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3.11 以降のマンション管理をいかに考えるか

工学院大学建築学部建築学科教授 遠藤和義
3・11の経験 3・11の経験
2011年3月11日午後2時46分に発生した東北地方太平洋沖地震から半年あまりが経過した。被災された皆様、今なお不自由な生活を余儀なくされている皆様に謹んでお見舞い申し上げます。

その時、筆者は震度5強を観測した東京西新宿の高層ビル街にある25階の研究室にいた。経験したことのない数分に及ぶゆっくりとした大きな揺れ、エレベーター停止による上下移動の困難、帰宅困難を経験した。家族とは夜遅くになってやっと連絡が取れ、翌日午前に何とか帰宅し、自宅マンションの無事を確認した。

建築学を専門とし、職場ではBusiness ContinuityPlan(BCP:事業継続計画)と呼ばれる、震災や事故などの予期せぬ出来事に対して事業の継続と復旧を確実とする行動計画の検討等にかかわってもいたが、公私においてその備えの不十分さを痛感した。

3.11の経験は、世の中の様々な仕組みに対して見直しを迫っているように思う。本稿では、われわれ分譲マンション居住者がそれをいかに教訓とすべきか、その材料のいくつかを提示したい。

◆高度経済成長期というシンクロニシティ

66年前になる戦後の住宅事情は、推定420万戸の住宅不足で始まった。それが2008年には、総世帯数4990万世帯に対して総住宅数5759万戸と、1世帯当たり1.15戸の住宅ストックを抱えるに至っている。数だけで見れば40年前の1968年に充足し、その後は規模拡大、耐震性や設備の水準等の質的向上に取り組んできたことになる。

この住宅ストックの形成を支えた経済発展は、戦後のベビーブームによる若年労働力の急増がもたらした人口ボーナスと呼ばれる経済的利益によるところが大きい。これには、現在、世界一の長寿国となったわが国も戦前の平均寿命は50歳以下で、当時は社会全体に高齢者扶養の負担が少なかったことも効いている。若年層は、政府が持家政策を進めるなか、マイホームを夢見て積極的に貯蓄し、それが金融機関を通じて成長産業に効果的に融資され、雇用拡大、所得増につながる好循環を生んだ。加えて、この3・11を経験して気付いたのは、1990年代前半までの高度経済成長期が、戦災はもちろん阪神・淡路大震災や東日本大震災のような壊滅的災害がごく少ない時期にあたったというシンクロニシティ(意味ある「偶然」の一致)である。

私事になるが、1933年(昭和8年)3月3日、「昭和三陸大津波」の当日に福島県浜通りで生まれた私の父は、横浜に出て工務店を40年以上経営したが、その間、自分の建てた建物に修繕を要するような災害にただの一度も遭わなかった。近代以降でも、明治〜戦中の災害史をひもとけば、そのありがたさがよく分かる。3・11は、わが国分譲マンションの歴史60年によって形成された562万戸のストック(2009年現在)も、少なからずそうした幸運の働いた結果だと教えてくれているように思う。

◆もはや考えざるを得ない地震のリスク

ずいぶん以前から、日本列島は地震の活動期に入ったと聞いていた。政府の地震調査委員会が震災直前の2011年1月1日に発表した「長期評価」は、日本列島の広い範囲が発生確率の高い海溝型地震や活断層の影響を受けるという内容であった。

同評価は、今回の震源域に含まれる「三陸沖南部海溝寄り」「宮城県沖」「茨城県沖」等でM7を超える地震が30年以内に発生する確率を80%以上、とくに宮城県沖については同99%と予想していた。千年に1回とか、想定を超えたとかいわれるのは、前述の震源域が連鎖したM9という地震の大きさと、それによる巨大津波の発生を指している。

同評価から今後懸念される地震の一部を引用する。首都直下地震の一つである「南関東で発生するM7程度の地震」はM6.7〜7.2程度で同70%と予測されている。また近年、連動して発生することが懸念されている「想定東海地震」はM8程度で同87%(参考値)、「東南海地震」はM8.1前後で同70%程度、「南海地震」はM8.4前後、同60%程度と予測されている。

もはやこれらのリスクを無視して、われわれの平穏な生活は成り立たない。

◆個人が出来ること、管理組合がすべきこと

こうした状況に、分譲マンション居住者は、いかに対応すべきであろうか。まず、専有部分である住戸内の家具の配置や固定方法の確認、揺れからとっさに身を守る方法や場所の確認、防災備蓄品や非常持出品の準備、マンションが被災した場合の避難場所等の確認、家族や親類との連絡方法の確認等がある。これらは個人の責任で今すぐにでも行動に移せる。
分譲マンションは、前述のような専有部分に加えて、骨組み(躯体という)である基礎、柱、梁、床、壁、天井、配管、配線等やエントランス、エレベーター、廊下等、居住者の共用部分からなる。
一般に分譲マンションの耐震性能とは、この躯体の強度や共用部分の仕様で決まる。この共用部分は、各戸が持分割合を決めて区分所有し、分譲マンションの購入者(区分所有者)はこれらを管理するための管理組合に入る。

つまり共用部分は居住者個人の考えや、支出によって改変することはできない。この共用部分に手を加えたり、管理の方法を変えたりするためには、管理組合の特別決議が必要で、区分所有者および議決権の4分の3以上の賛成が必要(建て替え決議は5分の4以上の賛成が必要)となる。

つまり、管理組合の意思決定が、居住者個人の生命や財産に大きな影響を及ぼすことになる。