工事部門(建物資産価値の向上)
特別賞
修繕積立金を活用した専有部分の改修工事
株式会社長谷工コミュニティ
加藤敬一様
背景
- 私が担当する3棟構成300戸規模の団地型マンションで、築30年を目前にして給湯配管(銅管)劣化による漏水事故が頻発するようになりました。その件数は30件を超え、全体の1割に相当。毎月のように漏水が発生するという状況でした。
- 【住民・理事・管理員の負担】漏水事故は、被害を受ける下階居住者のみならず、悪意なく加害者となってしまう上階居住者の精神的・金銭的な負担が大きく、住人トラブルに発展することもあります。昼夜問わず発生する漏水対応にあたる管理員や管理組合理事の負担も相当なものでした。
- 【保険の問題】漏水調査や復旧に関わる費用の多くは保険で補填されてきましたが、保険が認定されないことや、認定された賠償金額では不十分であるケースもありました。
- 給湯配管を全て入れ替えるには高額な費用がかかります。当時の修繕積立金総額3億円弱に対し、給湯配管改修に要する費用は約2億円超。また、給湯配管は専有部分であるため、その修繕費用は長期修繕計画に盛り込まれておらず、高齢者が増えていることもあり修繕積立金の値上げも難しい状態でした。
目的
管理規約により修繕積立金を使うことができない専有部分の配管工事を、修繕積立金の値上げ等を行うことなく実施。1住戸につき4日間の工程となり、その間は居住者の立会いが必要な改修工事であるため、実質全住戸の居住者から賛同を得る必要があり、これらの課題をすべてクリアしながら無事工事を完了させるのが目的です。
実施内容〈バリューアップ〉
工程の分割
漏水事故件数は棟ごとで差があったことや、修繕積立金収入が年間5千万円程度であることをふまえて、事故件数が多い棟から順に毎年1棟ずつ工事を行い、3年計画で全棟の工事を行うことで、修繕積立金総額が一定の水準を下回らないよう計画しました。
長期修繕計画の見直しと管理規約の改訂
15年の保証が付帯される屋上防水工法を採用する等で、大規模修繕工事の周期を延長。ただし、必要最低限の修繕については従来よりも修繕周期を短縮するようにして、修繕積立金を値上げしなくても将来資金不足に陥らない計画を見直しました。また、「共用部分と構造上一体となった部分の管理は管理組合が行うことができ、その費用は修繕積立金を充当できる」というように管理規約を改訂。
徹底した工事説明
4日間の在宅については「難しい」との意見が多数ありましたが、複数回に渡って工事説明会を開催。工事の重要性を丁寧に説明することによって、理解を示していただける居住者が日に日に増えていきました。立会いができない方には、警備会社による有償での立会い代行などを提案し、活用いただきました。
先行工事者への返金対応
既にご自身で給湯配管改修をしている住戸については、管理会社が現状の配管を確認し、一定の水準で施工された住戸は工事対象外としました。該当住戸の組合員に対しては、1住戸あたりにかかる給湯配管改修費用相当を修繕積立金から返金することで不公平感を解消しています。
結果
- 全住戸の給湯管を現在の銅管(一般的な耐用年数:20 年)から、ポリブデン管(同:35 年)に取り替える計画です。2017年に1棟目が着工以降、先行工事者を除く全住戸(2棟199住戸)で工事が予定通り完了し、現在は計画の最終年度、3棟目の改修に着手しています。当マンションは大阪北部地震や大型台風で甚大な被害を受け、多額の修繕費用が必要となりましたが、有事に備えた資金計画が功を奏し、復旧工事も無事に完了しました。
苦労した点・工夫した点
管理会社としての最も重要な役割は、工事を実現するための資金計画の策定補助、総会承認を得るための各種支援、着工後は、工事期間中に必要となる在宅日程調整のためのアンケートの実施、施工業者と居住者様の調整やスケジュール管理を主にお手伝いしました。
また、空き住戸ではオーナー様の連絡先がわからない場合もあり、なかなか連絡が取れずに苦労しました。
居住者の声
総会へ上程した段階では、予算面や工事に伴う在宅期間の面からご賛同いただけない方も多くいましたが、工事完了後は漏水事故もぱったりと無くなり、「安心して生活ができる」と喜びの声を多くいただいています。
また、当マンションの事例を聞いた他の管理組合からも「同様の提案をしてほしい」との要望を受けています。