- 連載
- マンガで事例研究
- 2024.01.04掲載
●どんな取り組みがあるの?
こちらのマンションでは、計画修繕に関しては、2回の大規模修繕を実施しています。驚いたことに築100年までの長期修繕計画があります。100年間持続的に維持管理をするために何が必要かのシミュレーションが行われています。そして、大規模修繕時には、常に改良を心がけています。それゆえ、築約40年のマンションにはとても見えません。
マンションに入るアプローチ部分は当初白色のタイルでしたが、2012年に雨でも滑りにくいタイルに替えました。ベンチにできる自然石や夜間足元を照らすダウンライトを設置したり、玄関部分は高齢者にも優しく便利なスロープや自動ドアを設置して、見た目も明るくかわいいデザインに。小さな窓で奥まったところにあった管理員室を前方に移し、玄関やアプローチ、エレベーターホール等を見えやすくしました。エントランスホールのタイルもリフォームし、郵便受けも全面取り換え、その上部には電子掲示板を設置しました。エントランスから続くアトリウムは、ウッドデッキにしておしゃれな空間に。中庭には天の川をデザインしたタイルを敷き、自然石のベンチも置かれています。交流室は、地域の方にも使ってもらいやすいように全面開放できる窓や扉にし、1階の元個人事務所を管理組合が2室購入して会議室と管理組合事務所に。さらに井戸をつくり、各フロアーに水栓を設置しています。
足りなくなることが多い駐輪スペースは、その半分に共用自転車を配しています。いろんなタイプの自転車があり、毎日楽しめそうです。庭には所狭しと、様々な実のなる木が植えられています。サンショ、クリ、ブルーベリー、ナツメグ、ユスラ梅、ラズベリー、アケビ、カキ、ジュンベリー、レモン、ユズ、スダチ、ナツメ、ヤマモモ、山ブドウ、サクランボ、ブラックベリー、ブドウ、アンズ、モモ、プラム、イチジク、ザクロ、ビワ、リンゴ、ウメです。「散歩をしながらつまんで食べてください」とのメッセージも。たくさん採れたときは、エントランス横のアトリウムに置いて自由に持ち帰ってもらっています。ベリー類でジャムをつくることもあるそうです。
マンションの各部屋は限りある空間。捨てたいのに捨てられない家具や荷物がいっぱいなことがあります。それを大型ごみ処分会で一斉に捨てる日を決めて実行しています。さらに、自習室では、勉強を教えてくれるお兄さんやお姉さんがいます。マンション内の集会室を使って、住民のお得意な芸の発表会や教えあい、ケーキづくり教室やお茶会、大人カフェや楽しみ満載の防災訓練、そして週に2回、移動販売も来ます。こんなマンションに住めたら、楽しみ、安心・安全を享受できそうです。
●地域にも開くマンション
楽しく、便利なのはマンションの住民だけではありません。移動販売には近所の方も買い物にいらっしゃり、様々なイベント等にも参加しています。水害に備えて万が一の際には、近隣の方たちがこのマンションに避難してくることも想定されています。市が指定した避難所に行くよりも圧倒的に早く来ることができます。このような環境のもと近所の子どもたちが大人になり、このマンションを購入し、そこに住まうことで、マンションの高齢化進行の予防にもなっているそうです。
多様な取り組みを継続的に行うことのできるカギは「理事だけに仕事を押し付けない」ということ。そして、できるだけ多くの方の参加や関心を促す体制づくりです。せっかく持っている専門的な知識・技術、経験を、ぜひマンションで発揮してほしいですね。今回ご紹介した事例のほかにも、防災委員会、災害対策委員会、植栽委員会、長期修繕計画委員会、管理会社のフォローアップ委員会、規約・細則作成・改訂委員会、駐輪場対策委員会、住民意向を反映させる委員会、自治会と連携した夏祭り実行委員会、イベント実行委員会等の専門委員会を設けているところがあります。
小規模なマンションではいくつもの委員会をつくるのは難しいですね。そこで、専門委員会をつくるだけでなく、拡大理事会的に専門の部会の設置、理事経験者によるサポート体制の強化、イベントに関しては近隣マンションとの連携した体制づくりなど、皆さまのマンションに合った方法で、長期的な視点に立ってマンションをマネジメントできる体制を整えていきましょう。
近隣・地域に開かれるスペース
庭で採れた収穫物 アトリウムにて
齊藤 広子
横浜市立大学国際教養学部不動産マネジメント論担当教授。工学博士、学術博士、不動産学博士。
著書に『新・マンション管理の実務と法律』(共著・日本加除出版)、『不動産学部で学ぶマンション管理』(鹿島出版会)、『これから価値が上がる住宅地』(学芸出版社)、『初めて学ぶ不動産学』(市ヶ谷出版)、『住環境マネジメント〜住宅地の価値をつくる〜』(学芸出版社)など多数。