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  • 2019.10.01掲載

地域との連携

横浜市立大学国際教養学部教授 齊藤広子

③ マンションと行政
 災害時に近隣に寄与するマンションとなることで、行政からの支援が受けられるケースがあります。例えば、荒川区の「災害時地域貢献建築物の認定・助成制度」(表-1)では、認定を受けることで、災害時に必要な物資の購入に区が補助をしています。また、マンションの集会室が補助避難所として指定されることで、各種情報や救援物資が得られる体制を取りやすくなることがあります。地元自治体との連携を深め、より安心できる体制をつくることもできるのです。また、自治体からの補助金で、コミュニティカフェを敷地内に建設したマンションもあります〈写真3.4〉。

〈写真3.4〉横浜市の団地再生支援モデル事業を利用して、集会所を増築。カフェ運営委員会で運営。

表-1 災害時地域貢献建築物の認定・助成制度(荒川区)

【目的】
日頃から自主的に地震等の災害に備え、自己の安全の確保に努める「自助」と、相互に協力して地域の安全確保に努める「共助」による震災対策を促進するとともに、水害時に近隣住民の一時の避難先となる建物を
「災害時地域貢献建築物」として認定することにより、地域防災力の向上を図っています。

■認定対象となる建築物の要件
・新耐震基準(昭和56年6月1日施行)を満たしている建築物
・5階建て以上かつ延床面積1,000平方メートル以上の建築物

■認定基準
・町会への加入又は自治会の設立をしていること
・地域と連携して活動する態勢を構築していること
・緊急時に近隣住民が建物内に避難することについて、所有者等の相当数が同意していること
・緊急時における円滑な避難ができるように、建物の出入口の円滑な解錠が可能であること
・近隣住民の見やすい場所に、認定プレートを掲示する意思があること

■認定を受けた建物への助成
地域住民及び災害時における避難者の防災対策のために必要な防災資機材の購入経費の2分の1を補助
(上限50万円)
[助成対象資機材]
エンジンカッター、チェーンソー、ジャッキ、担架、AED、発動発電機、投光器、毛布、寝袋、バーナー、
大型鍋、トランシーバー、簡易トイレ、保存食、保存水など

④ マンションと大学
 マンションと大学の連携も生まれています。高齢化が進んだ団地やマンションに、大学生がシェアで居住する事例があります。築年数が経ち、高齢者が多い団地やマンションでは、エレベーターのない5階や4階は人気がありませんでした。そこへの学生の居住です。学生の入居にあたり、マンション居住者の中から「世話役」を決め、近隣に迷惑をかけることのないよう注意したり、マンションのイベントへの積極的な参加を呼び掛けたりしています。こうした仕組みづくりに、地元自治体が関与する事例もあります。また、団地やマンション内での空き店舗を使い、学生と住民による地域拠点としてのカフェの運営もあり、親許を離れた学生にとってマンション居住者は家族のような存在になっています。
 そのほかにも大学との連携には色々な可能性があります。教職員・学生による健康運動講座、留学生による異文化体験、留学生のホームステイの受け入れ、日本の文化を学ぶ会など、多様な取り組みがあります。
 私の研究室でも空き家を活用した地域拠点を運営していました〈写真5.6〉。はじめは地域の人に見向きもされませんでしたが、3か月ほど経つと地域の皆さんが立ち寄ってくれるようになり、おしゃべりをしたり、学生との交流を楽しんでくれました。大学の地域貢献というよりも、学生・教職員が地域から学ばせていただいたといえるかもしれません。

〈写真5.6〉空き家でカフェの運営。その庭を利用してマルシェを開催(横浜市立大学)。

 また、大学近くのマンションでエレベーターの取り換え工事が行われ、エレベーターが使えない期間に、希望者に管理事務所からご自宅まで荷物をお届けする学生による有償ボランティアの申し出をしたことがありました。地域と大学が多様な形でつながれば、お互いに助け合い、学び合いができるのではないかと思います。

 地域にある色々な力をつなげば、マンション内だけでは解決できなかったことにも新たな道が開けるのではないでしょうか。ぜひ、大学も含めた地域との連携を実践してほしいと思います。
 また、マンションライフ総合支援サイト「マンションのWa」にも素敵な事例が紹介されていますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。



【マンションライフ総合支援サイト「マンションのWa」で紹介している参考事例】

●「地域防災に貢献したい」 住民の意思で津波避難ビルとなったマンション
https://mansion-wa.com/community/article/num1146.html
●周辺施設と協力し、郵便ポストと横断歩道の設置に成功!
https://mansion-wa.com/community/article/num1177.html
●再開発で誕生した高層マンションが、下町に活気を取り戻す
https://mansion-wa.com/community/article/num1165.html
●町会と連携を図り、合同防災訓練を開催
https://mansion-wa.com/community/article/num1184.html
●区との協働でマンションと地域の環境を守る!
https://mansion-wa.com/community/article/num1299.html
●周辺地域と共に町の“防犯力”を高める
https://mansion-wa.com/community/article/num1274.html
●防災に強いマンションが主導!官民の協力で街全体に“共助”の輪を広げる
https://mansion-wa.com/community/article/num1361.html
●都心のマンションで、地域を巻き込んだコンサートと文化祭を開催
https://mansion-wa.com/community/article/num1444.html




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齊藤 広子 Profile
齊藤 広子
横浜市立大学国際教養学部不動産マネジメント論担当教授。工学博士、学術博士、不動産学博士。

専門は住まい学、住環境管理学、 居住のための不動産学。研究テーマは、マンションの管理、住宅地の住環境マネジメント。日本マンション学会研究奨励賞、都市住宅学会論文賞、日本不動産学会業績賞、日本不動産学会著作賞、不動産協会優秀著作奨励賞、日本建築学会賞、都市景観大賞優秀賞、グッドデザイン賞等受賞。
著書に『新・マンション管理の実務と法律』(共著・日本加除出版)、『不動産学部で学ぶマンション管理』(鹿島出版会)、『これから価値が上がる住宅地』(学芸出版社)、『初めて学ぶ不動産学』(市ヶ谷出版)、『住環境マネジメント〜住宅地の価値をつくる〜』(学芸出版社)など多数。