- 連載
- 建築家によるリフォーム紹介
- 2013年冬号
私はこれまで、新築マンションのデザイン監修者として複数のディベロッパーに対し、数多くのデザイン提案を行ってきました。そしてこの度、そのノウハウをリノベーション事業で発揮するべく、「一棟まるごとリノベーション」の共用部デザインをさせていただきました。ここでは、その時に感じた「新築と異なる魅力」をお話したいと思います。
「一棟まるごとリノベーション」ですから当然新築とは異なり、既に存在する建物に対しデザインを行うわけですが、実際に既存の建物をみると、そこには新築分譲マンションとして現代の世に生み出される集合住宅に、当たり前にあるはずのものがないことに気づきます。それはセキュリティであったり、バリアフリーであったり、さらに言えば現代のセンスにあった外観のデザイン性だとか、コミュニティを生み出す共用空間など様々ですが、それらはすべて新たに「付加」することで補うことが可能でした。それらの面に限っていえば「新築同様の魅力」を得ることができると言えるでしょう。私がお話ししたいリノベーションにより生まれ変わる建物の価値としての「新築と異なる魅力」とは、もともと分譲マンションとしてではない、他の用途として計画された建物のプランニングと、そのプランに対して新たに計画される建築的な付加価値にあります。
◆既存プランニングが大きな魅力のリノベーション
愛知県名古屋市に計画された本件はもともとある企業の社宅として、平成7年に総戸数26 戸でつくられました。事業収支が重要な計画ではなかったことと、バブル崩壊以前の豊かな時代背景もあり、住戸間口、面積の豊かさはいうまでもなく、自走式駐車場やトランクルーム、中庭、屋上テラスといった、住人の生活を豊かにするアイテムがプランニングされていました。このことは、現在の経済背景においてこの地に新築マンションを計画したとしても、事業採算性に合わせた販売床面積の確保や、経済効率性を重要視した駐車設備の計画など、様々な面で難しいだろうと思います。
もちろん、その魅力をさらに引き出すため、自走式駐車場にはセキュリティのためのシャッターゲートを新たに用意したり、バリアフリーのためにスロープを計画したりといった利便性の向上を行いました。中庭は、老朽化していた滑り台やシーソーを取り除き、住人達が集い憩えるウッドデッキスペースや大型のテーブル、子ども達が自由に遊びを発想できるリズミカルな「だんだん壁」を配置しました。もともとの魅力がさらに向上され、生まれ変わります。そう、まさにこのプランニングの豊かさこそ、リノベーションならではの「新築と異なる魅力」だと思います。
◆発想の転換が新たな魅力を生む
「新築と異なる魅力」といううえでもう一ついえることは、リノベーションの本来の意義ともいえる、既存の状況を生かしたものづくりにあります。例えば本件では、風除室がなく沿道と共用廊下は一枚の扉で仕切られているだけでした。セキュリティ計画上エントランスホールに新たに風除室と集合玄関機を設けて部外者が入って来ることができるエリアを限定しようとした際、どうしても沿道側の接地階住戸への動線が確保できませんでした。そこで発想を転換し、接地階住戸にはそれぞれ独立したアプローチを計画し、玄関と沿道の間には専用のアルコーブ空間を設え、可能な限り専用駐車場も計画しました。もともと沿道に対し無防備であり、新たな住み手にとってもマイナスイメージになりがちな沿道側接地階住戸は、「駐車場付き専用庭のあるバリアフリー住戸」として生まれかわることになりました。こうした、既存建物の状況に応じたそこにしかない空間づくりもリノベージョンならではの魅力といえるでしょう。こうして出来上がった本物件では、ある種画一的になりがちな集合住宅の計画とは一線を画し、住戸によってそれぞれに異なった共用部との関わりをもちます。専用庭、専用駐車場を持つ住戸や、コミュニティーの生まれる中庭に面する住戸、傾斜地という立地を活かし見晴らしのよい住戸や、駐車場からバリアフリーでアクセスできる住戸など、各住戸にそれぞれ異なった特色をもつことになりました。
改めてこうした取り組みを振り返ってみると、建築計画において、何もないところから計画される新築の集合住宅と、既にあるものをリノベーションして生まれ変わる集合住宅とは、そのプロセスの違いからまったく別のものなのかもしれません。だからこそ、まったく異なる魅力をもっているのだと思います。
株式会社 南條設計室 主任 岡崎 徹(Okazaki Toru)