- 連載
- マンガで事例研究
- 2017.07.03掲載
●誰が管理者に?
「うちのマンションでは、管理者を選出したことないな。だから管理者はいないのではないかな?」と考えている人がいるかもしれません。そんな方は、マンションの管理規約を見てください。多くのマンションではあらかじめ、規約の中で、管理者が設定されているのです。
マンション標準管理規約でその規定の部分を見てみましょう。
38条に「理事長は、区分所有法に定める管理者とする」とあります。ですから、理事の長が、法律でいう管理者となっていることが多くなっています(下表)。
管理組合 法人でない組合 合計 |
理事長 | 理事長以外 の区分 所有者 |
管理者を 選任して いない |
マンション 管理業者 |
分譲業者 | マンション 管理士 |
その他 | 不明 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
全体 | 1,891 | 1,668 | 8 | 18 | 107 | 2 | - | 4 | 84 |
比率(%) | 100 | 88.2 | 0.4 | 1.0 | 5.7 | 0.1 | - | 0.2 | 4.4 |
国土交通省 平成25年度マンション総合調査より
法律では、「理事長にしなさい」と決めているわけではないので、区分所有者以外の専門家を活用する場合もあります。また、管理者は個人でも法人でもよく、1人とは限らないこともあります。なお、管理組合法人の場合は管理者は選びません。
●管理者はマンションのために必要な制度
マンションで大きな事故が起こり、共用部分に掛けていた保険を使って修繕をしようとした場合に、以前はトラブルが起こりがちでした。「俺は別に修繕してもらわなくてよいから、その分を金でくれよ」と言い出す人もいて、また、こうしたことが法的に可能だったのです。みんなが勝手にそんなことを言い出したら、全体の修繕をする費用が足りなくなり、いざというときにマンションの修繕ができなくなってしまいます。マンションを代表して管理者が保険金を受け取り、修繕する費用にまわすことができなかったのです。そこで、2002年に区分所有法が改正され、管理者の権限を拡充して明確にしました。また、共用部分等について生じた損害賠償金や、不当利得による返還金の請求や受領についても、区分所有者を代理する権限を管理者が持つことができるようになったのです。さらに、2002年以前は、マンションで問題が起こった時に、管理組合として理事長が代表して裁判しようとしても、「管理組合、そして管理者には裁判する権利はありません」という裁判の門前払いもありましたが、改正以後は、管理者が裁判で当事者となることも可能となりました。しかし、各マンションで管理者がこうした権利を持つかどうかは、規約や集会で決めることになりますので注意してください。
こうして、日常的には、管理者という言葉をあまり耳にしませんが、管理者という制度は、マンションをみんなで管理するためになくてはならないものなのです。そして、多くのマンションでは区分所有者の代表として、理事長さんがなっていると思います。まさに、理事長さんは大変なお仕事を引き受けてくださっているのです。ですから、みなさん、マンションに暮らす上でのマナーをきちんと守り、理事長さんに協力するようにしましょう。
齊藤 広子
横浜市立大学国際総合科学部まちづくりコース不動産マネジメント論担当教授。工学博士、学術博士、不動産学博士。
(一社)マンション管理業協会「マンションいい話コンテスト審査委員会」委員長
著書に『新・マンション管理の実務と法律』(共著・日本加除出版)、『不動産学部で学ぶマンション管理』(鹿島出版会)、『これから価値が上がる住宅地』(学芸出版社)、『住まいと建築のための不動産学入門』(市ヶ谷出版)、『住環境マネジメント〜住宅地の価値をつくる〜』(学芸出版社)など多数。