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  • 2012年秋号

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明海大学不動産学部教授 齊藤広子

◆イベントばかりしても……

夏休みには子供のために夏祭りもしたし、防災の日には防災訓練、正直、くたびれたよ……。そろそろお正月に向けての餅つき大会。こんなことしても何か良いことあるのかな?

◆誰も知らなくて不安な暮らし

マンションでお互いが安心して暮らすには相互に誰が住んでいるかわかることが大事ですね。エレベーターの中で知らない人に会って、エレベーター降りたら、ずっと私をつけてくる。つけられているの? 怖いわ!と思ったら、隣の人だった……ということありませんか?

え? 水が止まっているの? 管理員さんもいないし、テレビをつけても私がどうすればよいかの情報なんてくれないし……。いつになれば水が出るのかしら? どこにいけば今、水が手に入るのかしら?

このマンション内に誰か知り合いがいればな……と、こんな寂しく不安な思いをしたことがありませんか(正直、私はあります)。

◆イベントと内容とその効果

マンションの中のイベントにはさまざまな効果をみることができます。

では、マンションでどの程度どんなイベントを実施しているのでしょうか。私も係わった国土交通省の調査結果[※1]を見てみましょう。

マンションでイベント等実施していないところは約4割で、6割のマンションではなんらかのイベントを実施しています。年間2~5 回程度が多くなっています。まったく実施していないマンションは比較的規模の小さいマンションが多いです。一方、イベントの回数が多いのは、戸数の多い大規模なマンションです。

イベントとして多いものは防災活動、次は清掃活動、そして夏祭り、餅つき大会などですが、ちょっと、マンションの規模や形態によって違っています。

効果として、居住者間のトラブルが減少した、イベントを通じて管理組合の役員の担い手を発掘した総会・理事会での合意形成が円滑になった、防犯・防災活動が活発になったなど、マンションの多様な側面から安心して暮らすことに寄与しています。

◆イベントを実施する時に

マンションでイベント等を行う際にコミュニティ形成のためにどんなことを工夫しているのでしょうか。

●日頃イベントに参加しにくい人が防災訓練に参加してくれた場合、避難はしご降りで活躍をしてもらいます。それはマンション内で役割を持つことがコミュニティの第一歩と考えているから。こうしたことの積み重ねで、上下階の音の問題がなくなったとの報告があります。

●超高層マンションで身近なコミュニティを大切にしましょう。そこで、フロアごとの食事会やちょっとしたイベントでいざという時に助け合える仲間作りを。あちらこちらで、フロアごとやブロックごとの住民交流会がみられます。

●マンションの上下の音によるトラブルを予防するために、上下階の人が顔を知る機会をつくり、たてコミュニティの形成をめざします。そのために、防犯活動は1階段室20戸を単位に、年1回の見回りを実施します。なお、20戸という単位は大事です。私の研究でも、20戸を超えると相互の認知能力が大幅に低下すること、仲間意識が低下することがわかりました。

●広報誌をうまく利用することもあります。赤ちゃん誕生、わが家の一品料理など、女性の目線からの情報で、マンション内の情報がやさしく伝わってきます。

●あいさつ運動で、車上荒らしや泥棒が減ったとの報告もあります。

●年に1回、マンション居住者で食事会をします。毎年幹事が近くの素敵な店を探し出し、どこで何を食べるのか、楽しみな行事になっています。

●打ち水大会をし、川柳大会ではまわりの人はこんなことを考えているのかとふっとおかしくなりました、など。

イベントには、単発で行うイベント・行事系、継続的に行うサークル系があります。また、イベント系でも防災活動、防犯活動などの危機管理回避型、スポーツや音楽、祭り、展示等の楽しみ方もさまざまです。

ぜひ、自分のマンションに合ったイベントをしていただければと思います。

◆管理組合の仕事なの?

マナー向上のためにお互いを知る機会を! さて、こうした活動は管理組合がすべきことでしょうかとの質問を受けます。もちろん、マンションで自治会等がある場合には自治会が担当します。管理組合は、それに協力することもあります。しかし、あまり大きなマンションでない場合は、なかなか2つの組織をつくれず、管理組合がコミュニティ育成の活動を行うことがあります。

◆自治会との関係を明確に

気をつけてほしいこととして管理組合と、町内会や自治会との関係があります。町内会や自治会は、居住者のための任意参加の組織です。こうした組織への加入を強制的に行う、あるいはこうした組織の活動に管理費の一部を充当するなどは、裁判になると必ずしも認められていません[※2]。

ですから、2つの組織の違いを理解し、各マンションにあった方法で、イベント等のコミュニティ活動に取り組んでいきましょう。


*1 全国のマンション約1000に協力いただいた調査結果。「マンションの適正な維持管理に向けたコミュニティ 形成に関する研究報告」平成22年
*2 「東京簡易裁判所 平成19年8月7日判決」および「東京高判平成19年9月9・20判例集未掲載、パークシティ溝口事件」等
Profile
齊藤 広子
明海大学不動産学部教授。工学博士、学術博士。
(一社)マンション管理業協会「マンション長寿命化協議会」座長

専門は住まい学、住環境管理学、 居住のための不動産学。研究テーマは、マンションの管理、住宅地の住 環境マネジメント。日本マンション学会研究奨励賞、都市住宅学会論文 賞、日本不動産学会業績賞、日本不動産学会著作賞、不動産協会優秀著 作奨励賞、日本建築学会賞等受賞。
著書に『不動産学部で学ぶマンション管理』(鹿島出版会)、『これから価 値が上る住宅地』(学芸出版社)、『住まいと建築のための不動産学入門』 (市ヶ谷出版)、『住環境マネジメント〜住宅地の価値をつくる〜』(学芸出 版社)など多数。