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弁護士 篠原みち子先生のマンション管理お役立ちコーナー

【相談事例 目次】

相談事例

当マンションは、竣工より4年が経過していますが、バルコニー側サッシの網入りガラスに自然にひび割れが生じてしまった住居(1室)の区分所有者から管理組合に対して、ガラス交換の要望が寄せられました。交換費用は、管理組合と区分所有者のどちらになりますか。
なお、規約は、マンション標準管理規約に準拠しています。

篠原先生の回答

標準管理規約では、「窓枠及び窓ガラスは専有部分に含まれないものとする。」と定め、窓ガラスを共用部分としていますが、各住戸の区分所有者が専ら使用する部分として専用使用権が付与されています。そして、専用使用部分の管理のうち、通常の使用に伴うものについては、その専用使用権を有するものがその責任と負担でこれを行うとしています(第7条第2項第3号、第14条第1項、第21条第1項ただし書)。
相談内容では、ひび割れの原因がはっきりしないものの、竣工から4年で、しかも1室のみで網入りガラスに自然にひび割れが生じたようですから、標準管理規約コメントにある窓ガラスが割れたときの入れ替えとして、専用使用権を有する区分所有者の費用負担で行うことになります。

【参考】

標準管理規約 第7条 (専有部分の範囲)
2.前項の専有部分を他から区分する構造物の帰属については、次のとおりとする。  
三 窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする。
標準管理規約 第14条 (バルコニー等の専用使用権)
区分所有者は、別表第4に掲げるバルコニー、玄関扉、窓枠、窓ガラス、一階に面する庭及び屋上テラス(以下この条、第21条第1項及び別表第4において「バルコニー等」という。)について、同表に掲げるとおり、専用使用権を有することを承認する。
標準管理規約 第21条 (敷地及び共用部分等の管理)  
敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。ただし、バルコニー等の管理のうち、通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなければならない。
標準管理規約コメント 第21条関係
②バルコニー等の管理のうち、管理組合がその責任と負担で行わなければならないのは、計画修繕等である。  
③本条ただし書の「通常の使用に伴う」管理とは、バルコニーの清掃や窓ガラスが割れた時の入れ替え等である。

相談事例

地震の影響により、各住戸に設置されている多くの電気温水器が破損しました。理事会では管理組合の費用負担で修理したいという意見も出ていますが、管理組合としてどのように対応すべきでしょうか。

篠原先生の回答

各戸に設置されている電気温水器は、専有部分の設備になりますので、地震で破損したものであっても、その修理、交換等については、各区分所有者の責任と負担で行わなければなりません。共用部分の維持管理のために徴収される管理費等を専有部分の修理等のために使用することはできないからです。
地震で、しかも多数の住戸で電気温水器の破損があったことから管理組合の費用負担で、という意見が出たのでしょうが、破損しない住戸もあれば、破損の程度も住戸によって異なっているでしょう。このような場合に管理組合の費用負担で修理等を行なうことは、組合員毎に享受する利益に不公平が生ずることにもなり、組合員全員に合理的な説明を行うことができません。
なお、管理組合としては、地震で電気温水器が破損した状況を組合員に対して速やかに案内を行うとともに、不適切な固定方法等のまま放置されていないかどうかを自主点検等で確認するように注意喚起するなどの配慮をすることも大切です。

【参考】

東日本大震災では、住宅に設置されていた電気温水器等の給湯設備について、アンカーボルトの緊結不十分等により、多数の転倒や破損が見られました。これを受けて、国土交通省より、平成23年9月に「電気温水器等の転倒防止処置について」注意喚起が行われ、さらに平成24年12月に「建築設備の構造耐力上安全な構造方法を定めた告示」(平成12年建設省告示第1388号)が改正され、電気温水器だけでなく、ガス、石油も含めた全ての給湯設備について転倒防止基準が明確化されました。
○一般社団法人日本冷凍空調工業会 一般社団法人日本電気工業会
給湯設備(電気温水器、貯湯ユニット等)の転倒防止対策に関する告示の改正について
http://www.jraia.or.jp/product/heatpump/leaflet.pdf pdf

相談事例

一部の居住者よりバルコニーからのタバコの投げ捨てや受動喫煙による健康被害の苦情が理事会に寄せられているため、理事会では、バルコニーでの喫煙を全面禁止することを検討しています。普通決議で総会に付議し、使用細則を変更することでよいですか。
なお、規約は、マンション標準管理規約に準拠しています。

