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  • 2012年夏号

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欧米に比べ、日本の住宅は「買ったあとの投資」が少ないといわれています。共用部分のリノベーションは、居住者同士の結びつきを強くし、マンションを長持ちさせることにもつながります。これは、「ものを大事にする」という時代のニーズにとても合っています。今回は使えるところはそのまま残し、改修すべきところは改修したマンションの事例を紹介します。

当社では平成22年から一棟まるごとリノベーションマンションを手掛けてきました。これは、主に大手企業の社宅を買い取り、専有部分を改修して快適性を高めるだけでなく、共有部分にも改修を施して、建物の資産価値を向上させる取り組みです。

リノベーションを開始するにあたって大切なのは、建物の調査・検査をきちんと行うことです。自社で行うのはもちろんですが、第三者の専門業者にも調査・検査を依頼し、見えない部分の経年変化や耐久性を調べます。例えば、鉄筋探査機で配筋を調査したり、ファイバーカメラを使って給排水管の状態を検査したりして、修繕すべき箇所・修繕が不要な箇所を見極めていきます。

そして、単なる大規模修繕にとどまらず、さらに安全で快適なマンション生活を送っていただくための新たな共用設備を工夫し、リノベーションを施していきます。

◆一棟まるごとリノベーションの魅力

マンションを一棟まるごとリノベーションする魅力は、一戸ごとの専有部はもちろんですが、共用部の機能性や安全性、そしてデザインも一新できる点にあります。

リノベーションで最も違いを感じていただけるのが、エントランス部分の改修です。壁や床のタイルを張り替え、資産としてのマンションに相応しい価値を付加していきます。

また、古い社宅や集合住宅では、現在の分譲マンションには標準のセキュリティシステムを完備していないケースが多くあります。そこで、新たに集合玄関機やオートロックシステムを設置するなど、セキュリティ機能を高めることもポイントとなります。

実際にリノベーションの例を紹介していきましょう。

◆共用部リノベーションの事例①

事例1の築18年の社宅では、それまでなかったエントランスの門扉を設け、オートロックと集合玄関機を新たに設置しました。エントランスの壁と床はタイルを張り替え、宅配ボックスも新設しています。外構を整備し、外壁のタイルも高圧洗浄したことで、新築マンションのような仕上がりとなっています。

◆共用部リノベーションの事例②

事例2はエントランスホールのタイルを張り替えた例です。薄暗かったエントランスホールが、明るく高級感ある空間に生まれ変わりました。エントランスの奥には、風除室を設け、オートロックと集合玄関機を設置しています。新たに管理員室も設置しましたので、防犯性も大きく向上しました。

このように、味気なかったエントランスホールもリノベーションを施すことで大きくイメージが変わります。ソファセットを置き花をしつらえれば、さらに優雅な空間に生まれ変わることでしょう。共用部分のリノベーションは、マンション全体の資産価値を高めるバリューアップ工事にほかなりません。

◆万が一の災害に備え、防災備蓄庫を設置②

東日本大震災をきっかけに、万が一に備えて水や食料などの防災備蓄品を準備し、防災マニュアルを作成するマンションが増えています。

当社では「災害時に自立できるマンション」をコンセプトに、共用部の一部を「防災備蓄倉庫」に改修する取り組みを始めています。例えば、トランクルームやエントランスホールの一部を「防災備蓄倉庫」にすれば、個々の家庭では保管しにくい大型の防災品を保管しておくことができます。

「防災備蓄倉庫」には、災害対策本部にもなる大型テントや発電機・投光器、五右衛門風呂、リヤカー、かまど兼用ベンチ、仮設トイレなどを用意します。災害時にできるだけ普段と変わらない生活を送れるよう、数を揃えておきたいものです。

マンションによっては、飲料水を確保するための受水槽の利用や、放射線測定器、高圧洗浄器を備えることも考えられます。どのような防災備蓄品が必要なのか、立地や地盤の固さなど、マンションの特性を考慮し準備することをおすすめします。

共用部分のリノベーションは住宅を長持ちさせるだけではなく、資産価値の向上にもつながります。大規模改修のタイミングで、改修すべきところは改修し、新たな価値を付加するリノベーションを検討してみてはいかがでしょうか。

Profile
株式会社リビングライフ ディベロップメント事業部
営業本部メディア推進課 課長
伊藤 道子 (Ito Michiko)

東北大学文学部卒新築マンション、宅地開発、リノベーション事業等の広告を担当。
リノベーションマンション『リリファ』シリーズ立ち上げ当初から、商品企画・ブランディングに携わる