トップページ > 連載 > 長期修繕計画 > 資産価値を向上させる大規模修繕工事-その2- 設備編
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  • 2012年秋号

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(有)建物診断センター 澤田博一
(社)高層住宅管理業協会 マンション保全診断センター
資産価値の向上というと、誰もがすぐに流通価格の上昇を思い浮かべます。確かに、大規模修繕工事直後は中古価格が上がり、その上昇分は大規模修繕工事にかけた金額よりも高くなる例が多いようです。

しかし、現在の経済情勢では、そのまま上がり続けるということはほとんどありません。

むしろ、金銭では評価できない価値、すなわちそのマンションで生活する際の安心感や快適感をマンション全体の資産と捉え、それを向上させる取り組みが資産価値向上であると考えます。

第3回目は、目下関心を呼んでいる耐震や防犯、節電等を含む設備分野の改修事例を4項目取り上げます。

◆ポイント1 給水システム

ひと昔前の給水設備改修といえば、もっぱら赤水対策として鋼製の給水管をどうするかが主な検討課題でした。現在では、配管材や工法の進化により、錆びる心配のない樹脂管やステンレス管により共用部給水管を取り替えられるようになってきました。また、専有部の給水配管も錆びない樹脂管を使って、将来も取り替えやすいさや管ヘッダー工法で改修すれば、たびたび高額の更生または更新費用をかけて鋼管の修繕をする必要がなくなっています。

さらに、高架水槽や受水槽の維持管理費用削減や、水槽に貯水することによる水質の低下を防ぐため、従来の給水システムを見直して水道本管からの直結給水方式へ変更を検討するマンションが増えています。ただ、給水事業体(地方自治体)の許可基準がまちまちで、戸数(引き込み管の口径)や立地(周辺の給水本管埋設事情)による制限がありますから、事前に十分な打ち合わせが欠かせません。
階数が高いマンションへは、水道本管の圧力だけでは水圧が不足するため、増圧ポンプを介して給水する、直結増圧給水方式となります。その増圧ポンプユニットも年々性能が向上し、設置スペースや消費電力が少なく、作動音も静かな製品が普及しています。

写真1は実際にあるマンションの外壁面に増圧ポンプユニットを設置した例です(カバーを外し内部を見せている状態)。なお、この事例では、敷地内埋設給水管の更新に併せて給水方式の変更を行いました。

◆ポイント2 エレベーター

東日本大震災により、耐震改修が注目されていますが、防犯や省エネの改修もあります。
●防犯改修 防犯用監視カメラ設置
エレベーターホールやかご内の天井にカメラを設置し、状況を管理事務室でモニター、CDなどに記録する。内外扉を、防犯用窓ガラス付きのものへ取り替え、密室化を避ける。
●省エネ改修
巻き上げモーターをインバーターマイコン制御方式に替え、消費電力の削減を計る(インバーター制御では、乗り心地や運行速度も改善される)。
●防災改修
①戸開走行保護装置の導入(挟まれ事故防止)
②地震時管制運転装置の導入
地震発生時に初期微動(P波)を検知し、いち早く自動的に運転中のエレベーターを最寄り階に停止させる。
③主要機器耐震補強措置の実施
機器の転倒・移動防止やロープの外れ、おもりの脱落防止など7項目の耐震構造強化を施す。写真2は、準撤去方式で以上の改修を行った事例で、かご内の高齢者身障者対策も併せて実施した事例です。

◆ポイント3 電気設備

電気料金の値上げによる管理コスト増の影響を、何とか少なくする方法が提案されています。

ひとつは電気会社の所有する変圧器から小分けに各戸や共用部に分岐する従来の借室方式を改め、マンションの財産として変圧器を自己所有し、単価の安い高圧で電力会社から電気を買う方式です。

実際には戸別の電気料金を集め電力会社に支払う徴収業務や、自己所有の変圧器をメンテナンスする費用がかかりますが、それらの業務を一括して請け負う会社も現れています。その会社の試算によれば、電気料金は概ね2割程度縮減できるとされていますが、その方式へ変更するには全戸の同意が必要となり、そちらのハードルの方が高いのではと思われます。

ふたつめの例は、従来のブレーカーを高性能の電子ブレーカーに替え、契約電力量を小さくして基本料金を下げる方法です。

マンションにはさまざまな設備がついていますが、新築時の設定では、すべての電気設備を同時に稼働させた状態での電気使用量を目安として契約電力量としています。
ところが、すべての電気設備が同時に動くことはむしろ希まれで、実際に同時に動いている設備の電力量を想定してブレーカーの容量を下げ、基本料金を下げる方式となっています。

万一想定以上の電気設備が使用されても、許容以上の負荷に対して一定時間はブレーカーが落ちないように安全側に設計されています。ただ、無条件にすべての事例に採用できるとばかりはいえませんので、採用に際しては十分事前に検討してください。

最後に、節電対策として最も多く語られるのは、照明器具の管球の間引きやLED化です。場所ごとに照度の目安がJISにより定められていますので、管理会社から照度計を借りて測定してみることをお勧めします。明るすぎるロビーは少し暗くしてもよいでしょう。LEDも蛍光灯型が普及してきましたが、まだ高いので従来のものと比較し、経済効果やCO2削減効果を検討のうえ、採用の是非を判断してください。

◆ポイント4 防犯設備

新築マンションでは、オートロックや防犯カメラの設置がむしろ当たり前となっていますが、既存マンションに新たに設ける場合には、設置場所や配線経路、メンテナンス方法など検討する課題が多くあります。

また、ソフト面でも防犯カメラの映像情報の管理などに留意が必要です。新たにオートロックを採用する場合には、各戸のインターホンと管理事務所などに設置する制御盤、さらに自動ドアと集合玄関機を電気配線する必要があり、特に映像情報をやり取りして解錠するシステムの場合は、既存の配線スペースでは納まりきらず、新たにケースなどでカバーして露出配管せざるをえない事例が多くあります。

また、駐車場側の出入りをどこで区画するか、メールコーナー(集合郵便受け箱)の位置を移動させなければならないのかなど検討が必要です。

防犯カメラの設置場所については、エレベーター廻りを先に述べましたが、屋外駐車場やゴミ置き場、見通しの悪い屋外階段出入り口などが考えられます。屋外照明(防犯灯)の増設や適切な照度の確保などと連携して行えば、効果がより上がります。


澤田 博一 (Sawada Hirokazu)

1952年東京都杉並区生まれ。
設計事務所、マンション管理会社勤務を経て、1987年マンションの建物診断・修繕設計監理・長期修繕計画の作成などを行う建物診断センターを開設、1998年法人化。
一級建築士・宅地建物取引主任者・マンション管理士。
執筆やセミナー講師などの活動他、(財)マンション管理センターの評議員や(社)高層住宅管理業協会の各種委員会委員を務める。