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  • 2021.10.01掲載

監事って何?管理組合の監査とは?

横浜市立大学国際教養学部教授 齊藤広子

●監事には誰がなっている?専門家に依頼も可能?

 こんなに権限を持っている監事ですが、実際は誰がその職務を担っているのでしょうか。多くは、区分所有者が就任しており、外部専門家が監事に就任しているのは全体の0.4%となっています(*3)。監事に限らず、日本では管理組合の役員を区分所有者から選出することが多く、外部専門家の活用はごくわずかとなっています。
 確かに、専門家にお願いすると費用はかかりますが、第三者性、専門性をもって職務を果たしてもらえるといえます。
 ある管理組合の監事に就任しているマンション管理士の方にお話を伺いました。
「月1回の定例理事会に出席し、管理組合運営の業務監査をしています。半年に1回は会計監査をし、総会前にも業務監査と会計監査を行います。監査にあたっては、オリジナルのチェック項目に照らして監査しています。大事なことは、何のために何をチェックするかを明確にすることです。そして、管理組合にとって耳が痛いことでも、伝えるべきことをきちんと伝えています」とおっしゃっていました。監査する書類は、段ボール箱数箱にもなり、それらを1つ1つチェックしていくそうです。
 このように、管理組合にあっては、第三者の目、そして独立した専門家の目にさらされることで、知らぬ間に不正が発生してしまうような体質になることを防ぐことにもつながっています。また、専門的な視点から、将来起こりうる問題に対しての指摘もあり、管理組合運営のより健全な体質改善にもつながっています。

●管理組合運営や会計をチェックする体制を

 監事に専門家を活用しなくても、管理組合の運営や会計のチェック体制を強化する方法があります。管理組合、理事によるチェック体制を強化する方法を考えていきましょう。
 第一に、管理組合の役員の引き継ぎの際に、管理組合の業務や会計のチェック項目を作り、何がどうなっているのかを新旧役員全員でチェックしながら引き継ぐことです。例えば、「管理規約の原本はここにありますね」という目視を含めた確認です。「あります」という確認だけでは、どこにどんな状態であるのかがわからず、いざという時に困ってしまいます。
 第二に、監事に組合員が就くとしても、会計監査は、専門的知識のある人にお願いすることです。この場合には、標準管理規約第34条でいう「専門的知識を有する者の活用」となります(表-2)。こうした専門家の活用について、管理規約で規定されているかを確認しておくとよいでしょう。
 第三に、積極的な情報開示があります。例えば、「マンションみらいねっと」の活用です。みらいねっとでは、マンションの概要、管理組合の運営の仕方、会計、修繕の履歴、保管書類などの状態を誰もが一覧で見ることができます。管理組合は、公開する情報を更新するために、これらの情報を把握することになります。そして、情報を更新します。情報を公開するということで、内部の目もより厳しくなるのではないでしょうか。
 さらに、管理組合の自治体への届け出制度等が始まっています。また、マンション管理業協会の「マンション管理適正評価制度(令和4年4月運用開始予定)」(*4)では、管理組合の運営状態、建物・設備の維持管理状態を登録し、その評価結果に応じてインセンティブが付与されるといったことが想定されています。こうした機会を通じても、管理組合が自らの状態をチェックする体質を身に付けることができるのではないかと思います。

表-2 マンション標準管理規約第34条(専門的知識を有する者の活用)及び同条関係コメント、第35条(役員)

【各抜粋】
(専門的知識を有する者の活用)

第34条 管理組合は、マンション管理士その他マンション管理に関する各分野の専門的知識を有する者に
 対し、管理組合の運営その他マンションの管理に関し、相談したり、助言、指導その他の援助を求めたり
 することができる。
第33条及び第34条関係コメント
② 管理組合が支援を受けることが有用な専門的知識を有する者としては、マンション管理士のほか、
  マンションの権利・利用関係や建築技術に関する専門家である、弁護士、司法書士、建築士、
  行政書士、公認会計士、税理士等の国家資格取得者や、区分所有管理士、マンションリフォーム
  マネジャー等の民間資格取得者などが考えられる。
(役員)
第35条
2 理事及び監事は、総会の決議によって、組合員のうちから選任し、又は解任する。

●おしまいに

 監査は大事な仕事で、それを担う監事は管理組合になくてはならない職です。管理組合の運営に不正が生じないよう、特定の人に大事な監査を押し付けるのではなく、管理組合として、その状態をチェックし適正に運営できる体制を築いていきましょう。
 アメリカでは、一定の予算額以上の会計は専門家によるチェック、そして管理組合が3カ月に一度は、組合運営の管理費の収支明細の確認、積立金の収支、予算案と執行状況を比較し、確認・報告することを州法で義務付けている場合があります(*5)
 管理組合内のトラブルを避けるために、法律で監査の役割をより厳しく設定し、義務付けるという方法もありますが、それではますます管理組合の荷が重くなり、役員のなり手が減るかもしれません。また、「面倒なことは専門家に」と任せる前に、管理組合内でのチェック体制を、あなたのマンションにあった方法で確立することが必要ではないでしょうか。

(※3)平成30年度マンション総合調査結果より
    https://www.mlit.go.jp/common/001287645.pdf

(※4)マンション管理適正評価制度
    http://www.kanrikyo.or.jp/lp/evaluation/index.html

(※5)例えば、カリフォルニア州では、毎年、総額75,000ドル以上の収入かある組合の財政報告書は
    カリフォルニア州会計士局 (The CaliforniaState Board of Accountancy) に免許が与えられた
    人物により作成される必要がある(州法§5305)。
    https://core.ac.uk/download/pdf/35272994.pdf 等

参考資料
管理組合監査 主要項目チェックリスト
http://www.kanrikyo.or.jp/report/pdf/gyoumu/checklist+comment.pdf

管理組合監査関係資料
http://www.kanrikyo.or.jp/report/gyoumu.html




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齊藤 広子 Profile
齊藤 広子
横浜市立大学国際教養学部不動産マネジメント論担当教授。工学博士、学術博士、不動産学博士。

専門は住まい学、住環境管理学、 居住のための不動産学。研究テーマは、マンションの管理、住宅地の住環境マネジメント。日本マンション学会研究奨励賞、都市住宅学会論文賞、日本不動産学会業績賞、日本不動産学会著作賞、不動産協会優秀著作奨励賞、日本建築学会賞、都市景観大賞優秀賞、グッドデザイン賞等受賞。
著書に『新・マンション管理の実務と法律』(共著・日本加除出版)、『不動産学部で学ぶマンション管理』(鹿島出版会)、『これから価値が上がる住宅地』(学芸出版社)、『初めて学ぶ不動産学』(市ヶ谷出版)、『住環境マネジメント〜住宅地の価値をつくる〜』(学芸出版社)など多数。