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  • 2022.01.04掲載

所有者不明住戸への対応

横浜市立大学国際教養学部教授 齊藤広子

 301号室の山田さん、一人暮らしだったよな。かなり会っていない気がするけれど、どうしているのかな……。子供さんがいたような気がするけれど、その姿も長い間見ていないな。集合ポストの名前は山田のままなので、転居されたわけではないみたいだし……。マンションって、意外にご近所の人の暮らしがみえないものだな。隣のご主人が亡くなっていること3カ月も知らなかった。なにか自分の将来を考えると、不安だな……。


●所有者不明住戸

 マンションで、所有者の所在不明・連絡先不通の住戸、いわゆる所有者不明住戸の存在が問題になっています。平成30年度マンション総合調査によりますと、3カ月以上空き家となっている住戸(平均2.7%)の内、これに該当する住戸はないというマンションは31.4%、該当する住戸が20%を超えているというマンションが2.2%あり、平均では4.7%となっています。所有者不明住戸は、単純に古いマンションに多いわけではないのです。まだ、築10年ほどのマンションでもその割合が20%を超えているところもあります<下表参照>。管理組合の対応の仕方が影響しているのでしょうね。

<表>

※画像クリックで拡大

平成30年度マンション総合調査結果

●所有者不明住戸の存在が管理や再生に影響

 所有者不明であるということは、管理費や修繕積立金が未払いのままであり、管理組合としては金銭的な負担が大きくなります。また、総会への出席も、委任状・議決権行使書の提出もなされません。総会の決議にあたっては全区分所有者の数を分母とするため、所有者不明住戸が増えると大事な物事が決められなくなるということにもなります。さらに、理事のなり手が少なくなります。加えて、住戸に居住者がいないことから、大規模修繕工事の際に住戸に入っての作業に協力を得られない、水漏れなどの緊急時の対応ができない、排水管の清掃が行えない等の問題も生じます。
 将来、マンションを建て替える際には、全区分所有者の数が分母となり、5分の4以上の賛成が必要となります。所有者不明住戸があると、この合意形成が困難になります。また、建て替えせず、建物を解体し敷地を売却しようとする場合、耐震性が低い、あるいは外壁落下の危険性があるといったような、建物が傷んで近隣や地域に迷惑をかける可能性があるマンションについては、全区分所有者の5分の4以上の賛成が必要となり、それ以外のマンションでは全員合意が必要です。ゆえに、所有者不明住戸が存在するということは、マンションの再生にも大きな影響が出てくるのです。