調査・研究

マンション管理事務室における現金のカード決済化推進支援事業の結果の公表

5.本事業の結果のまとめ

 ここからは事業を終えての結果と、その過程で見えてきた共通課題と個別の課題を整理し、解決に向けた方策を検討する。

 下表は、事業期間終了後の対応状況を一覧にしたもので、2件は継続利用、1件は終了という結果となった。

 このように、マンションごとに取扱い費目や取扱い金額が異なるため、費用対効果まで考えると、利便性が向上するという理由だけでは簡単に導入できるものではないということが窺える。

 また、管理業務を受託している管理会社の体制や方針にも左右される要素が含まれていることがわかる。

 ここからは、今後の課題となるような内容を中心に、「準備面」、「手続面」、「コスト面」、「運用面」に分類する。

 以上のような課題があることが浮き彫りになった。

 管理会社の努力で解決できる内容があれば、サービス事業者のサービス自体の改修を要するような内容もあり、それぞれ対応策を検討する必要があると考えられる。

 それでは、課題解決のためにどのような取り組みが必要となるかをまとめた。

 電子決済のメリット・デメリットについて、今回の実証でわかったことと世間一般に認識されている情報をあわせると以下のようになる。

 上記①「端末によりブランドの対応・非対応がある」については、本事業で協力いただいたサービス事業者においても、下表のとおりそれぞれ異なる。

 電子マネーに関しては、交通系と流通系に大きく分類され、交通系はSuicaに代表される全国の交通系電子マネーが網羅されているが、流通系に関しては、取扱いが細分化されている。例えば、イオン系のWAON、セブンアンドアイ系のnanacoなどは、マンションの近傍に日常的に買い物をする店舗があるかないかで、カードの保有率も大きくかわってくる。できればエリアを考慮して事業者を選択したい。

 また、決済端末の導入方式(買取り、レンタル)や、決済手数料の設定(定額部分、従量部分)も各社様々となっている。そのため、マンションごとの取扱い金額や使用予定期間などを考慮した検討が必要となる。

 今後も次々と便利なサービスが提供されて、キャッシュレス化が益々進んでいくことは間違いない。テクノロジーもサービス内容も日進月歩、目まぐるしく変化していく分野なので、比較的短いスパンで見直しをしていくことも求められる。

 三菱UFJニコスの資料は、過去からこの先に向けた見通しを示すものだが、紙・プラスチックカードから、スマートフォン・NFC・QRコード等の新たなインターフェースの時代へ移っていくと予想されている。マンションでは常に最先端の設備を備える必要はないものの、利用者のニーズや利便性を意識した選択が大切であるといえる。

 今回取り上げた電子決済サービスは、利便性の向上、収納事務の効率化、未収金の低減や滞納督促の負担軽減のための一つのツールとなりえることがわかった。そして、その機能を有効に活用するためには、マンションごとの特性や慣習、居住者のニーズを踏まえたマッチングが重要となる。今回の実証では、②と③のマンションで、実証終了後の対応が全く違う結果になった。②は、電子決済が仕組みやコスト面でマッチしたことで継続することになった事例といえる。

 マンションの場合は小売事業者と異なり、電子決済の導入が売上げ増につながるものではないので、普及のためにはコスト負担の課題の解決を含めたマンション向け決済サービスの提供が有効であり期待されることと考えられる。

 更には、現金を撤廃できるかどうかがポイントとなる。電子決済を導入しても、現金の取扱いが併存すれば大きな効率化にはつながらず、現金毀損リスクもゼロにはならない。完全なキャッシュレスを実現するためには、管理組合・居住者の理解が欠かせないし、管理会社の協力も必要となる。

 また配慮しなければならないのは、電子決済の手段を持たない方もまだまだいるということである。無人レジを設置する店も増えており、あるレストランでは会計での「現金お断り」の実験を行っているが、賛否さまざまな意見がある。マンションでキャッシュレス化を進める際は、居住者への情報提供、アンケートや意見交換会などのプロセスを経て、より多くの居住者の理解を得ることが望まれる。

 基本に立ち返れば、管理室で収納した費用を確実に管理組合の口座に入金することが肝であり、キャッシュレス化の方策として、電子決済のみに頼らず、複数の選択肢を視野に入れて取り組むことが重要といえる。先に触れたように、代替手段の一つとして、管理費等とあわせて口座振替する「加算請求」があり、既に取り入れている管理組合・管理会社もある。この「加算請求」の仕組みは、システム構築されてサービスとして提供している事例(つなぐネットコミュニケーションズ㈱「部屋づけ君」など)もある。(6.添付資料参照)。

 いずれにしても、管理組合、居住者のニーズにあわせた、サービスの導入や展開が必要になる。

 本事業のような試行によりマンションごとの適否を判断できればよいが、全てのマンションにおいて試験導入することは難しいため、参考材料として今回の実証事例から得たデータをご活用いただきたい。

 当協会としては、本事業で得た知見を活かして、マンション管理においても引き続きキャッシュレス化に向けて取り組んでいくことが重要であるという認識である。本事業の成果をマンション管理に携わる皆さまと共有して、全国の管理会社とともに情報やサービスの提供に努め、健全なマンション管理組合運営、そしてマンション居住者のよりよいマンションライフの補助・支援に努めていくことが大切と考える。

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