配付しました。これらの対応によって、災害時に上階までの生活用水や共用部分電源、全住戸の非常用トイレの確保を実現しました。
結果
- 結果として、電動式防災用井戸1本、管理事務室・集会室の水栓に浄水器設置、LPガス発電機2台、給水手動装置1台、非常用トイレ(30回分×全戸)を導入。これらの対応によって、災害時に上階までの生活用水や共用部分電源、全住戸の非常用トイレの確保を実現し、災害に非常に強いマンションとなりました。
苦労した点・工夫した点
- それぞれの機器や物品等の購入にあたっては、保守契約の工夫や助成制度の活用によって、経費を削減することができました。井戸を設置したことで水道契約を一部解除したため、水道代の節約にもなっています。
居住者の声
導入時にご尽力いただいた前理事長より、「万一の災害に備えることができて大変よかった。今後も運用を含めて次期の管理組合及び住民の皆様にしっかりと継承していく事が重要と考えています」とのお言葉をいただきました。