部門賞
空き家活用による
分譲団地再生事業

日本総合住生活株式会社様

背景

日本総合住生活（株）は、UR都市機構のグループ会社としてUR賃貸、分譲住宅合わせて約100万戸を管理する管理会社です。団地の管理を中心に住宅のリニューアル、共用部分の改修や技術開発、商品開発なども行ってきました。当社の管理物件は高経年の団地が多く、築30年を超える住戸が約8割を占めています。
高経年の団地は、多くの課題を抱えています。社会問題ともなっている空き家、建物と居住者「２つの高齢化」、それに伴う管理運営能力の低下などです。管理組合だけでは解決が困難な課題であることから、当社では３年前に団地再生事業を開始しました。
千葉市のA団地は築51年の公団分譲で、総戸数768戸、27棟すべてがエレベータのない、階段室型の5階建ての団地です。A団地は過去に２回の建替えの検討が行われましたが実現に至らなかった経緯があり、現在では建替えでなく修繕により既存建物を長寿命化する方針となっています。再生方針を明確化した管理組合と当社が連携し、専有部である住宅部分にアプローチした２つの事業を実施しました。

目的

高経年団地の抱える課題「空き家問題」「建物と住まい2つの老い」を解決するため、管理組合、地元NPO法人と三者で連携協定を結び団地再生事業に取り組んでいます。千葉の団地で行っているのは、空き家を活用して外から若者を呼び込む「リノベーション賃貸」と、高齢世帯等の１階への住み替えを支援する「団地内住み替え支援」の２つの事業です。

実施内容〈バリューアップ〉

若者向け「リノベーション賃貸」

当社が買い取った空き家を若年層向け賃貸住宅にリノベーションすることで、若い世代を団地へ呼び込み、同時に団地内での交流会を実施するなど団地コミュニティの活性化を支援しています。
団地の典型的な田の字型プランを、若い世代の居住ニーズに合わせて改修。小さな和室で構成されていた3DKの間仕切り壁を撤去し、広々としたワンルームにしたうえで、DIYが可能な住宅や和テイスト、子育て世帯に便利な住宅などにリノベーションを施しました。
完成した住宅をモデルルームに。さらにそのモデルルームを活用してDIYのワークショップを行ったり、SNSで情報発信をしたりすることで、若い世帯に団地の良さを知ってもらう機会としました。
３年間で４タイプ７戸の住宅を賃貸化。20～40代の単身者、カップル、夫婦が入居しています。

団地内住み替え支援

現在団地に住んでいる居住者の課題を取り除く方法として、団地内での住み替えを検討。エレベータのない中、階段の昇降に困難を抱える高齢者等世帯の家を当社が買い取り、空き家となっている低層階へ住み替えてもらう「住宅の交換」によって、住み慣れた団地で長く暮らせる環境づくりを提案しました。
具体的な事例として、団地の3階に住んでいる方の息子さんより相談を受けたケースがあります。両親の介護等の関係で、今より広い間取りの1階の部屋に移りたいという意向があり、高齢の両親にとって住み慣れた環境を優先し団地内住み替えを決断されました。
当社が所有する1階の住宅との相互売買が完了し、住み替え先の住宅をリフォーム。竣工後に住み替えが完了しました。当社が買い取った3階の住宅は、若者向けにリノベーションし賃貸する予定です。

結果

リノベーション物件に住む若い世帯の中には、団地の自治活動である棟会議への出席や、お祭りへの参加など、団地のコミュニティへ積極的に参加する人もみられます。フルスケルトンでの改修にある程度の費用を要しているため、決して収益の大きい事業ではありませんが、リノベーションという専有部分への適切な投資によって若い世代の入居が見込めるという前例をつくったことは一つの成果でした。実際に当社に続いて、当該団地でリノベーションを実施した個人賃貸オーナーの出現も確認しています。
団地内住み替えの案件に関しては、介助をしている息子さん娘さんから「階段の昇り降りの負担やストレスが減った」とのお声をいただきました。今後ヒアリングやアンケート等により具体的な効果を検証する予定です。