- 連載
- マンガで事例研究
- 2023.07.03掲載
●過去の地震からの学び
阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震などから、地震による建物への影響、暮らしへの影響、生命への影響を軽減する方法を考えてみましょう。
第一に建物を強くすること。旧耐震基準のマンション(1981年以前に建設された建物)は低い耐震基準のもとでつくられているので、耐震性が低い可能性があります。耐震診断を行い、必要に応じて耐震補強をしましょう(耐震診断については2013年冬号をご参照ください)。
第二に管理体制を強化すること。その基本としては所有者や居住者の把握と名簿づくりです。「管理費等の滞納者と連絡が付かない」「所在不明の所有者がいる」などは熊本地震、東日本大震災の時にも問題になりました。昨年(2022年)4月からスタートしている自治体による管理計画認定制度や、マンション管理業協会によるマンション管理適正評価制度を利用する際にも、名簿の整備は求められています(名簿の整備については2022年春号をご参照ください)。さらに、迅速な復旧のためには、新築時からそれ以降の維持管理の状況がわかる図面を含む、建物の履歴情報が必要になります。これと併せて地盤情報についても整備しておくとよいでしょう。管理規約の整備、集会(総会)の開催と議事録の保管も、基本中の基本として求められています。
第三にコミュニティ、人と人とのつながりを強化すること。いざという時に助け合える関係づくりが必要です。そのために、防災訓練など全員参加型のイベントの開催は有効です。より多くの方に参加してもらうための広報の工夫、当日の運営、防災グッズを使用した炊き出し、人材の発掘、そして人々の交流から生まれる共助体制は、万が一のときの備えとして重要です。防災訓練を楽しく身近なものとして参加者を増やしていきましょう。
そのためにも、お住まいのマンションに合った防災マニュアルをつくりましょう。マニュアルの見本を参考に、お住まいのマンション向けにカスタマイズします。その支援として専門家の派遣がある自治体もあります。
●さらなる防災対策 -トイレ対策-
もう一歩踏み込んだ防災対策もみられます(※)。たとえば、停電・断水時のトイレ対策です。新宿区にある築30年、50戸程度のマンションでは、災害でマンションの共用設備が一旦停止した場合、どのような手順で復旧させることができるのかのマニュアルをつくり、全住戸に配付しています。
大規模な地震が起きた際に、トイレの汚水管に破損はないかをどのようにして調べればよいか、停電・断水の間は水は流せないがどうすればよいか、簡易トイレや携帯トイレには限りがある……といったことに備えることにしたのです。
管理組合が自ら排水管の状態をチェックし、停電・断水で流せる水がない場合に、受水槽の水を利用して一時的な流水を確保しようというものです。
そのために、次の①~③にチャレンジしました。
①市販の簡易検査具を使ってトイレの汚水管の状態を調べる。
②受水槽内の水を市販の非常用給水装置で給水する。
③実験的に行った①②の結果を踏まえてマニュアルを作り、誰でも対応できるようにする。
想定以上に大変なものでしたが、居住者が一丸となって取り組みました。マニュアルを見れば、ひとたび水が止まったときのトイレ用水の確保のために何をすればよいのかがイメージしやすくなり、各自が対応しやすくなりました。また、必要なツールや工具などを誰が見てもわかるように、マニュアルには図や画像を数多く載せるなどの工夫をしています。
(※)一般社団法人 マンション管理業協会主催のマンション・バリューアップ・アワード2022「防災・防犯部門」部門賞 受賞事例
https://innovationforum.jp/2022/sho_top22/sho209/
●最後に
安心・安全な暮らしとは与えられるものではなく、住み手自らが構築していくものです。まさに、防災は誰もが求めている取り組みです。ですから関心も高くなっています。このほかにも、自主防災組織の設立、地震保険の加入、水害対策などがあります。各々のマンションに合った方法で、さらに一歩進めた防災対策にぜひとも取り組んでほしいと思います。
また、東日本大震災からの教訓として2011年秋号も併せてお読みいただけるとうれしいです。
齊藤 広子
横浜市立大学国際教養学部不動産マネジメント論担当教授。工学博士、学術博士、不動産学博士。
著書に『新・マンション管理の実務と法律』(共著・日本加除出版)、『不動産学部で学ぶマンション管理』(鹿島出版会)、『これから価値が上がる住宅地』(学芸出版社)、『初めて学ぶ不動産学』(市ヶ谷出版)、『住環境マネジメント〜住宅地の価値をつくる〜』(学芸出版社)など多数。