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- 2013.07.01掲載
<事例タイトル>
●太陽光発電システムで共用部の電気代を大幅削減
●高圧一括受電で電気代を4割削減
●緑と風の力を利用したマンションの節電
◆大規模修繕を機に発案
閑静な住宅街の中にある東京都杉並区のマンション(総戸数33戸、地上7階建て)は、太陽光発電システムを導入して、共用部の電気料金が6割も安くなった好事例です。
導入のきっかけは、大規模修繕。竣工から10年を超えたとき、当時の修繕委員長で現在管理組合理事の磯田雅也氏から「修繕のついでに太陽光発電を設置したらどうか」と理事会に提案があったことでした。
「私は以前、太陽光発電関係の仕事に就いていたんです。また、国・都・区からの補助金も受けられそうだったので、これは活用しなきゃと思いました」と磯田氏。
管理組合理事長の飯島伸広氏も「すぐに総会にかけましたが、修繕積立金の資金が潤沢だったことや、共用部の電気料金が削減できることなど様々な条件が揃って、反対意見が出ることもなくスムーズに可決しましたよ」と語ります。
◆10年強で設備投資費を回収
設置したのは2011年6月。あの東日本大震災の後でした。「まさかあれだけの災害が起こるとは考えてもいませんでしたが、その後首都圏では節電要請や計画停電などがニュースになり、電力の供給体制に不安が募りましたよね。幸いこのエリアでは計画停電がなかったのですが、取り付けたばかりの太陽光発電システムで非常時には携帯電話の充電等ができるとわかり、住民の皆さんも『本当につけてよかったね』と口々に言っていましたよ」(飯島氏)。
導入にかかった費用は全部で約700万円。国と区の申請締め切り期限が過ぎてしまい、残念ながら都からの補助金100万円だけしか受けられませんでしたが、大規模修繕と合わせて行うことで工事費を安く抑えることができました。太陽光でつくられた電気は共用部の照明などに使い、余剰分を売電するシステム。導入費は10年強で回収できるそうです。また、この際にと共用部の電灯を200万円ほどかけてLEDに切り替え、節電効果をより高めることにも成功しています。
◆すぐに顔見知りになれるマンション
節電が叫ばれるようになってから、太陽光発電システムの導入を検討する管理組合が増えています。しかし、実際に施工した事例は数えるほどしかないのが現状です。立地条件や躯体の耐荷重をクリアできたとしても、導入費用、施工業者の選定、合意形成など、超えなければならないハードルが多く、断念せざるを得ない管理組合が多いのです。では、なぜこの管理組合はここまでトントン拍子に話が進んだのでしょうか。
「私たちのマンションは、仲がいいと近所でも評判のマンションなんですよ。磯田さんが主宰する“早朝ジョギングの会”は地域の人も巻き込んでもう15年ほど続いています。また、春と秋に“クリーン大作戦”と称してマンション共用部の一斉清掃を行っています。
掃除が済んだら駐車場にみんなでビニールシートを広げて懇親会です。新しい人が入ってきてもすぐに顔見知りになる。“隣の人の顔も知らない”ということは、うちのマンションにはありません」と飯島氏。
◆日々の積み重ねが成功の秘訣
スムーズな合意形成の裏には、このような日頃の積み重ねがあったのです。修繕積立金が潤沢だったのも、入居から4年目に管理体制を見直し、浮いた管理費を修繕積立金に充てていたためでした。太陽光発電システム導入のきっかけを磯田氏がつくり、大手ゼネコンに勤務するAさんが業者の選定を担当し、管理組合の予算管理は金融機関に勤める理事の佐藤行男氏が管理する。マンション内のマンパワーをフルに活用したことも奏功しました。
既存マンションでは難しいといわれる太陽光発電システムの導入に成功したのは、決して偶然ではなかったのです。
「大事なのは人任せにするのではなく、マンション全体を自分たちの資産と考えて、普段から積極的に関わっていくことだと思います」と、佐藤氏は話してくれました。マンション管理に対して常に問題意識を持つこと、楽しみながらコミュニケーションをとること、一人一人の小さな積み重ねが実を結ぶのだということがよくわかりました。