- 連載
- マンガで事例研究
- 2020.04.01掲載
●外部専門家としてマンション管理士が管理者に就任している事例
マンション管理士が管理者になっているマンションを訪ねてみました。都心部にある約50戸のマンションです。事務所などの利用が多く、区分所有者が利用したり居住しているのは3戸です。よって理事や理事長を引き受けてくれる人は少なく、第三者管理者方式を検討し始めました。管理会社は、事務管理業務、清掃業務、設備の点検などを行っています。マンション管理士が、管理会社の業務の見直し、理事会を廃止することに対応した規約案の作成、管理費の値上げなどの相談に乗り、総会を開き、区分所有者からの承認を得ました。この時点で、自分のマンションが理事の選出にこんなに困っていたことを初めて知った人も多くいました。
実際にどのように進めているのでしょうか。管理者は1年任期で、総会で選任・解任されます。理事はいませんが、区分所有者から監査人2人を選んでいます。管理の情報、とりわけ一年間の管理者の職務執行状況については、区分所有者が管理に無関心にならないように細かい部分に及ぶまで活字による説明を行ないます。法律や規約で管理組合の管理者業務として位置づけられている行為以外に、管理会社の業務遂行状況のチェック、管理組合の印鑑の保管、マンション管理会社及び関係周辺業者との打ち合わせ、区分所有者からの報告・連絡・相談への対応等を行っています。管理組合の通帳は管理会社が、印鑑は管理者が、そして現場では現金を取り扱わないようにしています。
管理・運営に関する重要事項は、必要に応じて、業者へのヒアリングなどを公開形式で行って総会に上程します。職務遂行上の過失によって管理組合に損害を与えた場合の補償の担保と補償能力の充実のために、マンション管理士本人が付保する「賠償責任保険」、一般社団法人日本マンション管理士会連合会が創設した「管理組合損害補償金給付制度」の利用のほか、管理組合とマンション管理士個人との業務委託契約であることから、業務の継続性を確保するために、マンション管理士が共同事業体となり、履行保証契約を締結しています。
こうして、管理組合・区分所有者のチェック体制、利益相反や金銭事故・財産毀損の防止、業務の質の向上、継続性の維持のための体制がとられています。
さらに、外部監査を置く事例、年に2~3回臨時総会を実施する事例、コールセンターや要望書・意見交換会を実施し、監査体制の強化、区分所有者の意見の把握に努めている事例もありました。
また、第三者管理者方式にすることで、管理組合運営上の責任関係が明確になること、専門的な知識を持つ人が運営を担い、質の向上が期待できること、管理組合運営の継続性が高まったとの意見があります。
●外部専門家の活用で気を付けること
外部専門家が管理者になったからといって、区分所有者や管理組合の管理の責任や役割がなくなるわけではありません。むしろ、区分所有者の管理への関心が低下しないような対応、また管理者の業務執行状況をしっかりとチェックすることがより重要になります。
第三者管理者方式に移行する場合、それに応じた規約の改正、費用の負担や役割を明確にする必要があります。外部管理者の選任・解任方法、欠格要件、チェック体制の構築(理事会に代わる監査機能の確保)、外部管理者の取引の健全性の確保(利益相反取引の排除等)、多額の金銭事故や財産毀損の防止、補償の担保と補償能力の充実、また個人の専門家が役員に就任する場合には、外部管理者の補欠ルールの明確化(継続性の確保)等が必要です。
そこで大事なことは、マンションの管理の現状を区分所有者で共有し、中・長期的な計画を立て、管理を進めることです。外部専門家を管理者にしている事例は全国で6.4%です(2018年度マンション総合調査結果)。まずは、外部専門家に管理のアドバイスや支援を受けること、理事の1人になってもらう、監事になってもらうなどの対応もあります。専門家をうまく活用し、快適なマンションライフにしていきましょう。
1人で悩んでいないで、マンションの問題をぜひ共有するようにしてください。
参考資料:
1. マンション標準管理規約
http://www.mlit.go.jp/common/001202416.pdf
2. 外部専門家の活用ガイドライン
http://www.mlit.go.jp/common/001189183.pdf
齊藤 広子
横浜市立大学国際教養学部不動産マネジメント論担当教授。工学博士、学術博士、不動産学博士。
著書に『新・マンション管理の実務と法律』(共著・日本加除出版)、『不動産学部で学ぶマンション管理』(鹿島出版会)、『これから価値が上がる住宅地』(学芸出版社)、『初めて学ぶ不動産学』(市ヶ谷出版)、『住環境マネジメント〜住宅地の価値をつくる〜』(学芸出版社)など多数。