- 連載
- 建築家によるリフォーム紹介
- 2012年冬号
築年数が古くなり、建築当初の物件コンセプトと今日のニーズにズレが生じていませんか?
マンションの価値を高めるために、共用部の顔であるエントランスをオシャレに改善してみてはいかがでしょうか。いわゆる今流は行やりの言葉、リノベーションですね!『リノベーション』という言葉は皆様耳にしたことがあるかと思いますが、『リフォーム』との違いはご存知でしょうか?
リフォームとは、原状回復のメンテナンスを基本に、物件価値を何とか新築時と同じように維持しようとすること。『修復』です。
リノベーションとは、今後の時代変化を考慮しながら、今までの空間に新たな価値を付け加え、今あるものを生まれ変わらせること。物件価値を高める『再生』です。
資産価値を上げるためには、古くなった建物をリフォームするだけではなく、何らかのリノベーションが必要となります。では、弊社で施工したエントランスにポイントを絞って、お話しさせて頂きます。
築年数が20〜30年の物件に多く見られる特徴が、オレンジや赤茶系のタイル。塗装の物件であれば、白やベージュの単色塗装が多いですね。
こちらの物件はエントランスが薄暗く古い印象を与えていました。そこでエントランスに重点を置いたリノベーションを行いました。壁に石調の建材を使用し、床はテラコッタ調タイルに貼り替え、現代的でオシャレな空間に仕上げております。植栽プランターも壁や床の色、素材感に合わせたものへと交換をしております。また、高齢者のためにスロープを設置いたしました。
オシャレというのは抽象的で感覚的な基準ですが、住まい選びの時、購入でも賃貸でも、女性の意見や感性を尊重されるご家庭は多いと思います。汚い=不快という、美観も快適性の一部として捉える反応は女性の方が敏感な傾向があるからかもしれません。マンションに住んでいる方で、お子様がいるご家庭では「ママ友達」というネットワークがあります。幼稚園からお子様を迎えに行った後、ママ友達とご自宅マンション前で立ち話…そこで、エントランスが、薄暗かったり、汚れていたり、劣化などしていたらとても印象が悪くなってしまいます。共用部にも、女性の好む清潔基準やファッション感覚の演出を用いることで、結果として男女偏りなくすべての人に好印象を持たれます。
ここで空間づくりのテクニックとして、色使いのお話をいたします。空間に使用する色は、
①ベースカラー( 基調色)、
②アソートカラー(配合色)、
③アクセントカラー(強調色)
の3つに分けることができます。ベースカラーは全体の約70%を占める基本の色で、床・壁や天井などの色のことです。全体のイメージに大きな影響を与えるので、高彩度の色は避け、なじみやすい低彩度の色を選びます。アソートカラーは全体の約25%を占め、ベースカラーの特徴を高めたり、変化をつけたりする色をいいます。そして、アクセントカラーは全体の約5%を占め、ベースカラーを主とする全体の色調に対して、目立つ色を用いることで、全体を引き締め、変化や動きを創り出す役割を持ちます。
この手法は、ご自宅のお部屋にも使えるテクニックですので、是非試してみてください。ソファに置くクッションにアクセントカラーを入れると、急にセンスよく印象が変わったりします。失敗も少なく気軽に挑戦できますよ!
ア
クセントカラーをラインとして使うテクニックもあります。
縦や横に延びる線の視覚的効果を活用すると、広さや高さの印象を変化させることができます。
ここでは、色を変えたボーダー建材を使用し、奥行き感を演出しています。
経年の印象が否めないマンションの場合は、特にカラーコーディネートを考慮した見直しをお勧めします。
時代にあった配色にすることにより、まるで新築の印象に『再生』できるのです。
次の物件では、建材のご紹介をいたします。
エントランスを含め壁面に採用した建材は、超軽量の天然石調シート。
大理石やインド砂岩の気品ある質感で、色やデザインのバリエーションがたくさんあります。
本石とは異なり、厚さが2~3㎜のシート建材ですので、曲面にも貼れる特性があります。また、軽量で既存躯体に負担を掛けません。建物に負担をかけずに石調の質感にイメージを一新することができます。タイルでも塗装でも既存の壁の上に簡単に施工することができるので、下地を剥がす工程や産業廃棄物処分の費用などを削減、工期短縮も利点です。
また、作業時に騒音、振動、粉塵、臭いが少なく、人への配慮でも優れた面を持ちます。そのため居住者のいるマンションには最適な建材で、保育園や病院のリノベーションにも採用しています。
最後に…。
これからは建物本体だけではなく、ランドスケープを含めたリノベーションが求められてきています。
ランドスケープとは、地面の起伏や植栽から、人の目線や動線をデザインすることです。最近では、自然の色彩で春夏秋冬の訪れをうたったものや、森の中の邸宅をコンセプトにした新築マンションも増えてきています。
これからの大規模修繕のタイミングに、敷地内の見直しや近隣環境とのバランスにも目を向けてみてはいかがでしょうか。
株式会社朝日リビング リフォームプランナー
鈴木 祐美子 (Suzuki Yumiko)
優秀なリノベーション作品を選ぶ社内表彰で、全国18拠点・年間約3,000棟の施工物件の中から入社以来5年連続で社長賞を受賞。
女性の視点からの建物内外装プランニング、敷地内全体のリノベーションをテーマにしたリフォーム・セミナー講師も務める。