防災部門(防災力の向上)
部門賞
100年に1度の台風に
どのように立ち向かったか
(1m70cmの冠水)
株式会社東急コミュニティー
下原航様
背景
- 2019年10月12日、100年に1度といわれる台風19号が管理担当マンションを襲いました。東京23区内にある約80戸のマンションで、防災マニュアルの整備等も進めていたマンションです。
- 内水氾濫により建物1階部分は水没し(床上約1m70cm浸水)、エレベーターや機械式駐車場をはじめ、電気関連盤等の大半の建物設備が冠水、水没車両18台発生といった甚大な被害を受けました。管理会社として『水災保険加入の事前提案』『被災翌日から約7カ月間にわたる復旧対応』『今年以降の水害対策提案』と、マンションの防災力向上に向けて管理組合と二人三脚で前向きに取り組みました。
目的
- 近年顕在化している内水氾濫の影響を東京23区内で受けた貴重な事例として、浸水エリアに建つマンションのリアルな復旧対応、事前対策、今後に活かせる学びを共有します。
実施内容〈バリューアップ〉
事前に水災保険の特約付帯
河川に近い建物の立地やハザードマップの浸水予想マップを受け、被災前に水災保険特約を当マンションの共用部分保険契約に中途付帯しました。今回の台風でエレベーターや機械式駐車場をはじめ、建物設備が著しい損害を受けましたが、水災保険に加入していたおかげで、被害の復旧に要した合計約1億2,000万円のうち、約1億1,850万円を水災保険でカバーすることができました。建物被害は甚大でしたが、水災保険に加入した事前対策のおかげで組合財政の観点から考えると、長期的にはプラスの材料となりました。また、復旧費用が保険でカバーできる見通しであったことによって、管理組合として多額の工事支出に関する合意形成のハードルが下がり、迅速な復旧判断を進めることができました。
協力業者・工事部門との事前準備~復旧対応
台風19号は3連休中の初日16時~23時頃に首都圏を接近通過。17時頃に理事会役員から「建物周囲が浸水し始めている」と連絡を受けていたため、当日中に工事部門の担当者や電気業者等の協力業者と連絡を取り合い、翌日早朝からマンションへ向かう流れを段取りました。翌日早朝に車で現地へ向かい、同行してくれた電気業者の職人によって、かろうじて生きていた電気配線を繋ぎ止め、被災翌日から2日後には電気・給水・給湯といった基本的なライフラインを復旧させることができました。
機械式駐車場は水没して稼働できない状態であったため、水没車両の搬出にはクレーン車やレッカー車を投入し、段取りを含めて大がかりな作業になりました。エレベーター等の大型設備は撤去・製作に時間を要し、完全復旧には約7カ月かかりましたが、優先順位を明確にしながら全ての設備復旧を地道に進めることで、建物のインフラ維持を担う企業として一層の信頼を得ることに成功したと考えています。台風通過中から協力業者に同行していただく段取りを取り付け、被災翌日に現地へ駆けつけることが出来たことが早期復旧に繋がったと振り返っています(当社社員:約25名/協力業者:約20名を動員)。
理事会の機動的対応による住民救助
台風通過時は連休中であったため、理事会役員全員が在宅しているタイミングでした。台風接近中であった当日の日中に、台風対策の理事会を開催していただき(当社は遠隔参加)、車両の高台移動を促すアナウンス・飛散する可能性のある大型植木鉢等の備品を館内に移動して頂きました。浸水が始まった連絡を役員から受けたタイミングで、「1階住戸で逃げ遅れている住民がいないか」確認するように依頼しました。役員が1階住戸を巡回した結果、寝室に逃げ遅れている住民が1名いることを発見したそうです。役員が複数名で窓ガラスを叩き割ってその住民を起こし、救出することに成功しました。その後、1階住戸は完全に水没してしまったため、この動きが居住者の命を救うことにつながりました。甚大な水害を受けたにもかかわらず、結果としてマンション内に死者が1名も出なかったことは理事会の機敏な対応のおかげと考えています。また、日頃から防災マニュアルを整備していたことや被災が連休中であったことから、共用部分の復旧対応に約120名もの住民が協力してくれました。
今後の水害対策について提案
<ハード面>
設計コンサルティング業者と連携し、今後の水害対策工事を復旧作業と並行して提案しました。
理事会と検討した結果、今後も同規模の内水氾濫や河川氾濫が発生することを想定して電気盤室、エレベーター、ボイラー室等といった生活に直結する重要設備を優先的に水災から防ぐ設計で対策工事を進めることとなりました。具体的には、下記のとおりです。
- 電気盤、ボイラー、ポンプ室等の重要かつ使用頻度の高くない扉を強固な防水扉に交換する
- 設備室内の配管に逆流防止弁を取り付け(内水氾濫対策)
- エレベーターや管理室等の高頻度利用の重要設備には約1m70cmの特注防水板取り付け
- エレベーター巻上機の位置をピット下から変更
<ソフト面>
管理会社や公共機関が駆け付けるまで住民同士の自助を促すソフト面の防災力を向上
- 地震を想定していた被災時の『住民活動マニュアル』に水害対応を詳細に追加・更新
- 住民だけで特注防水板を設置できるよう定期的な設置練習会を開催
- 発電機等の防災備品を住民だけで展開できるよう使用訓練(停電・水災想定)
- 防災備品の支給訓練、要配慮者のサポート訓練
- 管理関係書類のデータ化(水没、風化に備えて)
- 水没する可能性がある場所に防災備品を配置しないこと
結果
- 管理組合より台風被害復旧活動に対して感謝状を受け取ることができました。これは被災直後から設備復旧や消毒・清掃作業に組織として全力であたり、住民の生活を守ることができた成果と考えています。
- 日頃より工事担当、協力業者と良好な関係を築けていることによって、3連休中の台風でしたが、ライフラインを含めて迅速な復旧作業を段取ることができました。いざという時に助けてくれる周りの方々や組織のサポートのありがたみを実感し、個人としても非常に貴重な経験となりました。
- 今回の東京都内・首都圏の被災を受けて、一層災害に対する関心が高まっていると感じています。今回の被災後、当マンションでは水災対策に重点を置いて進めてきましたが、首都圏を襲う直下型地震等もいつ発生するか分かりません。災害への関心、居住者同士の連帯感がさらに深まった今回の件を十分に活かし、災害時に住民同士で共助を行うことができる体制構築を管理会社として精一杯サポートしたいと考えています。
苦労した点・工夫した点
-
居住者の声
感謝状より抜粋
「今回の台風によってマンションは甚大な被害を受けましたが、復旧に向けて現場で連日対応して下さった貴社の社員の対応、即座に手配して下さった業者の数、施工までのスピード感や工事品質など、大手管理会社の実力や安心感を実感する機会となりました」