- 連載
- マンガで事例研究
- 2019.07.01掲載
ホーホケキョ。ホーホケキョ。
鶯だな。マンションに住んでいて鶯の声が聞こえるなんて、なんて贅沢なんだ。それに花がいっぱい! 豊かだ……。
春には桜、花モクレン、ゆきやなぎ、すみれ、たんぽぽ、芝桜、チューリップ、ツツジ、すずらん、バラ、藤、梅雨には紫陽花、花しょうぶ、ゆり、夏にはヒマワリ、夾竹桃、秋にはコスモス、ヒガンバナ、金木犀、冬には椿、ぼけ……本当に1年中花がいっぱいだ。
でも、誰だ! 桜の木の下で花見をしたやつは。花見はいいけれど、ゴミが散乱しているじゃないか。
●マンションの庭
マンションの庭は素敵ですね。大きな庭や小さな庭とさまざまですが、いずれも築年数が経つほど植物が育ち、緑が豊かになっていきます。新録の季節は、きらきら光る太陽と、それにこたえる木の葉に元気をいっぱいもらいます。そして、季節ごとに咲く花々には、その季節の到来を告げてもらっているようで清々しい気持ちになります。1軒家ではこんなに多くの木々や花々を楽しむことは難しく、マンションならではの豊かさを感じます。
マンションの庭は住民みんなの敷地、みんなで利用しているところです。ですから、各自が勝手に木を植えたり、切ったりすることはできません。
みんなの庭だからこそ、みんなで楽しみたいですね。
●植栽の剪定や庭の手入れ
樹木が大きくなると、マンションの中で「木を切ってほしい」「木は切らないで」といった紛争になることがあります。低層階の人は、樹木が大きくなると日が当たりにくくなるから早く切ってほしいという意見になり、一方で高層階の人は、どんどん大きくなってほしいという思いから、切らないでという意見になったり……。
樹木にとっても生育上の問題が生じる場合もあるので、住民の意見は大事ですが、専門家の意見も聞くなどして、マンション全体で植栽の剪定の方針や計画を決めるようにしましょう。
通常、植栽の管理は専門業者(以下「業者」)に委託することが多くなっています。その際、高木の剪定などは、業者に依頼することになりますが、住民ができる手入れは、専門家のアドバイスの下、自分たちで行うということも考えてみてはいかがでしょうか。自分たちが手を掛けることで、愛着が湧いてくるだけではなく、防犯性の高まりやコミュニティ形成にも大きく寄与すると思います。自分たちで手入れをしているところに見知らぬ人がいれば、「何かご用事ですか?」「どこかお探しですか?」などと自然と声掛けするようになるのではないでしょうか。もし、泥棒に入ろうとしていた者がいたとしたら、「このマンションは住民の目が行き届いたマンションだからムリだ」ということになるでしょう。また、こうした手入れを住民参加で行っているマンションでは、住民がお互いに顔を知る機会が増えることで、災害時の共助にも良い影響をもたらしています。
●植栽管理方法の見直し
植栽の管理方法を見直し、美観を保つだけでなく、住民が元気に楽しく暮らせるようになったマンションでお話をお伺いしました。
伺ったのは、東京都八王子市にある約350戸のマンションです。2010年に入居が始まり、5年で植栽が枯れ始めました。その後、枯れているところはそのままで、ただ単に剪定だけをしていました。何とかしなければ……と思いながらも手付かずのままになっていましたが、ようやく植栽業者を代えることにし、管理会社のサポートの下、数社にプレゼンテーションをしてもらいました。各社が提案した委託業務費用の金額には開きがありましたが、その中から選定したのは金額が一番安かった業者ではなく、魅力あるプランを提示した業者でした。魅力あるプランとは、植栽を使ったイベントが計画されていたことです。その体制づくりに、管理組合では植栽委員会を設立しました。
植栽の植え替えは、選定された業者だけでなく、住民も約40名が参加し、専門家のアドバイスを受けながら中庭をハーブ園に生まれ変わらせました。何の植栽かしら?と皆さんに関心を持ってもらえるように、ハーブの説明や効能を掲示し、ハーブティを飲む会などのイベントを実施したところ、荒れていた庭がいまではコミュニティ形成の場になっています。
この事例では、住民の手で敷地内の植栽を植え替えることで、住民が植栽に関心を持つようになりました。必要があれば植栽業者も理事会に参加して、都度説明をしています。また、植栽業者のサポートを受けることで、現状維持型の庭ではなく、価値創造型の庭になっています。さらに、植栽業者に出張サービスをしてもらい、各住戸で育てる花や野菜などの植え付けの相談や販売等も行われています。こうして、いままで見向きもされなかった中庭が、人々の交流の場となり、交流の機会を生み出し、マンションの居住価値の向上につながっています。まさに、住民の主体的な取り組みと適切な管理会社のサポートによるものといえるでしょう。