篠原先生の回答

敷地及び共用部分等は、それぞれの「通常の用法」に従って使用しなければなりませんし、「通常の用法」の具体的内容は、使用細則で定めることができます。例えば、 「自転車は、1階の○○に置きます、それ以外の場所に置いてはいけません」などです。このような使用細則の変更は、総会の普通決議で行うことができます(標準管理規約第13条、及び標準管理規約コメント 第13条関係)。
では、バルコニーでの喫煙禁止も「通常の用法」の具体的内容の1つとして総会の普通決議で定めることができるか否か、ということですが、喫煙は個人の趣味・嗜好であり個人の自由に委ねられるものであること、「バルコニーに重量物を置いてはならない」などというバルコニーの物理的な使用方法とは異なること等を理由に反対する人もいるでしょう。しかし、タバコの煙が喫煙者のみならず周辺で煙を吸い込む者の健康にも悪影響を及ぼす恐れがあること、一般的にタバコの煙を嫌う者が多くいること、喫煙場所を限定するビルや施設がかなり多くなっていること等は公知の事実です。それにバルコニーでの喫煙禁止は、言い換えれば「バルコニーを喫煙場所として使用してはならない。」ということであって、個人の趣味・嗜好を制限しているわけではありません。したがって、総会の普通決議により使用細則を変更し、バルコニーでの喫煙禁止を定めることができると考えてよいと思います。
なお、喫煙者からは強い反対も予想されるので、管理組合としては、アンケート等で組合員の意向を充分に確認した上で、慎重に検討を進めるなど丁寧な対応が望まれます。

【参考】

標準管理規約 第13条 (敷地及び共用部分の用法)
区分所有者は、敷地及び共用部分等をそれぞれの通常の用法に従って使用しなければならない。
標準管理規約コメント 第13条関係
「通常の用法」の具体的内容は、使用細則で定めることとする。  例えば、「自転車は、1階の○○に置きます。それ以外の場所に置いてはいけません。」

相談事例

全住戸にインターネット常時接続サービスを提供しているマンションで、管理規約で利用の有無に拘らずインターネット利用料金として一律月額2,000円の支払い義務を定めていますが、店舗の区分所有者が、インターネットサービスは使わないので利用料を払わないと主張しています。理事会としては、どのように対応したらよいですか。

篠原先生の回答

全住戸にインターネット常時接続サービスが提供されているということですから、本体であるインターネット設備が存在するわけですし、それ自体は附属施設ということになります。したがって、この維持管理に要する費用は、当然、区分所有者が一律に負担しなければなりませんが、それ以外の個人による利用料まで一律に負担しなければならないのか、というのが相談内容における問題です。これを法律的にいうと、店舗の区分所有者は「利用の有無に拘らず一律に利用料の支払義務を課した管理規約は、区分所有者間の利害の衡平が図られていないから無効である(区分所有法第30条第3項)。」ということを主張しているものと思われます。
この点については、同様の事例につき、平成24年11月14日の広島地裁の判例がありますので参考にして下さい。
裁判所は、主に以下の3つの理由を述べ、一律に2,835円の利用料を定めた管理規約は無効であるとまではいえないとして、インターネットを利用していない区分所有者に対し、支払義務を認めました。
  1. ①インターネットサービスが全戸に一律に提供されていることはマンションの資産価値の維持ないし増大に資するものといえ、その観点から、各区分所有者は、利用の有無に係らずその費用支出による利益を受けている。
  2. ②インターネットの利用の有無を考慮して戸別に利用料金を定めると戸別に利用状況を確認する必要が生じ、インターネット設備の保守、管理費用と接続そのものに要する費用を分けて各戸が負担すべき費用を算出しなければならいが、そのためのコストの問題を回避する意味でも、利用料金を一律に徴収する旨を定めることは一定の合理性がある。
  3. ③規約に定めるインターネット料金は、接続回線契約に要する費用だけでなく、設備の保守、管理に要する費用も含まれていることからすれば、利用していない区分所有者にとってみても、不相当に高額であるとはいえない。
理事会としては、上記の判例等を参考に当該区分所有者に説明し理解を求めるような対応もひとつの方法ではないでしょうか。

【参考】

区分所有法 第30条 (規約事項)
  1. 1 建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。
  2. 2 一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。
  3. 3 前2項に規定する規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定められなければならない。
広島地裁  平成24年11月14日 平24(レ)150号 ・ 平24(レ)169号 pdf
 (出典:ウエストロー・ジャパン)

相談事例

マンション敷地内プレイロットの子供向け遊具に不具合が生じたため、業者に修理見積を依頼しましたが、その際に、遊具が現在の安全基準を満たしておらず修理しても危険性が残ることが判明しました。理事会で遊具の撤去を検討していますが、これを行うためには総会の決議を要しますか。

篠原先生の回答

プレイロットの子供向け遊具は、マンションの附属施設であり、区分所有者全員の共有物ですから、これを撤去するに当たっては、理事会決議だけでは足りず、総会の決議が必要です。特別決議を要するのか、それとも普通決議でよいのかは、遊具の設置状況、設置規模等にもよるので、ケースバイケースで判断するほかありません。
相談内容では、遊具が現在の安全基準を満たしていないということですから、事故の危険性もあるでしょう。緊急の対応をするため、総会決議に先がけて、まずは理事長主導で安全対策を講じることも必要になります。
具体的には、以下の流れで対応することが考えられます。
①遊具を撤去するまでの間の事故を防止するため、遊具の周囲をロープで囲って立入禁止の表示を行う。
②掲示等で遊具の不具合および危険性について広報し、周知を図る。
③臨時総会を開催し、遊具の安全基準について報告を行うとともに、その撤去につい て審議する。