- 連載
- マンガで事例研究
- 2015.01.05掲載
◆賃借人が周りに迷惑をかける場合
万が一、周りに迷惑をかける賃借人がいた場合に管理組合はどうすればよいのでしょうか。住戸の所有者である家主(借りている人からみれば家主、あるいは賃貸借契約上は賃貸人)は賃貸借契約違反とし、契約解除ができます。しかし、家主が対処しない場合に、管理組合は直接、この居住者に「やめろ」、あまりにもひどい場合は「出ていけ」と言うことができます。区分所有法では、マンションでは共同の利益に反する人、その居住者が区分所有者の場合には損害賠償請求あるいは差止め請求ができます。また、その居住者が賃借人の場合には総会の決議によって、マンションからの転居を求めることができます。
しかし、この規定は厳しいものなので、いつでも使えるわけではありません。問題を解決するには退去してもらうしかないという客観的要件と、かつ区分所有者の特別多数決議が必要であり、集会で区分所有者及び議決権数の各4分の3以上の賛成を得なければなりません。また、当該区分所有者や占有者の弁明を事前に受ける必要があることを区分所有法で規定しています。
◆賃借人を追い出した事例
では、本当に賃借人が管理組合から「出ていけ!」と言われたケースがあるのでしょうか?
こうした事例がありました。
事例1
住戸を借りて住んでいた暴力団組長のところに、組関係者が出入りし、他暴力団との抗争問題もあって他の居住者にボディーチェックをする、あるいは、からかうなどの行為がありました。また、ベランダに鳩小屋を設置する、駐車場を無断で使用するなどのルール違反行為が多数あったことから、管理組合は、賃借人である暴力団組長と賃貸人である区分所有者に組長の退去を求め、認められました。
判例紹介:マンション管理センター通信1990年11月号・判例のひろば1 より
横浜地方裁判所 昭和61年1月29日、 東京高等裁判所 昭和61年11月17日、最高裁判所 昭和62年7月17日
事例2
ある宗教団体が住戸を借りて利用していたことから、マンション住民に不安や恐怖を与えるなどして、「共同の利益に反する行為」として、管理組合は集会の決議に基づき、賃貸借関係の解除および退去明け渡しを求め、認められる判決が出ました。
大阪高判 平成10年12月17日 判時1678号89ページ
◆賃借人にも管理の説明を
こうした事例のように賃借人の退去が認められるケースがあります。でも、かなりひどい特別なケースですよね。ですから大事なことは、問題が起こらないように、借りて住む人にもマンションの中のルールをしっかりと理解してもらうようにすることです。もちろん、それは家主や不動産業者の仕事ですが、管理組合としても、マンションに賃借人が入居するときにはしっかりと「管理規約」「使用細則」「入居のしおり」などをご案内する仕組みを作っておくことも考える必要があります。ルールを知らなかったということが原因として多くあるからです。
マンションに新たに入ってくる方に、例えばマンション内の居住ルールなどが記載されているウエルカムパックをお渡しするなど、マンションの管理や住まい方のルールに関心を持ってもらいましょう。
齊藤 広子
明海大学不動産学部教授。工学博士、学術博士。
(一社)マンション管理業協会「マンション2025ビジョン懇話会」座長
著書に『不動産学部で学ぶマンション管理』(鹿島出版会)、『これから価値が上がる住宅地』(学芸出版社)、『住まいと建築のための不動産学入門』(市ヶ谷出版)、『住環境マネジメント〜住宅地の価値をつくる〜』(学芸出版社)など多数。