- 連載
- マンガで事例研究
- 2016.07.04掲載
◆管理情報が開示されにくい理由
マンションを買いたいと思う人は、通常は、知りたいことがあれば不動産会社に訊ねます。売主側の不動産会社とは別に買主側の不動産会社がいる場合は、質問は、買主➡買主側の不動産会社➡売主側の不動産会社➡売主➡管理組合➡管理会社へといき、その回答が管理会社➡管理組合➡売主➡売主側の不動産会社➡買主側の不動産会社➡買主と、順に返ってくることになります。まさに長い道のりです。そして、管理の大事な情報は聞かれたからといって勝手には出せません。それは法律や契約に従って行われることになるからです。
①不動産会社は、宅地建物取引業法に従い、大事なことは契約に先立ち、重要事項説明で説明することになります。しかし、法律で、必ず説明しなさいという項目はそれほど多くありません。ですから、購入希望者にもっと多くの管理情報を開示するには、管理組合が事前に情報を開示する体制を整えるおく必要があります。
マンションに住むにあたって必要な管理情報
・駐車場の車種の制限、空き区画の有無・待ちの状態
・駐輪場やバイク置き場の有無や台数、使用料の変更予定
・修繕積立金会計、滞納総額、修繕の費用の変更予定
・管理費会計、管理費滞納総額、管理費用の変更予定
・管理委託の内容と管理員の勤務日や勤務時間
・長期修繕計画の有無や検討内容
・大規模修繕実施予定
・管理組合の名前、役員の数、役員の選び方、理事会の頻度
・自治会の有無、サークルやイベント、マンション内で提供
されるサービスの内容等
・敷地の権利の種類と内容
・共用部分の規約の内容
・専有部分の用途の利用の制限内容
(事務所禁止、ペット飼育禁止、フローリング禁止な
ど)
・専用使用やその使用料 ・特定人の管理費の減額等
・修繕費積立金総額、住戸の滞納額
・管理費の金額と滞納 ・管理委託業者
・過去の大規模修繕の実施
・石綿調査や、耐震診断調査の有無と内容
②不動産会社に聞かれても、管理組合は勝手に情報を開示できません。あらかじめ、管理規約のなかで、どのような情報を誰に、どんな場合に開示すると決めておく必要があります。また、情報を整理し、蓄積しておかないと、速やかに情報を開示できません。
管理規約での記載事例(標準管理規約単棟型第64条など 電磁的方法が利用可能な場合)
第64条 理事長は、会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその他の帳票類を、書面又は電磁的記録
により作成して保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面又は電磁的方法による請求があった
ときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を
指定することができる。
2 理事長は、長期修繕計画書、設計図書及び修繕等の履歴情報を、書面又は電磁的記録により保管し、
組合員又は利害関係人の理由を付した書面又は電磁的方法による請求があったときは、これらを閲覧さ
せなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
3 理事長は、閲覧の対象とされる管理組合の財務・管理に関する情報については、組合員又は利害関係
人の理由を付した書面又は電磁的方法による請求に基づき、当該請求をした者が求める情報を記入した
書面を交付し、又は当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。この場合に
おいて、理事長は、交付の相手方にその費用を負担させることができる。
4 電磁的記録により作成された書類等の閲覧については、議事録の閲覧に関する規定を準用する。
③管理会社も不動産会社から聞かれても、勝手に情報を開示できません。あらかじめ、管理組合と管理会社の間で、誰にどのような情報をどう開示するのかを管理委託契約書のなかで決めておく必要があります。
◆わがマンションの魅力を知ってもらうために
わがマンションの魅力を購入希望者などに知ってもらうことは大事です。その方法として、大きく2つの方法があります。
1つは、誰でも見られるようにマンションのホームページ(HP)をつくり、必要な情報を開示することがあります。マンション管理センターのマンションみらいネットを使うこともできます。登録したマンションは、マンションの概要、管理情報、会計情報、管理規約の内容、長期修繕計画の内容、修繕履歴、書類の保管状態等、計111項目を開示できます。この場合は誰でもインターネットで、マンションの管理情報を見ることができます(https://www.mirainet.org/index.php?m=common&a=search)。さらに、みらいネットはマンション内の情報の蓄積・共有のツールとして、管理組合内で電子化した組合内文書等が閲覧でき、図面を始めとした情報も蓄積しておけます。そして組合内・理事会内の掲示板機能もあります。
2つめの方法として、管理組合が(実際には管理会社がサポートすることになりますが)管理情報をほしい人に、ほしい時に、速やかに開示できる体制を整えておくことです。管理会社が管理に関する情報の概要を用意しておき、不動産会社からの依頼があれば管理情報をお渡しする方法です。標準管理規約の改正では、前記のような項目が例として示されています。
わがマンションを正しく理解して入居し、生活してもらうために、そしてしっかりと管理していることが正しく評価されるために、ぜひ、必要な管理情報を開示できるように体制を整えておきましょう。
齊藤 広子
横浜市立大学国際総合科学部まちづくりコース不動産マネジメント論担当教授。工学博士、学術博士、不動産学博士。
(一社)マンション管理業協会「マンションいい話コンテスト審査委員会」委員長
著書に『新・マンション管理の実務と法律』(共著・日本加除出版)、『不動産学部で学ぶマンション管理』(鹿島出版会)、『これから価値が上がる住宅地』(学芸出版社)、『住まいと建築のための不動産学入門』(市ヶ谷出版)、『住環境マネジメント〜住宅地の価値をつくる〜』(学芸出版社)など多数。