- 連載
- マンガで事例研究
- 2021.07.01掲載
●人の老いへの対応
様々な人の老いへの対応として、管理組合の体制の見直しと再整備が必要です。
役員のなり手不足には区分所有者以外の人を役員に充てる、現地管理体制を強化し、理事の業務を減らすなどが考えられます。維持管理面では長期の視点に立ち、改修も視野に入れた計画修繕を当たり前に行っていくことです。生活面では、地域包括支援センターとの連携をはじめ、高齢者が参加できるイベントの実施、コミュニティカフェの運営、食事会、スポーツ・運動イベント等も行われています。
さらに、こんな取り組みをしているマンションもあります。
居住者の病院関係者・介護施設従業員等の協力を得て、高齢者見守り活動推進委員会を管理組合内に立ち上げ、居住者の健康状態把握アンケート、管理会社の協力のもと見守り希望者に対する管理員による毎朝の安否確認、介護や認知症問題、健康問題等をテーマとした勉強会の開催、認知症予防のために農園芸療法として、近郊の里山に150 坪の農地を借り受けて野菜を栽培、その野菜をマンション内で廉価に販売するなどを行っています。
このマンションでは、管理組合のこのような取り組みに、「高齢者の見守りは管理組合の基本的活動から逸脱している。これらは行政がやるべきものだ」との声がなかったわけではありません。しかし、理事会は、「管理組合は、住まう人々の命と健康を守ることが最大任務である。超高齢化社会が進むなかで、自らの努力で住みよい環境づくり、生き甲斐づくり、そしてなによりも一人住まいの高齢者の孤独死を出さない、老々介護での共倒れを無くす努力が求められている」と訴え、全員の理解を得たのです。
表-2 高齢者等見守り活動の基本的な考え方と行動指針の例(一部抜粋)
2 老々介護による共倒れを出さない。
3 寝たきりの長寿ではなく、健康で食事や近隣・友人のふれあいを楽しむ。
4 「小さな気付き」を見逃さず、重篤に至らない行動に繋ぐ。認知症状の初期発見。
5 家族緊急連絡簿を整備し、危機対応に対処する。
6 「公助」や「共助」に依存する前に、「自助」の努力を積み重ねる。
7 見守り活動を通じて人を思いやるやさしさの持てる人間形成に寄与する。
8 見守り活動は住民や役員間の信頼関係醸成のため、「広報活動」「諸行事の開催」「研修活動」等をする。
●高齢化による問題の予防・解消、そして誰にとっても住みよいマンションに
住み手の変化からマンションに、そして管理に求められることが変わってきています。高齢化が進行した場合には、「高齢者のため」だけではなく、マンションに住んでいる人みんなが快適に暮らすという視点に立ち、対応することが必要です。高齢者にとってのバリアを除く(バリアフリー)という考え方から、誰もが住みやすいというユニバーサルデザインへと変わることです。高齢者のためにと思って行ったバリアフリーは、ベビーカーにも優しいのです。高齢者の引きこもりを無くすためにはじめたコミュニティカフェには、子育てママ・パパ、そして元気な子どもたちもやって来ます。子どもたちがマンションの中で高齢者とふれあい、小さな役割をもつことで社会性を身に付けていくこともできます。人の高齢化への対応は、マンション内でどの組織が、どのような体制で行っていくのかをよく話し合い、理解を得て進めることが必要です。
超高齢社会の到来の中で、高齢者を特別なものとするのではなく、その存在を前提にした暮らし方や管理の方法が求められているといえます。こんな時だからこそ、身近なところで人々はつながり、助け合い、学び合うことが必要とされています。マンションでより安心して暮らせるように、高齢者も含め居住者がお互いに思いやり、顔が見える関係をつくっていきましょう。
参考資料
一般社団法人マンション管理業協会主催「マンション・バリューアップ・アワード2020」
マンションライフ・シニアライフ部門 部門賞『高齢者見守り活動と農園芸療法による認知症予防』
(高取台サンハイツ管理組合法人 日置一夫様)から学ばせていただきました。
齊藤 広子
横浜市立大学国際教養学部不動産マネジメント論担当教授。工学博士、学術博士、不動産学博士。
著書に『新・マンション管理の実務と法律』(共著・日本加除出版)、『不動産学部で学ぶマンション管理』(鹿島出版会)、『これから価値が上がる住宅地』(学芸出版社)、『初めて学ぶ不動産学』(市ヶ谷出版)、『住環境マネジメント〜住宅地の価値をつくる〜』(学芸出版社)など多数。