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  • 2024.07.01掲載

マンションに住む。戸建てと違い、求められる音のマナー

横浜市立大学国際教養学部教授 齊藤広子

●あるマンションでの取り組み

 入居開始してから2年。若い世代も多く、子どもたちも小さく、元気いっぱいです。そのため、「上の階からの生活音がうるさいから何とかしてほしい」という声が管理員に寄せられました。管理会社としては、騒音問題などの個別案件への介入はできず、掲示板に注意喚起文を貼っていました。しかし、問題が解決しないことから、管理組合は理事会で話し合い、「管理組合は共用部分を管理する組織ではあるが、この音の問題に関して何もしないわけにはいかない」ということになりました。そこで、次のようなアンケートを実施しました。

■生活音に関する居住者アンケート(取組事例より抜粋・編集)

※画像クリックで拡大

 管理組合で音に関して話し合う中で、居住者は「誰に相談すればよいのか不安」であり、注意喚起の掲示を見るたびに、子どものいる家族には無言の圧力になっていたことがわかりました。そこで、「音はある程度仕方がない」「音を気にしている人の受忍限度も上げてほしい」などの声も寄せられていたので、掲示で肩身が狭い思いをされている人のことを考えて、上記の5番目の質問を用意しました。
 アンケートの結果は次の円グラフのようになりました。約半数の人が、「こちらも音を出していると思うのでお互い様だと思う」と回答し、約3割の人が、「音は聞こえてくるけど、子どもの音なので今だけだと思い気にしていない」と回答しています。
 この結果に、管理組合としては、次のメッセージを居住者の皆さまにお伝えしました。
「早朝と深夜を避けていただければ、日中のお子さまの音は特に気にしていないので、お互い様です」と考えられています。このマンションに住まれているパパママは、掲示板を見るたびに委縮していたかと思います。今回のアンケート結果を見て、パパママにお伝えしたいことは「このマンションの居住者さんは、あなたが思っているよりもお子さまの音に寛容ですよ」ということです。もちろん、多少の配慮は必要ですが、過剰な心配は不用です。
今回のアンケートは、「音の原因を特定して、音を止める」ことではなくて、「音を出しちゃいけない……」と心配されている方の一助になればと思い実施しました。

■アンケート結果 [設問5 その音はどのくらい気になりますか?]

●さいごに

 いかがでしょうか。まさに、住み手の知恵であり、思いやりですね。暮らしの中でまったく音を出さないことはできません。しかし、周りへの迷惑を小さくする配慮も大事です。そして何よりも大事なことはお互いがその音を気にならない関係を創ることではないでしょうか。「音にも顔がある」といわれ、知っている人の音は受忍限度が高くなることが証明されています。
 隣の大きな声でバトルする親子げんかを聞くたびに、「親はこんなに必死になって子どもを育てているんだな。私の両親もそうだったんだろうな」と、隣からの音に、改めて「親に感謝」するようになったという話も聞きました。周りといかに「共に生きる」関係を創ることができるのか。これを支えるのがマンションのコミュニティです。マンションでは、多くの人があなたの暮らしを支えてくれています。そしてあなたの暮らしを応援しています。
 このマンションの取組みの詳細は 「マンション・バリューアップ・アワード2023 マンションライフ部門審査員特別賞 フロントマンとしての創意工夫、逆転の発想で価値向上に貢献 このアンケートには秘密があります。~音に悩むパパママを救ったたったひとつの設問~」https://mansionvalueup.com/2023/sho312/をご覧ください。そして、マンションの騒音に関するエピソードとして「マンションいい話コンテスト2015、グランプリ 集会室での育児 https://www.kanrikyo.or.jp/award/contest2015/index.html#workWinning01」もあります。
 このエピソードは本当に癒やされます。やはり、マンションって素敵ですね。
ぜひ、皆さまも素敵な環境をみんなで創り、マンション暮らしをエンジョイしましょう。




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齊藤 広子 Profile
齊藤 広子
横浜市立大学国際教養学部不動産マネジメント論担当教授。工学博士、学術博士、不動産学博士。

専門は住まい学、住環境管理学、 居住のための不動産学。研究テーマは、マンションの管理、住宅地の住環境マネジメント。日本マンション学会研究奨励賞、都市住宅学会論文賞、日本不動産学会業績賞、日本不動産学会著作賞、不動産協会優秀著作奨励賞、日本建築学会賞、都市景観大賞優秀賞、グッドデザイン賞等受賞。
著書に『新・マンション管理の実務と法律』(共著・日本加除出版)、『不動産学部で学ぶマンション管理』(鹿島出版会)、『これから価値が上がる住宅地』(学芸出版社)、『初めて学ぶ不動産学』(市ヶ谷出版)、『住環境マネジメント〜住宅地の価値をつくる〜』(学芸出版社)など多数。