- 連載
- 建築家によるリフォーム紹介
- 2012年秋号
震災以降、人々の意識が「安心・安全」に向かう中、新築マンションでは当然の安心・安全を中古マンションにおいても実現するため、「安全性の確保」、「非常時の備え」、「安心できるコミュニティの創出」、「環境配慮の実現」をテーマにリノベーション事業を推進しています。堅固な建物としてのマンションへの評価も再認識され、防災意識やコミュニティ意識の高まりと相俟って集合住宅としてのマンションの価値が見直されています。
共用部分のリノベーションといっても、エントランス廻り、外構、屋上など活用できるスペースは限られます。デベロッパーに求められている品質確保や環境配慮といったモノづくりのベースに、刷新感やバリューアップという付加価値をつけた事例を紹介いたします。
◆環境と防災をポイントに施工した事例
使われていない屋上に太陽光発電のパネルを設置して共用部の電灯電力を賄うことで自然エネルギーの活用と管理費を低減させるほか、蓄電池と接続することで微少ながら停電時には入居者に対して配電できるようにしました。情報通信ツールとして欠かすことのできなくなった携帯電話程度であれば複数の方が十分に充電できる電源を確保しています。また、建物内のトイレが使用不能になった時に備えマンホールトイレを装備。他には、手動式の非常用浄水器を設置し貯水槽等の水源と結ぶことで浄水を確保するなどの防災備品の充実を図りました。その他、救援物資を備蓄し、非常食の確保は居住者各自が行うように啓蒙するだけでなく、居住者全員の1日分の非常食を備蓄し、万が一の事態に備えています。
◆コミュニティ活動のための空間を提案
居住者間の繋がりを豊かにするため、共用部に語らいのためのウッドベンチを設置し、隣人同士の心地良いコミュニケーションが育まれる空間を提案しています。以前は照明が薄暗くほとんど使用されていなかった集会室は、優しいイメージの内装に更新し、居住者専用のキッチンを設置して夏のお祭りやクリスマス会などイベントの時に使用できるようコミュニティルームとして刷新しました。また、古いマンションによってはセキュリティラインが確保されておらず、コミュニティが守られていないことも多いため、外構フェンスを外周に廻し、合わせて緑化することで不審者の侵入排除と周辺への環境配慮を行っています。
安心できるコミュニティの創出の一例としては、1階住戸の窓先に駐輪場が設置されていたスペースを、プライバシーに配慮して専用庭に設え直した事例もあります。
◆環境配慮の観点からリノベーション
外構の緑化計画において清掃面に配慮した落葉しない常緑樹の採用だけではなく、四季の季節感を感じてもらうためにあえて落葉樹を植栽しています。春には新緑が、秋には紅葉が感じられるイロハモミジをシンボルツリーに採用するなど、憩いの空間を演出しています。また、無機質な共用廊下にはポッドを設置し、心安らげる色とりどりの花々を植栽するようにしました。そうした取り組みにより、居住者同士が憩い、語らい、自然と挨拶をするような空間づくりを行っています。
資産価値を向上させるリノベーションと謳うたうからには、建物・共用部の品質を維持というハード面だけでなく、マンション管理やアフターサービスといったソフト面の充実も欠かせません。安心・安全が住まいの重要な要素となった現在、ハードとソフトをいかに取り込み融合させ、居住者の満足感に繋げていくかが、最重要課題といって過言ではありません。
佐々木 ゆかり (Sasaki Yukari)
(株)リクルートコスモス(現(株)コスモスイニシア)にて、分譲マンションの企画開発に携わる。
2008年より(株)サンケイビルで住宅事業を推進。リノベーション事業は、同社の開発理念である「環境との共生」に合致する事業として、2010 年より本格参入。既存建物を壊すのではなく活かしながら、専有部はもちろん共有部をトータルに刷新し、建物全体の付加価値を高めている。女性ならではの細やかな視点で、毎日の暮らしを快適にするキッチンや洗面所などの水回りや家事動線を考え、世代を超えて永く住める安心で快適な住まいづくりに取り組んでいる。